第十五話 お転婆娘と気弱な少年
外の景色を眺めて、10分ほど経った所で馬車がゆっくりと停止する。間もなくして、馬車の扉が開く。
「アミル様、到着しました。」
扉を開けたジリアが一礼をすると、アミルだけを呼んだ。
「アミル、ここからは一人で行くことになるけど大丈夫か?」
このことは、あらかじめ馬車の中で二人から説明された。なにも、神定式は教会の人間、数人と10歳になる子供しか、参加することができないという決まりらしい。
そのため、ワイアットとソニアが付き添えるのは、ここまでだと。式は、長時間に渡って行われるため、二人は式が終わるまでスレイガルの町を観光するらしい。
「うん!大丈夫だよ!」
席から立ち上がり、準備を行う。準備といっても特に持っていく物もないため、服装の乱れがないかの確認だけする。
「見てあげるから、あっち向いて。」
服の前面を自分で確認し終わると、ソニアに肩を持たれて半回転する。
「アミルが望む神定武器が授かれるといいわね。」
ソニアが服の背面を確認し終わると、背中に頭を付けてそう呟いた。
「うん!・・・じゃあ、行ってきます。」
数秒間、ソニアに背中を預けた後、振り返ってソニアとワイアットに挨拶をする。
「「行ってらっしゃい!!」」
ワイアットとソニアは、手を振りながら、アミルを送り出す。それを聞いて、アミルはジリアにこけないように手を貸してもらいながら、馬車を降りた。
「おおお~~~」
馬車の窓から見えていたが、いざ降りてみると式場となる教会は、城と見間違えるくらい立派な建物だ。思わず口を開けて、見上げてしまう。
「アミル様。私は、教会の中に入ることは出来ませんが、入り口までご同行させて頂きます。」
「ありがとうございます!」
教会の入り口までは、20段ほどの階段がある。ジリアと一緒にその階段を登る。階段を登っているのは、勿論アミルだけではない。アミルと同じ神定服を着た子供が何人も教会の階段を上っている。
「どんな、武器を授かれるんだろうね。」
「さぁぁ。でも、俺は絶対、剣だな!」
「神定武器は、神様が決める。俺たちの希望なんて通らないぞ。」
数段先に同じように、教会に向かう3人の子供の話し声が聞こえてくる。気の弱そうな子に気の強いリーダー的な子、反抗期なのか少しひねくれた子の3人組がいる。
「それでは、アミル様。式が終わるころにまた、お迎えにあがりますので。失礼します。」
階段を登りきるとジリアは、アミルにそう言って一礼する。
「分かりました。ありがとうございます。」
アミルは、ジリアに一礼を返す。頭を上げるとジリアは、軽く微笑んで登ってきた階段を下り始めた。
「さてと、さっさと受付済ませて、中に入れてもらお。」
季節は、冬真っ只中。雪こそ降ってはいないがそれでも風は冷たい。それに神定服は、耐寒性がクソ過ぎる。風の冷たさをもろに受けてしまう。
教会の入り口の手前には、立派な支柱が何本も建てられており、いつしか教科書で見たローマの神殿のようだ。そして、その支柱の間で受付をしている神官やシスターの姿がある。
「は~い。神定式の受付を済ませたいない子は、ここに並んでくださ~い。」
神官やシスターたちは、子供たちを一列に並べさせている。
「新型のスマホ、買いに行った時となんか既視感があるな。」
行列に並んでいると、現世での事を思い出す。そう。あれも寒い冬の日だった。新型のAnnaroidを買うために、朝5時から防寒対策(貼るカイロ、水筒にスープ、モバイルバッテリー)をして並んだものだ。並んでいる時に、スマホで、わざと重たいゲームをすることで、暇つぶしと手を温めていたものだ。
「ん?・・・んあっ!!!」
少しばかり思い出に浸っていると、後ろから肩を叩かれ振り返る。すると、頬に知らない子の人差し指が突き刺さった。
「あはははは!ぷにって・・ぷにってなった!」
振り返った先には、甲高い声で笑う一人の女の子がいた。
「ちょ・・ちょっと。ミーティー、そ・・そんなことしたら失礼だろ!」
さらに後ろから女の子を注意する青い髪の男の子の声が聞こえてくる。
「何よ!ガイル!私に指図するつもり!?」
頬を突いてきた女の子は、ミーティーという名前らしい。そして、ミーティーを注意した男の子は、ガイルという名前のようだ。
注意されたことに腹を立てミーティーは、振り返ると注意してきたガイルの肩を軽く押す。
(なんだ?この二人?)
アミルは、勿論この二人を知らない。何せ同い年の友達は、レイデルト以外いないから。
「で・・でも、きゅ・・急にそんなことしたら、め・迷惑に・なっちゃうから・・・」
(おお!頑張れ!ガイル!)
見るからに必死なガイルを見て、アミルは心の中で応援する。しかし、ガイルの声は、どんどん細くなっていった。そして、これが裏目にでてしまった。
「は~~!あんたは、私がすることを黙って見てればいいのよ!私以外の心配なんてしなくていいの!」
ミーティーは、ガイルを威嚇するようにさっきより声を大きくする。
「ご・・ごめん。ミーティー・・・」
(ガ~~イル、もっと、頑張ってよ~。)
ガイルは、ミーティーの圧に負けてしまい、謝った後にそのまま俯いて黙ってしまった。ガイルの頑張りを応援していたアミルだったが、スポーツでゴールを外した時の様な残念感だ。
「ねぇ!ところであんたさ~!さっきから何見てんの!見世物じゃないんだけど!」
ミーティーが再びこちらを向くと、敵意剥き出しの視線で威嚇してくる。
(えーーー!これ、俺が悪いの?いくら何でも理不尽過ぎない?!こちとらあんたの被害者なんですけど!)
「ごめん。何でもないよ。」
こちらが謝るのは、納得いかないがこういった場合、自分が折れるに限る。前世でもそういう風に生きてきたし・・・
(あぁ、俺もガイルと変わんねぇな。)
アミルは、ミーティーに謝罪をして列の進行方向を向く。その後は、地獄のような時間だった。
「ねぇ!まだ、私が許してないんだけど!一回、誤ったからって許してもらえるとってるの!?」
無視する。
「男のくせに言い返すことも出来ないの!それとも、聞こえてないの!?」
無視する。
「その耳は、飾り!?おい!弱虫難聴野郎!」
無視する。
「なぁ!!無視してんじゃないわよ!こっち、向けよ!」
何を言っても無視するアミルに対して、痺れを切らしたミーティーは、アミルの肩を掴み、無理やり後ろを向かせようとする。
(意地でも向かねぇぞ。)
ミーティーは、全力でアミルを振り向かせようとするが、アミルは体を固めてささやかな抵抗をする。
(こいつ、私が全力で振り向かせようとしてるのにビクともしない!・・・ムカつく。そうだ!)
「てめぇ!こっち向けや!!」
ミーティーが数秒、静かになった。その直後、背中の痛みと共に少し前方に押し出された。幸い前方の人にぶつかる前に踏みとどまる事ができた。
「あぶねぇ。」
いきなり、後ろから衝撃が来たら振り返らない人間は少ないと思う。アミルもそうだ。今、起こった衝撃の元を後ろを向いて確認する。
後ろを向くと、ミーティーがしてやったりといった表情でアミルの事を見ている。
「あははははは!!きったなぇぇ!!そんな服で式に出るつもりなの!」
(まさか!)
嫌な予感がした。急いで痛みのあった場所を確認してみる。
(こいつ、蹴ってきやがった。)
尻部分の服を無理矢理引っ張って確認する。そこには、靴底の後が薄っすら付いていた。
「私に逆らうからそうなるのよ!」
(うわ~~~。よし、決めた。)
ここまでされると、怒りも特に湧いてこない。ただただ、呆れ果ててしまう。そして、もう何をされようとも徹底的に無視しようと決めた。
(あれ?ここまでされて何もしてこない!あはっ!いい玩具みーっけた。)
「ねぇねぇ、悔しくないの?・・・そっか、私が強過ぎて怯えちゃったんだね。カッコ悪いんだ~、男のくせに。」
無視する。勿論、こんなボロクソに言われて腹が立たない訳がない。しかし、ここで罵詈雑言女をぶっ飛ばしたところで自分には、何も徳がない。だからこそ、徹底して無視をした。
罵詈雑言とたまに飛んでくる蹴りを無視しながら10分ほどが経過した。
「次の方、どうぞ~。」
アミルの順番が回ってきた。受付をしている女性神官に呼ばれる。そしてようやく、ミーティーから解放された。




