Interlude The reflection of the sunshine (2)
出店でクレープを購入して、バイクまで戻ってきたところ……
「おっまたせぇ~!」
「……すー……すー」
待ち人はサヤサヤと眠っておられた。
「うふふ、お疲れのようですね。ここはそっと──」
「ホッペぷすぅー」
「なーこちゃんっ!?」
「……んゆ」
手応えアリ。ふにふにです。
「クレープの〜お届けだよぉ〜! ハイ、あ〜ん」
「……ん……あま、さわー……善き」
付属のスプーンで青いクリームを掬い、小さく開いた口元に運ぶと、もにゅもにゅと目を瞑ったまま食べ始めた。まるで餌付けされる雛鳥のようで、なんとも可愛らしい。
「……すー……すー」
満足げに眠りについたお雛様をバイクに置いて、すぐ近くの四人掛けテーブルへ移動すると、ひ~ちゃんと横並びで腰掛けた。広い公園の休憩スペースともあって、大きな照明が何基も付けられており、互いの顔や手元のクレープも良く見える。
「わあぁ♪ 上に乗った水餅が青色に光ってて、とぉってもキレイです!」
「ああ、これは何度見ても美しい。我らが母星を宇宙から眺めれば、このように輝いて見えるのだろうね」
キミから見た彼も、ね。
「さて、眺めるばかりでは味気もあるまい。――ハイッ、あ〜ん」
「ふふっ、いただきますね。──あむ…………んんん~っ! もちもちしゅわしゅわで、美味しいですねぇ~!」
「あむっ…………そう、この爽やかなソーダ味がまた、格別なのだよ」
キミのその笑顔も、ね。
「ちなみに、この青い花は何か分かるかい?」
「パンジー――いえ、このサイズだとヴィオラの花弁? とは言っても、ほぼ同一種ですけど」
「へえ、そうなのかい。いやしかし、花びら一枚から一瞬で判別してみせるとは、流石はお花博士だね」
「えへへ」
この知りたがりの性格がゆえに比較的ものを識っているが、こと生物関連の知識においては、彼女に遠く及ばないようだ。
「ちなみにお味は──あむっ…………ほとんどしませんけど、オシャレ度が大幅アップです!」
「ああ、多少高くとも女性客が殺到するというものだ。……それにしても、この至る所まで繊細にデザインされたメニューが、あの豪快極まる銀河親父殿の手で作られていると考えると……くくっ、なんだか可笑しくなってしまうねえ」
「もぉ、そんなこと言っちゃダメですよ?」
「こいつぁ失敬っ! ……なぁんてね?」
「うふふ。なーこちゃんてば」
そうして和やかに雑談しつつ、仲良く一つのクレープを分け合い、彼女との至福の一時を過ごすのであった。
◇◆◆
クレープを食べ終えたところで、こうして彼女を誘った目的を果たすべく、少し踏み込んだ話を聞いてみることにした。
「ところで……先ほどの様子からするに、もう大丈夫のようだね?」
「あっ、えと、そのぉ……はい。ご心配おかけしました」
「ふふっ、友を案ずるのは当然のこと、気にしなくて良いさ。それに杞憂だった訳で……その、なんだね、彼とは上手く話せたのだろう?」
「っ! ああ、やっぱり………………――っそのっ! なーこちゃんっ!」
「はいっ」
突然の気迫の籠った呼び声に驚くなか、彼女は背筋を伸ばしてこちらの瞳をしっかりと見ると、
「今日は本当にありがとうございましたっ!」
そう告げて深く頭を下げてきた。
「それは……」
「はい。全部に対して、です」
「ん…………全て偶然で片付けるには、流石にできすぎていたかな」
罪悪感から頬を掻きつつそう呟くと、彼女はゆっくりと頷き、その心の内を語ってくれた。
「最初なーこちゃんに誘ってもらって、大地君が来ることと場所を聞いた時には、自分の運命を悟って……ああ、ついにこの時が来ちゃったんだなぁ、と。そのぉ、お恥ずかしながら、その時の私はもういっぱいっぱいで……視野がすっごく狭くなっていて、ただの偶然だと思っていたんです」
「さもありなん。わたしは本件に関して、キミから何も聞いていないからね」
「はい。でも全てを終えた今になって良く良く考えてみると、こんなにスゴイなーこちゃんですし、きっと全部解っていた……私を後押ししてくれてたんだって、ようやく気付けたんです」
「そう、だね……あくまで推論の域ではあったが、大外れはしていないと直感していたよ」
キミの温かな抱擁と瞳に心癒され、突然の恋に落ちたあの夕暮れ時、今度は私が彼女の奥底に潜む闇を払ってあげられればと希った。それで手始めに二人の過去を調べたところ、彼の父があのキャンプ場の火災で亡くなったことや、彼が同学年の女児を救助したことを、五年前の記事から見つけ……そして、ゆ~ちゃんと出会う前の彼の異常に排他的な様子、「私にそんな資格――」と語った彼女が抱く彼への激しい罪の意識、それらの情報が一本の線に繋がったのだ。
「その……差し出がましい真似をして、本当に申し訳――」
「そんなっ、とんでもない! 私、なーこちゃんにすごく感謝してるんですよ。貴女のおかげで、きっかけをくれたおかげで……こうして前に進めんたんですから、ね?」
「っ……そ、か。ああ、良かった…………下手に背を押せばキミを傷付けてしまうのではないかと、すごく悩んでのことだった、からさ」
正直これはかなりの冒険であり、最悪嫌われてしまうことも覚悟していた。だがそれでも、彼女には辛くとも前へ進んで欲しいと願い、そして今の彼ならば真摯に向き合ってくれると信じ、思い切って声をかけたのだ。
「……はい。とっても勇気が要ることで……私が同じ立場なら、きっと見ているだけしかできなかったと思います。以前なーこちゃんは、自分が臆病者だと言ってましたけど、そんなこと全然ありませんよ」
「ん、まあ、何にでもとはいくまいさ。こうして無けなしの勇気を出せたのも……うん」
誰よりも大好きなキミを想ってのことだから、と続きは言えないもの。だって、臆病者、だからね? ふふふ。
「っ……ありがとう、ございます。なーこちゃん」
「くふっ。そんな改まれると、照れるじゃぁないか――」
「うっ、くっ……なーこちゃんは、こっ、ごんなにぃ……私のことっ、真剣に考えでっ、悩んでくれてぇ……うぅぅ」
「ひ、ひ~ちゃんっ!? えとえとっ!」
想い人が大粒の涙をボロボロと零すのを前にし、どうして良いか分からず慌てふためいていると、彼女は私の両肩を縋るように掴んで悲痛な声を上げた。
「なのにぃっ! 私はっ! すべてを捨てて諦めようと、一瞬でも考えてしまったの……そんな貴女の思いを、裏切って……!」
「なっ!」
なんということだ。それほどまでにキミは、追い込まれていたというのか……ああ、思い留まってくれて、本当に、良かった。それに大地君、キミにはもうどれほど感謝してもし足りないよ。
「なーこちゃん……ごめんなざい……ごめんなさいぃ……」
「いいんだ……いいんだよ、ひ~ちゃん。もう終わったことなのだから。キミがいまこうして元気でいてくれる、それだけで、わたしは、ね」
あのとき彼女がしてくれたように、ゆっくりと言葉をかけながら背中を優しく擦り、ハンカチで涙を拭いてあげる。すると彼女は、かつて無いほど弱々しい瞳でこちらを見つめ、不安を帯びた声で問いかけてきた。
「うぅぅ……なーこちゃんは……それでもまだっ……お友だちで、いて、くれるの?」
「当然だとも! こちらからお願いしたいくらいさ! だからね、もう自分を責めるのはお終いにしよう! そのようなこと、わたしは全く望んでいないよっ!」
キミにそんな瞳は似合わない、私を射止めたあの瞳の輝きを取り戻して欲しい……そんな願いを目力に込めて、真っ直ぐ見つめながら力強く答える。
「っ! …………っうん。うんっ……ありがどぉ、なーこちゃん」
その想いが伝わったのか、見つめ返してくる彼女の瞳には、あの暖かくも芯のある光が戻ってきているように感じられた。
「ああ、なーこちゃんも……同じこと、言ってくれるのね」
「っと……被ってしまったかい。いやはや光栄なことだ、くくく」
うむ、やはりキミとは、似た者同士だね。
「ううっ……なーこちゃんも、大地君も……やさしいなぁ、やさじいなぁ……うっ、うぁぁぁ」
「なあっもう、そんなにっ、泣かないでくれたまえよぉ。わたしっ、まで……もらい泣きしていまう、ではないかっ……ぐすっ」
「だ、だってぇ……こんな、私なんかに――っ、て言っちゃダメ、だった。わだしにぃっ、なーこぢゃんみたいな素敵なお友達がっ、でき、て……うれじくてぇ、うれしくでぇ、ううわぁぁぁ」
「そんなの……っわたしだって、友達になれて、嬉しいのだからっ……お互い様だよ……ありがどぉ、ひ~ちゃん……」
顔を寄せ合い、一つのハンカチを濡らし、温かな想いが混じる。そうして私たちは、繋がれた確かな絆を感じ合うのであった。




