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第十四話  出発

「ふ~~。気持ち~~~~。」

 現在アミルは、朝食が終わりお風呂に入っている。普段は、朝にお風呂に入ったりはしないが神定式の日に着ていく神定服を着るには、体を清潔にしておく必要があるらしい。


「アミル~~」


「なに?母さん。」


 湯舟に使っているとソニアが木の扉越しに話しかけてくる。


「籠に服、置いておくから今日は、これを着て行くのよ。」


「は~い。」


 いつもであれば、風呂に入る時は、自分で着替えをとって脱衣所の籠に入れているだが、今日は、神定式ということもありソニアが服を持って来てくれた。


「・・・しっっっろ~~~」


 風呂から上がり、体を拭く。籠を見るとソニアが用意してくれた式用の服があった。どんな服なのか持ち上げて確認してみる。


 その服は、あまりにも白過ぎた。服自体も真っ白だし、服を縫合(ほうごう)している糸も白い。服の袖は、幅広になっており、巫女服のようだ。ボタンの部分には、刺さらない様に削られた動物の牙が使われている。これもまた、真っ白い。そして、左胸には、花の刺繍(ししゅう)があしらわれている。言わずもがなこの刺繍も白い。七分丈のズボンには、特に装飾などは、施されていない。とにかく、白一色の服だ。


「これ着るのか~。まぁ、式用の服だからカッコよさなんて気にしてないけど、問題は、こんな真冬にこれ一枚で外に出掛けるのか~。」


(苦行過ぎんだろ!!!!!)


 独り言を呟いて、心の中で叫ぶ。


「寒い。」


 服を着ると、やはり寒かった。服の裏地にモコモコが付いてる訳でもなければ、厚手の生地という訳でもない。風呂上りでもあるのに体を少し、震わせながらソニアたちが待っているキッチンまで向かう。


「お、来たな。」


「待ってたわよ。アミル。」


 風呂に入っている間に二人は、すでに外出用の服に着替えていた。ワイアットは、黒いスーツに似たような服、ソニアは、紺色のドレスを着ている。こうして見ると二人共、どこかの貴族と言われても遜色ない。・・・良く似合っている。


「さぁ、行こうか。アミル、ソニア。」


 ワイアットがそう言って玄関の扉を開く。外には、馬車が待機していた。以前、レイデルトの家に向かう時に乗っていた馬車みたいに豪華な装飾はない。ワイアットに続いてソニアと手を繋いで外に出ると、こちらを確認した御者が馬車から降りて、馬車の扉を開いた。見覚えのある人物だ。


「お久ぶりでございます。ワイアット様。ソニア様。そして、アミル様。10歳の誕生日と神定式に参加されること心より祝福しております。」


 頭を下げてこちらに礼をしてきたのは、以前、レイデルトの屋敷まで御者をしてくれたジリアだった。


「あぁ、久しぶり。わざわざ送迎を頼んで申し訳なかったな。」


「いえいえ。皆様に再びお会いできた事、嬉しく思います。」


 大人同士の他愛のない世間話。こういう光景を見ていると、大切な事だと分かっていても人付き合いが面倒に思えてしまう。会話が始まり10分ほど経過した。


「おっと、こんなに話していては、神定式に遅れてしまいますね。」


「そうだな。そろそろ、乗せてもらおうかな。世話になるよ。」


 ようやく乗れる。大人の会話を傍から聞いていると、どうしてこんなに時間の経過が遅く感じるのだろう。


「お世話になります。ジリアさん。」


 こういう時の女性は、凄いと思う。何も嫌な顔をせずに接するから。これは、見習おう。


「よろしくお願いします。ジリアさん。」


 ソニアに見習い、笑顔を向けて軽く頭を下げる。


「はい、アミル様。今日は、責任を持って送迎をさせていただきます。」


「ありがとうございます。」


 正直に言えば、レイデルトが今どうしているのか聞きたかった。しかし、式に遅れるのも良くないと思い、聞けなかった。


「アミル様。」


 馬車に乗ろうと階段に足を掛けた瞬間にジリアに呼び止められた。


「レイデルト様からお手紙を預かっておりますので、道中にでもお読み下さい。」


 そう言うとジリアは、〈ストレージ〉を開いて一通の手紙を手渡してくれた。


「ありがとうございます!」


「はい。」


 馬車の扉が閉まる。数秒後に窓から見える見慣れた景色が流れ出す。


「レイデルト君からの手紙か?」


「うん。ジリアさんから貰ったんだ。」


 少しの間、手紙を眺めていた。


「読まないの?」


ソニアに言われて初めて気づいた。何故、すぐに読もうとしなかったんだろう。恐らく、開けるのがもったいないという、前世の貧乏性のせいだろう。


「ううん。読むよ。」


 手紙を開いて内容を確認する。



{久しぶり~アミル。ちゃんと手紙は、届いてる?もう、3年も会ってないね。

 あれから、アミルの家に行く予定は、何回も立てたんだけど他の貴族たちとの交流とか、貴族としての立ち振る舞いとか忙しくて、結局会いに行けなかったんだ。ゴメンね。

 でも、来年からは、少し落ち着くと思うから絶対会いに行くよ。

 そうだ!やっと、アミルから預かってた木剣を取り出せたんだ!会った時に目の前で取り出して返すから、楽しみにしててよ。

 本当は、今日返したかったんだけど、式場の場所がアミルと違うみたいなんだ。ゴメン。なんか、謝ってばかりだね。

 とにかく、来年は絶対に会いに行くから!最後にアミルが望む神定武器が授かれように祈ってるね。じゃあね。

 親友、レイデルト・スレイガルより}



手紙には、自分にどれほど会いたがっていたのか。そして、この3年間、貴族社会に揉まれて自由な時間が無かったことなどレイデルトの心情が書かれていた。


「大変そうだけど、元気そうで良かった。」


 手紙を読み終わると、窓から外の景色を見ながら、レイデルトに再び会った時、何をしようかと考える。


「なんて、書いてあった?」


 次、会った時、レイデルトと何をしようか考えていると、向かい側に座っているワイアットが手紙の内容を聞いてきた。


「家の事で忙しくて、会えなかったけど、来年から少し暇になるから、会いに来れるって書いてあった

よ。」


 手紙の内容をなるべく、嚙み砕いてワイアットに話す。


「そうか。なら、来年が楽しみだな!」


「うん!来年か~。楽しみだな~。」


 手紙をしまうと、町までの暇つぶしのためにもう一度、外の景色を見ることにした。


「嬉しそうね。」


「あぁ、3年も会えなかったんだ。嬉しいだろうさ。」


 ワイアットとソニアは、耳打ちをして会話をする。アミルは、気づいていなかったがこの時、レイデルトからの手紙が嬉しく自然と笑みが零れていた。



「アミル!アミル!!」


「ん~。」


「起きて!アミル!!」


「あれ?いつのまに。」


 身体を揺らされ、甲高い声が聞こえる。うつらうつらとしながら、思い瞼を開ける。景色を見ていたつもりだったが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


「おっ、起きたな。」


「そろそろ、式場に着くわよ。」


 あくびを一つすると、外の景色を見る。草原の拡がっていた街道は、もう無く景色は、スレイガルの町に入るための検問所にいた。


 すると突然、荷台の扉が開き、重々しい鎧を着た騎士が一礼をしてきた。


「お急ぎのとこ失礼致します。安全確認のため、少し中を拝見させていただきます。」


 重々しい鎧とは、裏腹にその騎士から聞こえてきた声は、若い女性の声だった。


「はい、いいですよ。」


 特にやましい物も持っていないため、ソニアは快く騎士に荷物を預ける。


 騎士は、ソニアから預かった荷物をその場に跪いて、素早く荷物の確認を済ませる。


「はい。特に問題ありません。ご協力、感謝します。」


 荷物の入っていたトランクをソニアに返すと、騎士は立ち上がってこちらを向く。


「神定式、頑張ってね。」


 騎士は、アミルの頭を撫でると馬車から降りた。騎士が馬車から降りて数秒後に馬車は、ゆっくりと町に入っていった。


「ん~」


「父さん?」


 先程からワイアットは、浮かない顔をしている。手荷物検査が嫌だったのだろう。まぁ、口外されないとはいえ、自分の荷物を他人に見られるのは、嫌なものだ。


「あぁ、どうした?アミル。」


「いや、荷物検査の時くらいから浮かない顔だったから。」


 何となく理由は察しているが、一様確認のために理由を聞いてみる。


「あぁ、検問所での荷物検査が嫌だっただけだから、大丈夫だよ。」


 やっぱり、そうだった。


「心配しなくてもあなたが見られて困る物なんて入れてないわよ。」


 そう言ってソニアは、ワイアットの手を握る。


「あぁ、ありがとう。」


 ワイアットもソニアの手を握り返し、恋人繋ぎをする。


(あっっっっっちーー!!)


 目の前でいちゃついている二人を見て、気恥ずかしさで体が熱くなった。熱を冷ますように服をパタパタさせた後、その気恥ずかしさを誤魔化すためにアミルは、式場に着くまで町を眺めていた。


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