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国を変えた天使

作者: taktoto

―ウィルダスト王国


世界歴976年。大国である隣国、ヴェスヘブン王国との争いに敗れた。

国は飢餓と貧困に喘ぎ、人口の30%が死亡。


残り60%がヴェスヘブンの奴隷とかし、

残り10%はスラム街で、日々脅えながら生活している。


少年はスラム街に産み落とされた。


親は誰だか分からない。

物心ついた時には既にホームレス。


生活の為に、殺人・窃盗・詐欺…

あらゆる悪事を働いていた。


そんなある日、いつもの様にヴェスヘブンで

窃盗を行った帰り道。


スラムの傍で張っていた憲兵に捕まる。

罪状は多々あるが、この前盗んだ少女は貴族らしい。


少年に言い渡されたのは…死罪。


貴族の物を盗めば当然の結果だが、

少年にとって「死」とは日常生活そのもの。


いつも傍らにあり、自分の人生そのものであった。


少年は憲兵に連れられ、豪邸へと案内される。

そこには少女と、その両親と思われる人物が待ち構えていた。


「こいつか!!娘の髪飾りを盗んだのは!!」


大声で叫び散らす父親。

そんな姿を冷めた目で見ながら、少年は呟く。


「…うるせぇよ。豚がピーピーないてんじゃねぇよ。」


自分の立場は理解していた。

だが、どうせ死罪なら…とせめてもの抵抗である。


父親はみるみる顔を赤くし、憲兵に向かって怒鳴り付けた。


「さっさとこいつを殺せ!!どうせゴミのような人間だ!!!」


憲兵は剣を抜くと、少年の喉もとへと突きつけた。

少年の首を憲兵が切り裂こうとした、まさにその瞬間だった。


「やめて下さい!!!」


少女の声がダンスホールに響き渡る。

憲兵は慌てて軌道をずらすと、剣は床を貫いた。


幸い少年の首はまだついている。

少し切れはしたが、直ぐにくっつくだろう。


首筋から血を垂らし、少年は少女に言い放つ。


「…どういうつもりだ?哀れみか!?」


その目には怒りの表情がハッキリと映し出され、

少女の目に鋭い眼光が突き刺さる。


少女は真正面からその目を受け止めると、

少年に優しく語りかけた。


「…あなた、何歳なの?」


少年は少女を無視すると、憲兵の剣を奪った。

慌てて少年を囲みこむ憲兵達。


少年は少女を見て、薄く笑いを浮かべると

叫びながら自分の腹を剣で貫いた。


「じゃあな!!お金持ちのクソっタレ共!!!」


―ドサッ


そのまま少年は床に崩れ落ちた。

辺り一面に血が広がっていく。


薄いく意識の中で、少女の姿だけがハッキリと見えた。

その瞳は涙を流し、何かを叫んでいた。


―何で…泣くんだろう…


少年の瞳に、それはとても不思議に映った。


誰からも認められず、誰からも必要とされず、ただ生きてきた少年。

その頭には、一体どんな思いが駆け巡っていたのだろうか。


少年が自害を決行し、早2週間。

少女の瞳に映っていたものは、荒れ果てた国ウィルダスト。


この地にしかない薬を求め、少女はこの土地までやってきた。


あの後、少年は即座に治療され、かろうじて生きていた。

目覚めぬまま1週間がたち、目覚めぬ少年を少女は手厚く看病した。


そんなある日、医師たちの会話の中で、

どんな怪我でも回復する「聖者の水」の話が出てきた。


その話を聞くやいなや、少女は旅立つ準備を始めた。

「聖者の水」を求めて。


そして辿り着いたのが、少年の国ウィルダスト王国。

噂を頼りに少女はここまでやってきた。


少女は一生懸命「聖者の水」を探した。

そしてついに、その水が眠る場所「聖者の頂き」へと辿り着いた。


道は険しく、気温は目まぐるしく変化する。

そんな辛い思いをしてまで、少女は何故あの少年を救おうとするのか。


今はまだ、誰にも知るよしはない。


そして、ついに少女は頂上へと辿り着いた。

少女は祭壇へと近づく。


祭壇からは虹色に輝く水が湧き出ていた。

少女はそれを瓶に詰めると、急いで帰路へ着いた。


少女が旅に出て一週間後、国に戻ると

大変な騒ぎとなっており、少女の誘拐説まで持ちあがった。

少女は家に戻ると、少年の元へと向かった。


しかし、そこに少年の姿は無く、使用人に問い詰めても

何も答えようとはしなかった。


少女は両親のもとへと向かい、問い詰めた。


「彼はどこですか!?答えて下さい!!」


両親は曇った表情を浮かべると、少女に向かい重い口を開いた。


「彼は…憲兵に引き渡したよ。お前を誘拐した罪でな…。」


少女は驚きの表情を浮かべると、両親に向かい迫った。


「私は私の意志で旅をしてきました…。彼は関係ありません!!」


一呼吸置き、少女は叫んだ。


『今すぐ彼を連れ戻して!!!』


初めて見る少女の姿に、両親は戸惑いながらも、

冷静に娘を説得しようと試みた。


「…いいか?彼はウィルダストの人間だ。」


「彼は…我々とは違うんだよ。」


それを聞くと、少女は涙を流した。

そして両親に向かい小さく呟いた。


「…何が違うんですか…」


聞き取れなかったのか、両親が少女へ聞き返す。

途端に少女は怒りをあらわにした。


「何が違うんですか!!同じ人間です!!」


「生まれた国が違えば…人間ではないのですか!?」


「お父様は…最低です!!」


少女の言葉に両親は戸惑いを隠せなかった。

少女は構わず言葉を続けた。


「彼は…彼はどこですか!?」


両親は戸惑いながらも少女に答えた。


「彼は…セントラルプロテクトに居る。」


―セントラルプロテクト


あらゆる犯罪者に対し、拷問と尋問を行う施設。

そこでの扱いは最早人ではない。

罪状が重い者は必ずそこへいったん収容される。


少女は走り出した。

セントラルプロテクトへ…。


辿り着いた場所では、塀の外からでも悲鳴が聞こえてくる。

少女は憲兵に告げた。少年を引き渡すようにと。


憲兵は上と相談すると、施設内に案内した。

そこで少女がみた光景は繰り返される拷問と尋問。


受刑者達の悲痛な叫びと、楽しそうな憲兵の表情。


そんな光景に少女は軽くめまいを感じながら、

案内されるがまま、所長室へと辿り着いた。


所長は少女に尋ねた。


「彼にあってどうするんですか?」


少女は署長に告げた。


「彼を連れて帰ります。」


所長は少し困った表情を浮かべながら、少女へと告げた。


「それは出来ません。上からの命令ですので。」


少女は怒りをあらわにすると、所長に命令した。


「王家直属、ディルガーナ家第一子として権限を発動します。」


『彼を私によこしなさい!!』


所長には理解できなかった。

何故この少女が、貴族の特権まで使い、あの少年を連れて帰ろうとするのか。


ディルガーナ家は、先祖代々国王の側近として仕えてきた家系で、

娘と言えども、伯爵と同等の権力を持つ。


そんな貴族が、スラム街の少年を特権まで使い救う。

多くの貴族を見てきた所長にとって、あまりに異質であった。


しかし、貴族としての命令であれば、従わざるをえない。

所長は頷くと、憲兵に合図をした。


数分後、少女の目の前に少年が連れてこられた。

少年は既に拷問を受けており、最早生きている事が不思議であった。


目覚めぬ少年に対するこの仕打ちが、少女の目に再び涙を誘った。

少女は憲兵に命令し、自宅へと少年を運んだ。


自宅の一室で、少年をベッドへ寝かせると

少女は手に入れた「聖者の水」を少年の口に含ませた。


少年の体に「聖者の水」が浸透して行く。

少年の傷はみるみる内に塞がって行った。


少女は安堵のため息をつくと、そのまま座っていた椅子で

深い眠りへとついた。


慣れない旅と、慣れない行為で疲れ切っていた。

そのまま数時間がたった。


少年が目覚めると、少女が傍らにいた。


―俺…生きているのか?

 こいつは一体…。


スヤスヤと自分の隣で眠る少女に、

少年は不思議な感情を抱いていた。


良く見ると、髪の毛は泥で汚れ、服もボロボロになっている。

何があったか分からない。


少年はそんな少女の髪を優しく撫でた。

そして少女をベッドへと移し、その場から離れた。


明かりを頼りに廊下を歩いていると、

使用人と出くわした。


―…まずい!!


いつもの少年であれば、使用人の口をふさいでいるだろう。

しかし、少年はそれをしなかった。


先に口を開いたのは使用人の方だった。


「…お体はもういいんですか?」


少年は唖然とすると、使用人に答えた。


「もう…大丈夫だ。」


使用人は「良かったですね」と笑顔で言うと、

そのまま少年の脇を通り過ぎて行った。


自分が眠っている間に、一体何が起こったのか。


少年はそれを知るために、少女の両親の元へと向かった。


両親の部屋に着くと、普通に部屋へと通された。

少年は戸惑いながらも両親の前へと立つ。


両親はそんな少年を見ると語りかけた。


「…体はもう…治ったのか?」


意外な両親の言葉に、少年は更に戸惑った。

そんな少年を見ると、両親は頭を下げた。


「…すまない。冤罪で君を痛い目に合わせてしまった。」


どうして良いのか分からない。

今まで人に頭を下げれた経験など無かった。


少年は小さく首を振ると、両親に向かい告げた。


「俺…いや…僕が…眠っている間に…何があったんですか?」


思わず少年は敬語で語りかけた。

そんな少年の言葉に両親は驚いていた。


両親は戸惑いながらも、いきさつを少年に説明した。


「…そんな事が。」


少年は下を向くと、そのまま黙り込んだ。

続ける言葉が見当たらなかった。


両親もそのまま黙り込んだ。


沈黙が両者を包み込む。

その沈黙を破ったのは、目が覚めた少女だった。


部屋の扉が激しく開いた。

凄まじい剣幕で少女が飛び込んできた。


少年も両親も驚きを隠せなかった。


すると少女が両親を問い詰め始めた。


「お父様!!これ以上彼を責める気ですか!?」


「そんな事は私が許しません!!!」


一人で何か勘違いしている様だった。

少年と両親は顔を見合わせると、思わずクスリと笑った。


「…何がおかしいんですか…」


少女は不貞腐れると、両者に向け言い放った。

その表情が面白く、少年と両親はまたしても笑った。


今度は声を上げて。


「???」


状況が分からない少女は一人困惑していた。

状況を父が説明し、ようやく納得したようだ。


そして父に言った。


「彼を…自由にしても良いですか?」


両親は顔を見わせると、小さく頷いた。

その光景を見ていた少年は、少女に問いかけた。


「お前…なんで俺にそこまでしてくれるんだ?」


少女は笑顔で答えた。


「ただ…あなたにも笑顔で生きてほしかっただけです。」


「それでは理由になりませんか?」


少年は小さく首を振って言った。


「十分だ…有難う。」


それを聞いて少女は嬉しそうに笑った。

そして、少年に問いかけた。


「あの…あなたの名前は?」


少年は下を見ると、少女に伝えた。


「俺は…名前なんてない…生まれてすぐ捨てられたから。」


少女はそれを聞くと黙った。

少女は両親へと問いかけた。


「彼に…名前を与えてくれませんか?」


両親は小さく頷くと、考え始めた。

予想外な少女の言葉に、少年はただ困惑するだけだった。


そして、いままで沈黙を保っていた母が、少女に告げた。


「…『レビン』とかどうかしら?」


「ヴェスヘブン語で『生まれ変わり』を意味するわ。」


そういうと母は少年に優しく笑いかけた。

少女も「それがいい」と優しく笑った。


少年は小さく「有難う」と呟くと、一瞬涙を浮かべた。

そして少女に問いかけた。


「お前の名前は…?」


少女はにっこり笑い答えた。


「『エンジェリア』」


「ヴェスヘブン語で『天使』の意味よ。実物は違うけど。」


照れながらエンジェリアは笑っていた。

レビンは小さく笑うとエンジェリアに向け言った。


「いや…少なくとも俺にとっては天使だったよ。」


エンジェリアは顔を赤く染め、それを否定した。

そんな二人を見ながら、両親は顔を見合わせ笑っていた。


そしてエンジェリアは一つの提案をした。


「ここで一緒に暮らしましょう。」


少年は笑顔を浮かべると小さく首を振った。

そしてエンジェリアに告げた。


「有難うエンジェリア…でも、俺にはやらなくてはいけない事がある。」


エンジェリアは問いかけた。


「やらなくてはいけない事?」


そう聞かれ、レビンは小さく頷いた。

そして辛そうに言葉を重ねた。


「エンジェリア…俺は昔、人を殺している。」


エンジェリアは下を向いて黙り込んだ。

レビンの過去は両親より聞いていた。


「それ以外にも、強盗…詐欺…色々と。」


「俺は…その償いをしなくてはいけない。」


エンジェリアはそれを聞いて、大きく首を振った。


「そんなの!!私が全部許すから!!」


「折角…折角レビンの笑顔が見れたのに…」


レビンは首を振る。

エンジェリアはそれを見ると、涙を流し部屋を飛び出した。


両親はレビンに告げた。


「レビン…私の権限を使えばそれは無かった事に出来るが…」


言いかけた父を制し、レビンは言った。


「いえ…決めた事ですから。僕はセントラルプロテクトへ自首します。」


「それが…俺の…エンジェリアへの誠意ですから…」


そう言うと、レビンは下を向き涙を流した。

父はレビンの肩を抱いて告げた。


「必ず…ここへ帰って来い。これは命令だ。」


レビンは小さく頷きお礼を言った。

そしてエンジェリアの元へと向かった。


部屋でベッドに蹲るエンジェリア。

レビンはベッドに腰掛け、エンジェリアに言った。


「エンジェリア…俺は必ずここへ帰ってくるから…。」


「その時は…俺はお前の傍にいて、一生かけて恩返しする。」


「待っててくれるか?エンジェリア…。」


優しく髪を撫でながらレビンはエンジェリアに告げた。

エンジェリアは顔を上げると、小さく頷いた。


「絶対…帰ってきてね?命令だから…。」


それを聞くとレビンは小さく笑った。

「父親そっくりだな」そう言ってエンジェリアを抱きしめた。


いつしか、二人の想いは通じあい、それは一つの感情の芽生えへと繋がる。

そっとレビンはエンジェリアを離し、別れを告げた。


エンジェリアは無理して笑顔を作り、レビンを見送った。


レビンはセントラルプロテクトへと入所した。


―それから7年


刑期を終えるころ、レビンは24歳になっていた。

一人街を歩く。街中には、ヴェスヘブンとウィルダスト。


両方の国民が楽しそうに生活をしている。

レビンは足を止め、辺りを見渡した。


『エンジェリア共和国へようこそ!』


そんな看板が目を引き、足早にエンジェリアの元へ向かった。

約束を果たす時が来た。


家へと辿り着くと、変わらぬ使用人がレビンを迎えてくれた。

レビンはエンジェリアの元へと走って行く。


「エンジェリア!!!」


扉を開けると、少女から女性へと成長したエンジェリアの姿があった。

エンジェリアは振り返ると、笑顔でレビンを迎えた。


「お帰り」


そう言ってレビンを抱きしめた。

レビンもそれに答える。


レビンは気になった事をエンジェリアに問いかけた。


「あのさ…エンジェリア共和国って?」


エンジェリアは少し照れると、恥ずかしそうに答えた。


「私…女王になったの…去年…。」


照れながら笑うエンジェリアを、レビンはボー然と眺めていた。


―去年


国王が倒れ、国には指導者の後継ぎが存在しなかった。

困った側近達は、自分達の子供から国王を任命する事にした。


そこにはエンジェリアも該当者として名前があった。

エンジェリアを知る者は、満場一致で賛成し、

エンジェリアはこうして国王と証人された。


エンジェリアはその意味を深く受け止め、

奴隷制度の廃止と、国の合併を提案した。


当初反発はあったが、それは父が上手く説得し

現在に至る。


レビンはそれを聞き、エンジェリアにお礼を言った。


エンジェリアは頷くと一言レビンに言った。


「私はただ…みんなの笑顔が見たかっただけ。」


あの時と同じ台詞を、あの時と同じ笑顔で言う。

レビンはエンジェリアを抱きしめ、そっとキスをした。


それから2年後、二人は婚約し物語は幕を終えた。

二人の物語は国中に広がり、それは後世まで伝えられる。


『国を変えた天使』という呼び名で。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何だか、エンジェリアがレビンにこだわった理由も分からなくて、そうなると、それ以外の全ての事はそこが起点なので、話の内容が飲み込めなくて、エンジェリアのお父さんもレビンを認める様な人じゃ無かっ…
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