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5-03 脅迫

 自室で手早く着替えて台所へ行くと、毎度お世話になっている虎印のシリアルの準備をする。米を炊いた食事には味も栄養価も劣るが、何よりこの簡単・迅速さは素晴らしく、抗いがたいもの。人はそれを怠惰と言う。

 油断すると夕に思考を持っていかれるので、食事でさっさと忘れてしまおう。そう思いつつ、シリアルで山盛りの(さじ)を無理矢理に口へ詰め込んだところで……


 ピンポーン!

 

 チャイム音が鳴り響いた。

 まったく、こんな朝っぱらから誰だよ――って何をどう考えても夕以外にあり得ない。せっかく忘れようとしてるのに、こちらの思考を読んだかのごとく、すぐさま妨害しようとしてくる訳だ。「あたしを忘れるとはなにごとだぁー」と、イマジナリー・夕が叫びながら両手をブンブンして膨れている。

 それでさっきまで迷っていた夕は、急にナゼ──ああそうか。入るか迷っていたのではなく、早く来すぎてしまい、起こすのも悪いと思ったのだろう。そうしているうちに、俺が家の中を移動する音を聞いたか、もしくはカーテンが開いているのに気付いて……あっ、しまった、閉めとくんだった。

 つまり起きてるのは多分バレてるわけで、居留守――ではなく、(たぬき)寝入りしても仕方ないが……とりあえず放置してみよう。こちらに出る気がないと判れば、まだ帰る可能性も――

 

 ピンポーン! ピンポーン! ピピピピンポーン!!!

 

 ――ないですよね、知ってた。これが夕という子なんだよ。ま、それでも出ないけどな? さぁ飯の続きだ、もっしゃもっしゃ。


 ピロリン

 

 そうして無視し続けていたところ、今度は代わりに携帯のメール着信音が鳴った。その差出人はもちろん夕であり、チャイム連打も効果がないので、今度はメール攻撃に作戦変更してきた訳だ。

 それでこのメール、開かないという選択もあるが……一体なにが書かれているのか、正直気になるところだ。えーと、なになに……。


「ぶほぁ」


 文面を見た瞬間、シリアルを吹き出してしまった。そこにはなんと、『今すぐ会いたい』と一言だけ書かれていたのだ。

 おいおいぃ、昨日のメール騒動のときに夕が言ってたような、クッソこっぱずかしいのが来たんだが!? この子は俺の恋人かなんかなの!? そもそも、昨日の喧嘩泣き別れ状態から、どうしてこうなるんだよ……立ち直るの早すぎじゃね? なんにしろ、こんなもん放置だ放置!


 ピロリン


 あーもう、ほんとシツコイ子だなぁ! ……えーと今度は、『起きてるんでしょ? 開けてよ』とな。やはり起きてるのは完全にバレてるようで、出迎えるか返信でもしないと、つぎつぎメール爆撃してくる気だろう。仕方ないな、何か適当に返しておくか……『大地ならアタイの隣で寝てるわよ』っと。


 ――ピロリン


 早っ! えーと……『誰よその女!』と。なるほど、すぐにでもツッコミを入れたかったのか。


 ピロリン


 次いで二通目が来た。『もー、ちゃんと起きてるんじゃない。バカなこと言ってないで早く開けてよ。開けないと…………後悔しても知らないわよ?』と、どう見ても脅迫メールだった。


「おいおい、後悔してもって……」


 この子ってば、いったい何しようとしてんの!? これは困ったぞ、夕はやると言ったら絶対やる子なんだよな。問題は何をやらかしてくるか……ちゃんとわきまえてる子だし、物壊すみたいなガチでシャレにならんことは絶対しないだろうけど……アレかな、俺が地味ーに困ることでもするに違いない。


「ぐ、ぐぬぬぅ……」


 こういう場合、「〇〇してやる!」と具体的に言われるよりも、何するか指定されない方がよほど効く。結局のところ、最も怖いモノは人間の想像力なのだ。

 こうまでされては対応せざるを得ないので、ひとまず出て、冷たくあしらって帰らせるのが良いだろう。それ以外に手がないとも言うが。


「ええい、結局こうなるのかよ!」


 それにしても……最初からそうだったが、あの手この手で手段を選ばないし、夕の辞書には「(あきら)める」という言葉はないのだろうか。


どうやら大地君は、夕ちゃんのガッツを甘くみているようですね!

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