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第十話  女騎士

「お待たせ!」


 アミルたちが話していると後ろからレイデルトの声が聞こえた。


「あっ!レイ・・・ってその恰好は?」


 声がした方向にアミルが振り返ると、そこには、鉄の胸当て、手甲、足甲を身に付けたレイデルトが立っていた。私服に着替えてくるものだと思っていたアミルは、予想外の恰好に驚く。


「今日はね、僕の剣術の訓練の日なんだ!これから、剣術の先生も来ると思うからアミルも一緒にやっていかない?」


 そう言ったレイデルトの手元には、木剣ではなく訓練用の刃の付いていない鉄の剣が握られていた。


「おお!それは、いいな!アミル君、今日来る冒険者は、君の剣術の参考にもなると思うよ?」


 レイデルトの提案にガルトがアミルの後ろから賛成する。


「そうなんですか?じゃあ、レイも一緒だし僕も参加したいんですけど、いいですか?父さん?」


 アミルは、ガルトの近くにいるワイアットに参加してもいいか聞いてみる。


「・・・ん~~~。アミル。」


「はい、父さん。」


 ワイアットは、少し考えた後に真剣な顔になった。アミルもワイアットからの返答を待つ。


「今日は、よさないか?」


 いつもなら、アミルがしたいことには、否定をすることはないワイアットだが、今回は、アミルがしたいことに否定から話を進めた。


「なぜですか?」


 アミル自身も否定をされるとは思っていなかったため、不思議に思い、理由を聞く。


「いや・・それはだな・・」


 言いづらいことなのかワイアットは、歯切れを悪くしながら、理由を話した。


「今日、レイデルト君に剣術を教える冒険者が少々・・・いやだいぶ、頭のおかしい冒険者だからなんだ。きっと、アミルに悪影響をあたえるから俺としては参加しないでほしい。」


 ワイアットは、深刻な表情でアミルに参加してほしくない理由を話した。他人のことを悪く言う人物ではないのだが、そんなワイアットにここまで言わせるのは相当だ。


「そうだったんですね。・・・でも僕は、参加したいです。レイもいるし、大丈夫ですよ。」


 アミルは、ワイアットの話を聞いたのにも関わらず、参加することは変えなかった。そんな人物とレイデルトを一緒にさせたくない思いもあったが、ワイアットにここまで言わせるその、冒険者がどんな人物なのか気になった好奇心が強かったからだ。


「そうか?でも・・・」


「ワイアット。アミル君の意見も大事にしなくてはいけないぞ。」


 アミルの返答を聞いても、参加を認めようとしなかったワイアットに後ろから、ガルトがワイアットの言葉を遮った。


「そうですよ~~。ワイアットさん。ふぅ~~」


 突然、ワイアットの後ろの景色が歪み、赤髪の女性が姿を現し、ワイアットの耳に息を吹きかけた。

「うわッ!!!」


 ワイアットは、女性が背後にいたことより耳に息を吹きかけられたことに驚き、耳を抑えながら、女性から距離をとった。


「あはは!!ワイアットさん、か~いい反応。私の騎士様になりませんか?」


 女性は、ワイアットの反応に高く笑い、頬に手を当てながら舌なめずりをした。


「ぜっっっっっっったい!嫌だ!!」


 ワイアットは、全身に鳥肌を立てながら、いままでに聞いたことないくらい大きく溜めをつくって否定した。


「ガルトさん、あの方は?」


 言い争っているワイアットと女性を横目にアミルは、女性が誰なのかガルトに質問した。


「あぁ、彼女は、エレメーラと言ってね、今日レイデルトとアミル君に剣術を教えてくれる冒険者の人だよ。」


「あの人がそうだったんですね。」


 そう言ってアミルがエレメーラの方を見るとエレメーラは、ワイアットに抱き着いてワイアットがそれを引き剝がしている状態になっていた。


「父さん・・・」


 アミルは、そんな状態のワイアットを見て、少し可哀そうにと思いながらワイアットのことを見ていた。


「ちょ、アミル。誤解、しないでくれよ。父さんは、決してこいつとそんな関係じゃないからな!!」


アミルにジト目で見られていることに気付いたワイアットは、やましいことがないにも関わらず焦ってしまっている。


「!。分かってますよ。父さん僕は、大丈夫です。後は、頑張って下さい。」


 アミルは、ワイアットの後ろにさらにもう一人女性が立っていることに気付いた。


「さぁ、アミル君もう少ししたら、始めてもらうから訓練用の鎧を貸してあげよう。レイデルトも一緒に控室に来てくれ!」


「分かりました。父さん。」


 ガルトとレイデルトも、もう一人の女性の存在に気付き、空気を読んでその場から一旦離れる。


「マカミ。父さんの側にいてあげてもらえる?」


「アンッッ!!」


 アミルは、これからワイアットに降りかかる災難を予想してせめてもの慰めにとマカミを置いていくことにした。


「それでは、ガルトさん。俺たちは、これで失礼したいと思います。」


 ガジーもこれ以上は、長居してはいけないと思い、ガルトに挨拶をする。


「ああ、今日はありがとう。アミル君のことは、くれぐれも他の猟師には内緒にしておいてくれ。」


 再確認も兼ねて、アミルのことを他言しないように伝えた。


「分かってますよ。他言はしません。それでは、これで失礼させていただきます。じゃあね、アミル君。レイデルト様。」


「失礼します。バイバーイ、アミル君。」


 ガジーとターグは、それぞれガルトたちに会釈をする。ガジーたちは、訓練場の出口に向かうためにガルトたちに背を向けた。


「ありがとうございましたーー!」


 大きく手を振りながら、ガジーたちにお礼を言うとガジーたちは、振り返らずに手を振り返し、帰路についた。


「さぁ、行こうか?」


「はい!」


「ちょっ、ちょっと待って!誤解、誤解だから!ご、うわぁぁぁぁぁーーーーー!!!」


 ガジーたちの背中を少し見守った後に、再びアミルたちは、控室に向けて歩き出した。向かっている途中から遠くの方で、この世の地獄のようなワイアットの断末魔が聞こえたような気もしたが、きっと気のせいであろう・・・


「わぁ!控室なのに、凄い広いですね!」


 アミルが想像していた控室は、真ん中に大きなベンチなりの椅子が置かれ、着替えるための更衣室、後は物置のような棚があるだけかと思っていたが、そんなものではなかった。控室らしい物もあったがさすが、貴族というべきか室内には、化粧台があり、そこには軽いアメニティ、4~5人が入れるような浴場、使い捨ての大きなバスタオルなど、まるでホテルのような控室であった。


「そうだろう、そうだろう!我が家は、自慢の家だが特に、この控室は自慢でね。わざわざ、雇われてくれる冒険者の人たちには、少しでも快適な思いをしてもらいたくてね、色々と工夫をしたんだ。訓練後は、食事も出してるんだよ。」


 アミルは、ガルトの説明を聞いているうちに、段々と口が開いていき愕然としてしまう。こんなものを見せられては、誰だって愕然とするだろう。


「単純に羨ましいです。」


 自慢気な表情をしているレイデルトを横に、ただただシンプルな感想を返した。


「ははっ、今度ワイアットに頼んでみるといいよ。さて、予備の鎧は・・んっしょ!ここら辺にあるはずなんだが・・・あった。あった。」


 冗談を返しながらガルトは、ロッカーの中からレイデルトが身に付けている鎧と、同じ物を取り出す。


「少々、傷が付いていて申し訳ないが、整備はしてあるから問題はないはずだよ。」


 取り出された鎧等は、整備はされているが、所々に傷が見え、レイデルトが身に付けている物より少し年期の入ったものだった。


「いえいえ、貸して貰えるだけでありがたいです。」


 ガルトから胸当てを受け取って、お礼を言った。初めて触る胸当てをレイデルトに手伝ってもらいながら、身に付けていく。そして、手甲、足甲と身に付けていき、訓練の準備ができた。


「おお!中々、似合ってるじゃないか。」


 ガルトは、鎧も身に付けたアミルを見て褒める。初めて鎧を着たアミルの初々しさにガルトは微笑む。


「似合ってますかね?」


(異世界だからいいものの日本だったら、何かのイベントじゃない限り、ただの痛い奴だよな~~)


 この世界において、鎧を着ることなんて変なことではない。むしろ、身を守るために大事なことだ。

しかし、転生者であるアミルからしてみれば、鎧を着るというのは、コスプレをしているようなものである。恥ずかしくなるのなんて、当たり前のことだ。


「うん。似合ってるよ!歴戦の騎士みたいだよ!!」


 レイデルトもガルト同様にアミルの鎧姿を褒める。それもガルトよりも具体的に褒めたため、アミルはさらに気恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしてしまう。


「ありがとう。レイ。」


 気恥ずかしさに負けそうになりながら、アミルはなんとか返事を返した。


「さて、外はどうなったかな?」


 ガルトは、控室の扉を少しだけ開き、覗いた。


 訓練場には、椅子に座ったソニアとエミリーがおり、その脇ではエレメーラがマカミとじゃれ合っていた。


「ん?父さんは、どこに行ったんだろ?」


 ガルトの下からアミルとレイデルトも扉の隙間を覗いていた。


「ホントだ。ワイアットさんがいないね。」


 レイデルトもワイアットの姿が見えないようだ。


「ん???アミル君、俺の目がおかしくなければ、あそこにいるのが君のお父さんじゃないか?ほら、エミリーと君のお母さんの下の・・・」


 ガルトがアミルと同じ視線まで視点を落として指を差す。そこには、遠目で見辛かったが楽し気に話しているソニアとエミリーの下で四つん這いになって、2人の椅子になっているワイアットがいた。


 アミルたちが控室に入る前、エレメーラに絡まれているワイアットの後ろに立っていた女性の姿は、ソニアであった。あの時、聞こえた断末魔の叫びもソニアに何かをされていたのだろう。


(何をやっているんだ。うちの父親は・・・)


「何をやってるんだ?あいつは・・・」


 アミルが心の中で思っていることと、同じことをガルトが言葉を漏らす。


「まぁ、行かないといけないよな。さぁ、二人とも行くぞー」


 ガルトは、少し嫌そうに控室の扉を開き、ワイアットたちの下へ向かった。3人の足取りは、とても重く、特に友人のガルトと息子のアミルは、なんのスキルの影響も受けていないのに体にのしかかる重力が何倍にも感じられた。


「父さん・・・・」


「ワイアット・・・・」


「ワイアットさん・・・・」


 ソニアたちの下に辿り着くと、やはりワイアットは、ソニアとエミリーの椅子になっていた。


 それでもアミルたちは、心のどこかで信じていた。まさか、自分の友人が父親が人間椅子になんかになっている訳がないと・・・


しかし、そんな期待も虚しくワイアットは、見事な人間椅子になっていた。溜息にも似た様子で3人はワイアットを呼んだ。


「はっっっ!!!ちっ違うんだ!アミル、ガルト、レイデルト君。全部、誤解なんだ。エレメーラが・・・」


 何も考えないようにしていたのか、アミルたちの呼び掛けに、反応するのにワイアットは、数秒かかってしまっていた。


「はぁぁ~~。分かってるよ。いつもの誤解だろ?後は、任せとけ。」


 ワイアットと長い付き合いのガルトは、色々と察しソニアの機嫌取りをすることにした。


「ガルトさ~ん。こっちは、ショタ君たちに教えてていいですか~?」


 ガルトがソニアに話しかける前に、エレメーラが口を開き、訓練のことを聞く。


「あぁ、始めてくれ。」


「は~い。二人とも~~こっちだよ~~。」


 エレメーラは、ガルトから訓練を始める許可をもらうと、アミルとレイデルトを呼んで、訓練場のダミー人形が置いてあるところに向けて、歩き出した。


「マカミ、母さんたちと一緒に待っててね。」


「アウ~~。」


 アミルは、マカミの頭を撫でながら再び離れる。マカミは、寂しそうに鳴いていた。そんなマカミを見てソニアは、膝に引き上げ寂しくないように優しくマカミを撫でる。


「アミル~~頑張ってね~~~。」


「レイデルト~~頑張って~~。」


 アミルとレイデルトに向かって、ソニアとエミリーが大きく手を振りながら、応援をする。アミルたちも振り返りながら、手を振り返す。


 応援してくれている二人の姿は、まさに運動会に応援に来ている母親そのものだった。まぁ、我がままを言えば、ワイアットには座っていてほしくなかった。



《種族》人間 《個体名》レイデルト・スレイガル 《神定武器》不明 《家系スキル》剛堅 

《Lv》17 《HP》110 《MP》89 《攻撃力》110 《防御力》85 《知力》50 《抵抗力》20 《素早さ》80 《スキル》帝国剣術・玄武、剛堅、ストレージ

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