第十一話 レイデルトの本気
「さ~て~。ショタたち~私はね、強い人にしか興味ないんだ~。だから、ショタたちが私の教えを受ける資格があるのか、テストさせてね~~。とりあえず、どんなスキルでも使っていいから、このダミー人形ちゃんを両断してもらおうかな~。はい、始め~~。」
エレメーラは、ゆったりしたギャルのような話し方で鉄剣をアミルに渡しながら、二人に大人ほどの大きさのダミー人形を、両断することを要求した。
この世界では普通、指導役になった者たちが最初に行うことは、指導する子供がどれくらいの実力があるのか確かめるために初めは、実戦的な訓練から行う。今回のような技の威力から実力を確かめるのは、非常に珍しいことである。
「分かりました。先生!」
レイデルトは、ヤル気に満ち溢れており、アミルよりも先に手を挙げてダミー人形の前に鉄剣を逆手に構えて立つ。
(スキルは、イメージをすることが大事だって昨日、アミルから教わった。前と同じような玄武じゃこの人形は、両断出来ない。でも、これなら!)
「帝国剣術・玄武!」
レイデルトは、逆手に構えた鉄剣を後ろに引く。鉄剣の刀身は、蛇のようにうねり出す。
「蛇絡切!!」
後ろに引いた鉄剣をダミー人形に向けて思いっきり振る。蛇のような刀身は、ダミー人形の腹部辺りに巻きつく。
レイデルトは、刀身が巻き付いたことを確認すると、もう一度鉄剣を後ろに引く。巻き付いた刀身は、ダミー人形を真っ二つに切りながら、通常の鉄剣に戻った。
「やった!!」
レイデルトは、初めて使う技がこんなに上手くいくとは、思っていなかったため、成功したことに大きく喜んだ。
「凄いよ!レイ!!」
初めて見るレイデルトの技に称賛の拍手をした。
「ありがとう。アミル、君のおかげだよ!!」
レイデルトは、アミルの手を握って感謝を伝える。しかし、アミルは自分が何をしたのか分からなかった。
「レイちゃんは、合格ね。じゃ~、次のショタ君どうぞ~~」
エレメーラは、特に褒めるなどはせずにアミルに早くやれっといった様子でダミー人形を指差した。
「分かりました。」
(なんか、始める前と態度変わってない?気のせい?それとこの剣、軽いな。)
〈解析〉
アミルは、子供用に短いとはいえ、異様に軽い鉄剣に疑問を持ち、〈解析〉のスキルを使う。
〈解析〉の結果は、鉄剣の全体に細かい魔石の反応が確認できた。作成の際に細かく砕かれた魔石を混ぜているらしい。そして、魔石には〈軽量化〉の魔法が内蔵されていた。
剣の軽さには納得したが、エレメーラの態度の変わりように違和感を覚えながら、ダミー人形の前に立ち、居合の構えをとる。
「極東剣術・火閃!」
居合の構えをとったアミルの鉄剣に火が纏わり付いていく。
「火断!」
刀身に纏わり付いた火は、ユラユラと燃えながら太刀へと形状を変化させた。アミルは、腰から太刀を抜き、振り下ろす。振り下ろされた太刀は、弧を描きながらダミー人形を頭から真っ二つに切り裂いた。
切り裂かれたダミー人形は、火太刀の余韻の火で燃えている。
「よしっ。」
アミルは、とりあえずはエレメーラが出したテストにクリアしたことに安心する。
「流石だね。アミル。」
レイデルトは、アミルがクリアすることを初めから分かっていたようだった。
「へ~~、君も合格か~。いいね~、お姉さん教えがいがあるよ~。じゃあ、本番始めようか~~。」
エレメーラは、ニヤニヤしながら、アミルとレイデルトを横切ると、訓練場の中央に向かって歩きだす。アミルとレイデルトもエレメーラに付いて行く。
「何、するのかな?」
歩いている途中でアミルは、レイデルトが訓練の内容を知っていると思い聞いてみる。
「さぁ?僕もエレメーラさんには、初めて教えて貰うから分からないんだ。」
「そうだったんだ。」
普段であれば、レイデルトに行う訓練の内容は、ガルトに内容が説明された後にガルトからレイデルトに説明されるため、レイデルトが訓練の内容を知らないなんてことはなかった。
そんな、会話をしているとエレメーラが訓練場の中央で立ち止まり、振り返る。
「さぁ~、ショタ君たち。君たちは~、今から私と戦ってもらいま~す。さぁ、どっちが先?」
そしてエレメーラは、〈ストレージ〉から一本の木剣を取り出した。軽く木剣を振り回すと、切っ先をアミルたちに向けて挑発した。
「じゃあ」
「僕から行きます!!」
アミルが名乗り出ようとしたが、それを遮ってレイデルトが先に威勢良く、名乗り出た。
「あぁあ!いいねぇ~。積極的な子は、好きよ~~。」
レイデルトの威勢に反応して、エレメーラは自分のことを抱きしめて、訓練場に響くほどの喘ぎ声を上げた。
(う~わ~。危ない人だ。)
その喘ぎ声を聞いて、アミルはドン引きしてしまう。いや、普通の人であれば誰もがドン引きしてしまうだろう。
しかし、レイデルトは落ち着いた様子でエレメーラから数メートル距離をとり、瞑想してさらに集中力を高める。
「いいねぇ。落ち着くのはいいことだよ。さぁ君は、離れていてね。」
エレメーラは、レイデルトが集中しているのを見ると、人が変わったのうに真面目な声のトーンでアミルに指示をする。
「分かりました。」
エレメーラから妙な空気を感じたアミルは、訓練場の壁際まで離れ、二人から距離を置く。
「じゃあ、レイデルト。私は、他の指導者みたいに、これをしろ!あれをしろ!なんて言わない。私と打ち合って、自分で改善点を見つけなさい。」
さっきと打って変わってエレメーラは、真剣にレイデルトに向けて話し出す。
「はい!」
訓練場に響くほどのはっきりとした返事で返す。
「ルールは、特にない!自分の持ってる力全部を使いなさい!」
通常の訓練であれば指導する側、される側、どちらの安全も考えてある一定のルールは、設定するものである。
「分かりました。」
レイデルトは、一瞬驚いていたがすぐに落ち着くと、鉄剣を逆手に持ち構える。
「じゃあ、死なないようにね。」
エレメーラは、そう言うと一気に距離を詰め、レイデルトに木剣を振り下ろした。
「!!きじゅ、うわっ!!」
咄嗟に〈亀盾〉を展開しようとしたが、展開する前にエレメーラの木剣がレイデルトの鉄剣にぶつかり、レイデルトが10m以上吹き飛ばされた。何回転かした後にレイデルトは、地面に剣を突き立ててフラフラと立ち上がる。
(これは、やり過ぎなんじゃ。ガルトさんは、止めないのか?)
いくら訓練とは言っても、やり過ぎのように思ったアミルは、止めないのかガルトを見る。しかし、ガルトは、エレメーラを止める様子はなく、腕組みをしてレイデルトの戦いっぷりを見ていた。
「レイく~ん、本気で来ないと殺しちゃうよ~~。」
木剣で肩を叩きながら、エレメーラは再びレイデルトへ走り出し、距離を詰める。
「そうですね。本気で・・・」
〈剛堅〉
レイデルトは、棒立ちになり、スキルを発動させる。レイデルトの全身が、オーラのようなものに覆われていく。そして、覆い終わる時に、エレメーラの木剣がレイデルトに向かって突かれた。
「うっ・・・。え?」
エレメーラの容赦のない一撃がレイデルトに放たれた瞬間にアミルは、思わず目をつぶってしまった。エレメーラの一撃は、遠目で見ていても、レイデルトを軽々と貫いてしまうほどの威力のものだったからだ。
しかし、瞼を開けると目を疑う光景がそこにはあった。エレメーラの木剣は、レイデルトを貫くどころかレイデルトの胸当ての上で止まっている。
(えっ!あの攻撃、どうやって受け止めた?)
アミルは、心の冷静さを無くすほど驚いていた。
「帝国剣術・玄武・蛇咬」
エレメーラが木剣を突き立てている間にレイデルトは、玄武の構えをとっていた。鉄剣の刀身がうねり切っ先が二股に割れ、エレメーラに咬みつくように襲い掛かった。
「お~。」
エレメーラは、レイデルトに突き立てている木剣に力を加え、レイデルトを突き飛ばすのと同時に自分も後方に飛んで距離をとった。
「うっ!!」
再び、数十m後方に飛ばされたレイデルトは、一度目よりも強い衝撃で飛ばされたため、一度目より苦しそうに立ち上がる。
「いい判断だったよ~。でも、今ので疲れちゃったかな~?」
エレメーラの言う通りレイデルトは、息が上がって立ち上がるのも苦しそうだ。
「終わっちゃうよ?」
「はぁはぁ・・・」
レイデルトは、息切れで返事をことができない。
「そう・・・」
大きく深呼吸をするとエレメーラは、レイデルトへ距離を詰め、強烈な一撃を叩き込んだ。その一撃を受けて、レイデルトに纏っていたオーラは、消え去った。
エレメーラは、もう一度木剣を振りレイデルトの首元ギリギリで止めた。
「僕の負けです。」
負けを認めたレイデルトは、糸が切れたようにその場に座り込む。
「集中するのは、いいけど集中し過ぎると視野が狭くなっちゃうよ。ある程度の力を抜いてリラックスすることも大事だってことを覚えておきなよ。レイデルト。」
出会った時のギャルっぽい喋り方とは違い、真剣にレイデルトに対してアドバイスをする。
「あ、はい!ありがとうございます!!」
その変わりように凄く驚いていたが、素直にアドバイスを聞き入れ、立ち上がり礼をする。
「じゃあ、レイデルト。あの子、呼んできてくれる?」
「分かりました。」
深呼吸をして息を整えながらレイデルトは、アミルの下へ向かう。エレメーラとの訓練は、時間にすれば短いものだったが子供のレイデルトには、大きな疲労が溜まったらしく少し左右に揺れながら、アミルの下に向かった。
「レイ、カッコイイ戦いだったよ。」
大丈夫?など優しい言葉をかけることもできたが、レイデルトが欲しい言葉は、そんな言葉ではなく、戦いに関する感想だろう。そう思い、あえて心配するような言葉がけはしなかった。
「うん。あと、一歩だったんだけどね!」
レイデルトは、笑顔でそう答えた。しかし、その笑顔は、明らかに泣きたいのを我慢するような笑顔だった。自分が手も足も出なかったのを理解しているのだろう。
「じゃあ、行ってくるね!」
アミルは、詮索することなく笑顔で返すとエレメーラの下に歩き出す。
「が、頑張ってねアミル!」
耐えきれなかったようだ。アミルが横切って、ある程度の距離が開くと応援の言葉を送り、静かに泣き出した。
《種族》人間 《個体名》エレメーラ・ディング 《神定武器》剣 《家系スキル》縮地 《Lv》68 《HP》480 《MP》305 《攻撃力》455 《防御力》200 《知力》90 《抵抗力》75 《素早さ》380 《スキル》帝国剣術・朱雀、ストレージ、疾風、加速、鋭利化、治癒など《魔法》竜火、竜炎、シールド、ファイヤー、フレイム、アロー、サイレンス、ハイドカーテンなど




