第十三話 最も特別な朝
レイデルトとの出会いから3年後。
この3年、あの日以来レイデルトと会うことは一度もなかった。エレメーラは、たまにアミルの家に来ては、アミルに訓練をつけたり、遊んだりしていた。ただ、一番の目的は、ソニアに料理や家事などを教わり、アミルのために花嫁修業をするのが目的だった。
年末。前世の世界で言うところの大晦日に当る日。前世であれば年末には、新年を迎えるための準備をする日だが。
この世界では、10歳になった子供が神殿に行き、神の声を聞いて神定武器を授かる日だ。
そして、この日こそずっと楽しみにしていた日でもある。
そんな、神定式の日の朝。時刻は、7時ほど。
「アミルー!!」
「は~い」
一階からソニアに呼ばれ、返事をしてスキルの本をパタンっと閉じる。
普段、家庭菜園しかすることのないヘイズ家も今年は、アミルの神定式の準備で朝からいつも以上に騒がしい。
「アミル。ほら!あなたの神定服よ!」
一階に降りると、そわそわして落ち着きのないソニアがいた。手元には、アミルが着るのにぴったりな大きさの白い服があった。
「おはよう~母さん。」
昨夜は、あまり、いや!全然眠れなかった。というのも今年から、両親と違う部屋で寝ているのだが。昨夜は、自分の子が10歳になったことが相当二人にとって嬉しかったらしく、そのテンションで致していた声が隣部屋からダダ洩れだったからだ。なので、自然と眠そうな返事を返してしまう。
「もう!また、遅くまで本でも読んでたんでしょう。ほら、顔洗ってシャキッとしてきなさい!今日は、大事な神定式なんだから!」
眠そうな返事を聞いたソニアは、服を膝に降ろし、「またなの?」と言いたげな様子でアミルに顔を洗うように促す。ソニアは、少し変わった。アミルが成長するにつれて、甘さだけではなく厳しさも少しずつ増えていった。前世での母親に少し似ている。
「は~い。母さん。」
洗面台に向かう。洗面台につくと、浴槽の上に置かれている大きなタライから水を汲んで顔を洗う。
「ワ゛ン!!」
顔を洗っていると、聞き慣れた鳴き声が聞こえ、鳴き声の主が尻を小突き、少し腰が浮く。
「うわっ!びっくりした~。おはよう。マカミ。いつも、早起きだな~マカミは。」
アミルも10歳になった。それなりに背も伸び、健康的に成長した。アミルも成長したが、一番成長したのは、アダマンタイトウルフのマカミだ。
助けた時は、アミルの腕で抱き抱えることのできる大きさだったが今では、アミルが乗れるか乗れないか、微妙なラインの大きさまで成長している。毎日一緒に寝てはいるのだが、毎朝アミルより早くに起きては、できる範囲でソニアの手伝いをしているらしい。
「お前は、いつもフワフワしてて可愛いな~~。」
水で濡れた顔をタオルで拭くと、膝から崩れ落ちてマカミの首元に抱き着きながら、全身を撫で回す。
「アミルーー!顔、洗い終わったらマカミと一緒にこっちに来てなさい。」
台所からソニアの呼ぶ声がする。それと同時に嗅ぎ慣れた野菜スープの匂いが流れてくる。
「はーい。行こう、マカミ。」
「ワンっ!!」
タオルを洗濯籠の中に入れ、マカミと一緒に台所に向かう。
神定式ということもあり、今日の朝食は、いつもより豪華な物が並んでいる。野菜のスープには、いつもは入っていない鶏肉が入っている。硬かったパンは、フワフワしている。飲み物も普段は水しかでないが今日は、ジュースが置かれている。なんならデザートの果物まである。
「贅沢だね。母さん。」
「ふっふー。そうでしょ。今日は、アミルの大事な日だから。いつも以上に腕に寄りをかけたのよ!!」
腕を腰に当てて「えっへん」と鼻を高くしている。そんなソニアの手には、慣れない料理をしたせいでできたであろう切り傷がいくつかあった。
「お!三人ともいるな。」
洗面所がある方向から少し、汗を掻いたワイアットが歩いてきた。
「おはよう。父さん。」
「うん!おはよう。アミル。」
すでにソニアには、「おはよう」と伝えているのだろう。アミルにのみ朝の挨拶をするとワイアットは、ソニアの隣に座る。
「ちゃんと料理は、行き渡っているな。」
「ええ。」
「大丈夫だよ。」
「ワン!」
マカミだけは、専用の料理だが。三人は、同じ料理が自分の前にあることを確認するとワイアットに返事を返す。
「今日は、アミルの神定式だ。良い神様。良い神定武器に恵まれることを祈ってるよ。アミル。」
こちらを向いて、真剣な声色でワイアットは、話す。そして、目を静かに閉じて両手を合わせる。
「そうね。きっと神様もアミルの思ってる通りの武器を授けてくれるわ。私がそうなるようにお祈りしてあげる。」
目の前のソニアもそう言うと両手を合わせて目を閉じる。
「ワン!!」
自分の座っている横からマカミが顔を出してこちらに向けて元気に吠えてくれた。そして、マカミも目を閉じる。
「父さん。母さん。10歳の今日まで育てていただき、ありがとうございます。二人の期待に応えられる武器を授かれるように今日は、祈りを捧げてきます。命を育んでくれた自然に感謝を・・・いただきます。」
こういった子供が主役の日には、主役の子供自身が食事の挨拶をすることとなっている。誕生日もそういった日だ。しかし、誕生日であれば、ただ「いただきます」だけで良いが、神定式は、違う。今まで育ててくれたことそして神定式への意気込みも言わなければならない。
「「いただきます。。」」
「ワン!」
ワイアットとソニア、そしてマカミもアミルに続いて食事の挨拶をすると、食事を始めた。
まずは、食欲を促進させるために肉入りの野菜スープを一口飲む。乾いた口内を潤し、喉を流れお腹がポカポカし始める。美味い!コンソメに似た味の中に野菜と鶏肉の旨味が良く出ている。
「あ~~~。」
器から口を外すと言い方は、悪いがおっさんみたいな溜息が自然と溢れる。
「もう、アミル。そんな、おっさんみたいな溜息つかないの。」
「はははっ!いいじゃないか。こんな美味しいスープを飲めば誰だって溜息くらい出るさ。なぁ、アミル。」
ソニアからすれば、温かいスープを飲んで溜息をつくなんて行動を癖付かせたくないんだろう。怒ってはいない。けれどワイアットが横から仲裁に入る。
「うん。母さんの料理は世界一だから。」
「そ、そうかしら。もう、そんなに二人でおだてても何も出ないからね。ふふふ。」
可愛い。ソニアは、今年30歳になったが前世の基準でいくと女子大生、いや、女子高生といっても遜色ないほどの可愛さだ。
普段の日なら、ビーフジャーキーのように固いパンも今日は、わたあめ並みに柔らかい。外側の厚い皮を嚙み切れば、中の部分は歯が無くても咀嚼することができる。そして、少し甘い。
飲み物は、柑橘系のジュースで酸味と甘味が丁度良い。
デザートの果物は、たまに食卓に並ぶことはあったが、今日の果物は、初めて見る。
「ん~~」
「どうした。アミル。」
「その果物もとっても美味しいのよ。」
初めて見る果物に少しだけ、躊躇いをもってしまう。匂いは、甘い匂いをさせているが、見た目は真っ黒なバナナに似ている。その、表面にイチゴのようなぶつぶつした物が無数にくっついている。集合体恐怖症の人が見たら一発でノックアウトしてしまうだろう。
「ん~~」
「ほら、アミル。あ~ん。」
「甘いから食べてみな。」
ソニアとワイアットは、自分の皿にあったその奇妙な果物を一口大に切ってこちらに近づける。せっかく、用意してくれた物を断るのも申し訳なく思い観念して口を開け、その果物を受け止める。
「ん~、ん?んーーー!!美味しい。」
意外や意外、この名前も知らないグロテスクな果物、見た目に反して甘くて美味しい。前世では、バナナの甘さがくどいと思ってしまっていたがこの果物の甘さは、丁度良い。それにスイカみたいな瑞々しさもある。
「そうだろ。この時期のエクレアは、最高なんだ!」
「へ~、エクレアって言うんだ。・・・・・ん?エクレア!?」
この、グロテスクな果物を一個食べ終わって二個目を口に運ぼうとした時にワイアットがこの果物の名前を教えてくれた。
「そうだぞ。これは、エクレアって言って冬頃に美味しくなる果物なんだ。」
聞き間違いでは、なかった。確かにワイアットは、このグロテスクな果物をエクレアと言った。
「え?エクレアってチョコが掛かったコッペパンみたいなやつじゃなくて?」
「ん?チョコ?」
「コッペパン?な~にそれ」
「・・・あ。な、なんでもないよ。」
つい、前世の知識を口走ってしまった。妙にソニアの問いかけが怖く感じた。
「昨日、夢でそうゆうお菓子の夢を見たんだ!」
妙な間が空いた。いつも通りにしてはいるが、前世で周りに迷惑を掛けないように立ち回ってきたからこそ分かる!!ワイアットとソニアの頭の上に、出現した?マークが消えない。咄嗟に夢に出てきたなどと分かりやすい嘘をつく。
「へ~、チョコって言うのはどんなお菓子なの?響きが可愛いわ!」
やはり、女性だからだろうか。ソニアは、この世界にとって架空のお菓子であるチョコのことについて聞いてきた。
「チョコはね。チョコレートの略称でね・・・」
朝食後のデザートを食べ終わってからも少しの間、このチョコとコッペパンの話は続いた。こんな話をしている内に改めて、前世で架空だったことがここでは普通で、この世界にとって自分の前世は、架空なのだと思い知らされ、心臓が苦しくなった。
《種族》人間 《個体名》アミル・ヘイズ 《神定武器》不明 《家系スキル》探索 《Lv》30《HP》205《MP》188《攻撃力》220《防御力》150《知力》80《抵抗力》60《素早さ》180《スキル》極東剣術・極、探索、能力特化、感覚特化、解析、マーキング、ストレージ、偽装、ステータス、慧眼、鑑定、鋭利化、加速、疾風




