8-14 回物
咲茅との自己紹介を終えて昼食タイムとなり、ひなた、目堂、咲茅が弁当をテーブルに出してきたので、とりあえず俺も愛嬢弁当(半分)で対抗してみる。いくら料理長手作りの一品とは言え、さすがに塩握り単騎では戦力不足と思われるが、友軍からひなた弁当の分け前が補給される予定なので、勝利は約束されているのだ。
それでなーこの陣地を見てみると……そのひなた弁当だけでなく、どういうことかパンが十個近く積まれていた。……友軍の戦力、高すぎ?
「その大量の購買パンはどうしたよ。お前さん、そんな大食いキャラじゃねぇだろうに」
「親切な先生がぁ~、余ったの~、届けてくれた~?」
ああ、例の高級肉の先生か。
「……余ったなら、シカタナイな」
「そ~そ~」
購買パンが余るなど絶対にありえないことなので、その憐れな先生が気合ダッシュか裏ルートで入手してきたのだろう。ああ、出世欲が出て悪魔と取引してしまったばっかりに……本当にご愁傷さまです。
「欲しいならぁ〜、あげるよぉ?」
「やったぜっ、なーこちゃん太っ腹!」
「まぁ〜こんな物より〜? ひ〜ちゃん特製弁当だよっ! さっそくぅ〜、ぱかっとな〜」
なーこが二段弁当の蓋を開けば、栄養バランスも良く色合い鮮やかな副菜と、ゆかりご飯が現れた。どの品も食べる人のことを考えて丁寧に作られていて、ひなたらしい弁当だ。
「うう~ん、美味しそっ! ひ〜ちゃん、お料理スッゴイ〜じょーずっ!」
「いやぁ、ほんま大したもんやでぇ」
「えへへ、ありがとね」
「……夏恋と雲泥の差」
「さーやーちゃーん?」
「なははっ──っとうちも料理ぜんぜんやし、なこやん笑とる場合ちゃうかぁ。……あっ、なぁなぁひなやん、うちの嫁さんにならへん?」
「まあ、それは素敵ですね♪」
「おおおっ?」「ひ〜ちゃんっっ!?」
「うふふっ、冗談ですよ~」
この普段は真面目なひなたが、そうイタズラっぽく言って小首を傾げており、その意外な姿に俺も周りも驚かされる。
「な、なぁんだ〜、もーびっくりしたぁっ! あははははぁっ!」
「うんうん、ひなやんも冗談言うよーなったかぁ。仲よーなってきた証やんな。ええでええでぇ」
「……ああ、そうだな」
辛い過去と折り合いがついて少し肩の荷が降り、本来のちょっとお茶目な性格が現れたのだとしたら、とても喜ばしいことだ。
「そいじゃ〜、お裾分けだよぉ〜」
「いえーい!」
「よろしくっ!」
「さぁ〜て、まずヤス君の取り分はぁ……ドルルルルルル、じゃんっ!」
なーこは器用に口でドラムロールを奏でると、
「ご飯っ!」
そう告げてご飯箱の方を丸ごとポンとヤスと前に置いた。
「はいじゃぁ次はぁ~、大地君──」
「待って待って、僕ご飯オンリー!? んなことあるぅ!? も少しなんとか!」
「え〜? 半分もあげたのにぃ、贅沢だねぇ〜?」
「バランスぅ! どうかおかずも下さいっ!」
「しょーがないなぁ〜。じゃ〜、これとこれねっ」
「あざますっ!」
ご飯箱の上におかずを乗せてもらうヤスを見て、俺はどう受け取ろうかと考えたところで……咲茅が横の食器棚に手を伸ばし、皿と箸を取ってくれた。
「これ使っときぃ」
「サンクス。家庭科室が部室って、便利だなぁ」
「せやろぉ。余裕で暮らせるでぇ」
冷暖房完備な上に、水道やコンロに冷蔵庫まであり、実に快適に過ごせそうだ。弓道場とはえらい違いだぜ。
「じゃぁ大地君は〜、これとこれとぉこれっ!」
「どもども」
俺が受け取ったところで、早速と皆で合掌して食べ始めた。
「んんん〜、美味しいっ! ひ〜ちゃん天才っ!」
「ああ。すごく優しい味で、身体に染みるぜ」
「えへへ……よかったぁ」
夕のおにぎりにひなたの弁当……俺はなんて恵まれたヤツだろうと、ありがたみを噛み締めつつ頬張る。
「おおお、小澄さんの手作り料理、そんなにかっ! こりゃ楽しみだなぁ」
ヤスがウキウキ顔で弁当へ箸を伸ばしたところ……
「まず卵焼きのお味は――」
「……おいしい」
なんと目堂が横から取り上げて口に入れ、代わりに感想を言った。
「んええっ、目堂さん? そんなに卵焼き欲しかったなら、取らなくても普通にあげたのに…………っよし、気を取り直して、次は肉団子――」
ひょいぱく!
「……これも善き」
「ちょちょちょ、おかずが秒で消えたっ!? 一人残されたご飯はどうなるんだぁ!」
「……じゃぁそれも」
「ぎゃぁぁ取らないでぇ! ってか自分の弁当もあるんだし、そんな食べれるの!?」
「……自分のは食べ飽きてる……代わりにあげる」
目堂は自分の小さな弁当のおかずを、ヤスのご飯箱の上へ次々と移していった。……なるほど、そのつもりでの強奪か。いやぁ、目堂も結構グイグイいくなぁ。
「あ、ども。それなら、まぁいっか…………おおっ、どれもすごく美味いっ!」
「……そ」
「目堂さんが作ったの?」
「……ママの」
「そっかぁ、お母さん料理上手なんだね」
「……ん……ありがと」
「でも、ぼかぁ目堂さんが作ったのも食べてみたいなぁ」
「っ!? …………ヤダ、めんどい」
「ハハハ、目堂さんらしい。うーん、でも残念だなぁ」
「……………………気が向いたら」
「おおっ、楽しみにしてるよっ!」
そんな良い雰囲気の二人に、はす向かいのなーこと頷き合っていたところ……
「あっ、部長発見! きんきゅーかくほー!」
部室の入口から弓道部後輩が顔を覗かせ、そう叫びながらヤスに駆け寄ってきた。
「あれぇ徳森ちゃん、僕に何か用かなぁ?」
瞬時にデレッと顔が伸びるヤスを見て、目堂は口をへの字にして一言呟く。
「……絶対作らない」
「え、と、目堂さん――」
「師範が呼んでるんですぅっ! はーやーくぅー!」
「ちょちょ、徳森ちゃん!?」
徳森に腕を引かれて退場していくヤスに、とても不機嫌そうな目堂……その何ともヤスらしい詰めの甘い展開に、俺となーこはヤレヤレと首を振るのだった。




