表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/306

5-16 再度

 夕が作ってくれた料理は結構な量だったものの、結局二人で綺麗(きれい)に平らげることとなった。もちろん美味しくて箸が進んだこともあるが、夕が意外なほどに良く食べたことも大きい。この健啖家(けんたんか)ぶりを見れば、普段のあふれ出る元気もさもありなん。


「ご馳走(ちそう)さん」

「お粗末さまだよ~」

「ハハハ……」


 これがお粗末って、そんなバカな話があるかっての。世の料理の九九%はお粗末になっちまうぜ。


「まったく大した腕だな。お世辞抜きに賞賛しか出ないわ」


 せめてものお礼とばかりに、正直な感想をお隣に伝える。貰った弁当の出来からして、相当の腕前に違いないとは思っていたが、実際はその予想の数段上だった。しかも食材不足のハンデ付きでこれなので、食材さえ用意すれば満漢全席でも作りかねない。


「こりゃ今すぐ料亭でも開けるんじゃね?」


 そう口から出てふと思ったのだが、どこぞのお嬢様と予想していた通り、名のある料亭のご息女殿なのかもしれない。だとすれば、この高い調理技術や教養、時たま見せる妙に気品のある立ち振る舞いなども納得だ。


「やだもぉ~、うふふ、ありがとっ! お料理大好きだし、うんっ、それも楽しそうねぇ~♪」


 夕は褒められたことが相当嬉しかったのか、一人で盛り上がり始めると、


「ということでお客さん……」


 この流れを()みつつそう切り出す。


「これ以上の手料理が毎日食べられるということで……そっ、そのぉ……」


 さらに、何やら意味深なことを言い出して……


「お嫁にいかがかしらぁ!?」


 とんでもない事を聞いてきた!


「──んなっ!? ぶふぉっ、げほっ」


 あまりの驚きに()せてお茶を吹き出してしまったが、かろうじて空の茶碗で受け止める。


「だ、だいじょぶ?」


 そう言った夕の顔は、湯気が出そうなほど真っ赤であり、まずは自分の心配をすべきかと思う。


「んっ、あぁ、すまんすまん」


 えーと、なんだ、今確かにお嫁にって言ったよな? この夕のアタフタした様子からしても、夜目よめとかの聞き間違えじゃない、よな? そうなると、やはり告白、というかプロポーズされてしまった……で良いのか? おいおいおい、んなこと突然言われても、なんて答えたらいいんだよ。しかもこれ、二回目……と言っても、初回はただのおかしなヤツというか、そもそもそういう風に理解していなかったけどさ。

 だがこうして少なからず一緒に過ごした今なら、これが十割の冗談ではないのは、鈍感な俺でもさすがに解ってきた。ここでもし「ください」とひとこと言えば、即縁談が成立しそうな気さえしてくる。


「どぉ……かな? じっ、自分で言うのもアレだけど、ユ、ユウリョウブッケン、ダヨ?」


 あまりの展開に戸惑う俺をよそに、夕はぎこちなく詰まりながらも自己PRしてくる。


「まぁ、そうなんだけど……」

「ええっ、そうなの!? やったぁ!」

「なんでお前が驚くんだよ」

「えへへ」


 それでうっかり肯定してしまったのは失策だが、そう思ったのは間違いない。賢くて話も面白いし、料理もできて、将来美人確定の心優しい誠実な子とくれば、文句の付け所が無い優良物件だと思う。問題があるとしたら年齢差くらいで――って俺は何を真面目に考えてるんだよ! 婚活どころか就活すらまだまだ先だし、そもそもそれ以前の問題が山積みだっての。


「じゃなくて、そういう問題ではなくてだな……」


 例の事情が一番大きいが、加えてなぜ夕にここまで好かれているのか全くサッパリ解らない以上、受けるも受けないも無い。だがこれをどうやって夕に説明したら良いものか、実に困ったものだ。


「その何と言うか――」

「うん……解ってるよ」

「えっ?」


 夕は言い(よど)む俺を遮ってあっさりと理解を示すと、何かを悟ったような物悲しい目をした。


「その……答えを持ってきたってさっき言ったじゃない? パパの事情は、もう知ってるの。だから、えっと、ごめんね? 突然こんなこと言って困らせちゃって……。あ、もちろん冗談のつもりもないけど、褒められてついつい舞い上がっちゃってさ? あはは……」


 夕はつい勢いで言ってしまったらしく、冷静になった今は気まずそうに(ほお)()いている。それはさておき、やはりこちらの事情は知られているようで、犯人も俺の予想通りなのだろう。


「ヤスか?」

「あっ……うん。パパならすぐ解っちゃうよね。口止めには応じなかったけど、そもそも言う機会もなかったね、ふふっ。でも靖之さんを責めないであげて欲しいな? 無理やりあたしが聞いたんだから、怒るならあたしに……ね?」

「むぅ……」


 ヤスの処刑は先ほどの会議で議決されたばかりだが、夕に免じて鳩尾(みぞおち)一発に負けておくとしよう。それで夕の方だが、これ程にしおらしい顔で反省していて、それも俺のためにした無茶となれば、そんなもの怒るわけがない。

 ただそれでも、おとがめ無しでは律儀な夕は気に病みそうなので、何か体裁だけでも……うん、これだな。


「ひゃんっ」


 宇宙頭砕拳(でこぴん)をお見舞いしておいた。そうして宇宙こすも家秘奥義の直撃を受けた夕は、(あわ)頭蓋(ずがい)を粉砕され、壮絶な断末魔の叫びをあげている。またつまらぬものを砕いてしまったか。


「これで許す」

「ふぁぃ……」


 夕は反省した顔をしつつ、おでこを指でコシコシしている。


「まさかこの早さで聞き込みをしていたとは、お前の行動力にはいつも驚かされるぞ」

「あはは……パパのことに関しては、無限の活力で手段も選ばないかも?」


 俺がマップにポップした瞬間に、移動回数(無限)になってオブジェクト全破壊でしゃかしゃかと襲ってくる非破壊ちびユニットを想像してしまう。……おいおい、どんなお化け性能だよ。戦術が戦略を(くつがえ)すレベルの最終兵器じゃねぇか。


「せめて手段くらいは選んでくれよ……」


 ある意味ヤスは被害者であり、通り道に生えていたばっかりに粉砕された木というところだ。せめて木屑()は拾っておいてやろう。よく燃えそうだしな。


「はぁい♪」


 あ、これ絶対解ってないやつ。またやるやつ。もうしますんと同じ。

 にっこり笑って元気よく手を挙げる夕に、今後の苦労が容易に予想されてしまい、俺は軽くため息をつくのだった。


この子、スキあらばプロポーズしてきますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ