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8-10 妹愛

 そうして三人で雑談しながら夕特製の朝食を取る中、そもそもなぜヤスがここに居るのかと考えたところで、先の発言を思い出した。


「ヤス、さっき何か助けてくれとか言ってなかったか?」

「んーー、そうだったっけ?」

「じゃぁオメェ、何しに俺んち来たんだよ……」

「僕何しに来たんだ?」

「俺が知るか!」

「そらそうだな! ……あー、さっき僕なんて言ってた?」

「はぁ。たしか……妹の瑠香るかがどうのとか?」

「っ!? 妹……瑠香……ぐぅっ、がぁぁぁ……」


 妹の名前を出した途端、頭を抱えて苦しみ始めたヤスに、隣の夕と顔を見合わせて首を傾げる。


「えと、どこか悪いんです?」

「どうせ頭が悪いんだろう。たたいたら治るかもな、セイッ!」

「あだっ――ハッ! そう、瑠香るかが大変なんだ!」

「おう? お前の頭のがよっぽど大変そうだが」


 漫画などでよくある、自己防衛のために脳が耐え難い記憶を封じていた、とかだろうか。


「んで?」

「それがなっ、聞いて腰抜かすなよ? なんと……」


 そこでヤスはグッと拳を握ると、悲痛な叫びをあげる。


瑠香るかに彼氏ができちまったんだぁぁ!!!」

「……え、そんだけ?」

「むむむ……?」 


 想像以上のどうでも良い話に、腰じゃなく拍子が抜けた。ただ隣の夕もそうかと思いきや、何やら不思議そうな顔をしており……実は本当に大変な話なのだろうか。


「普通にめでたい事なんじゃ?」

「おまっ、何言ってやがんだ、瑠香るかはまだ小学生だぞ! 恋愛なんて早すぎる!」

「あら、私も恋する小学生ですよぉ?」

「たしかに――って夕ちゃんは中身大人じゃん! ぼかぁ真剣なんだ、茶化さないでっ!」

「あはは、ごめんちゃい」


 舌をぺろっと出してヤスへ軽く頭を下げる夕だったが、そこでコホンとせき払いすると、少し真面目な顔に変えて言葉を返す。


「でも靖之やすゆきさん? そもそも恋愛に年齢なんて関係無いですし、妹ちゃんだからと言って甘く見ては失礼千万っ、ちっちゃくてもレディとして扱いましょう!」

「む、むぅ……そう、かもだけど……でも、どこの馬の骨とも分からんヤツが相手だぞ!」

「馬ならいいだろ、お似合いだ」

「よくありませんがぁ!? てかお前いま、瑠香をバカにしたなぁ!? やんのかゴラァ!」

「してないしてないめっそうもない。馬も鹿もございません」


 おっとぉ、厄介ガチシスコンだったか……こりゃ妹側をからかうのは厳禁だな。


「てかお前さ、どうせ可愛いがってた妹を取られて悔しいだけだろ。もう高校生なんだし、さっさと妹離れして素直に応援してやれよ」

「そ、そんなこと、ねぇし? ただ単に僕は、変な男にだまされてるんじゃないかと心配なだけで……」

「あー、もしかして相手……オッサンとか? なんか最近、パパ活? とかいうの流行ってるらしいし、それだとガチのヤベェ話に――」

「クラスメイトらしい」

「ならいいだろ!? 子供同士なんだしほっとけや! はい解決、相談終わり! さ、学校行こうぜ!」

「ふぎゃぁぁぁ、いやだぁぁっ、瑠香ぁぁっ!」


 シッシッと手を振ってやれば、半泣きで駄々をこねるヤス。近年(まれ)に見るみっともなさであり、こんな兄だから愛想尽かされたんじゃなかろうか。俺には妹が居ないので、ヤスの嘆く気持ちはいまいち分からないが……もし将来に実の娘ができて彼氏を連れて来た時には、絶対こうはならないようにしなければ。


「くっそぉ、薄情者の大地は話にならねぇ!」

「おいテメェ!」

「でも夕ちゃんは、相談に乗ってくれるよな? な?」

「え、えーとぉ……」


 夕が困り顔で俺とヤスを交互に見てきたので、「スマンけど、ちょっとだけ聞いてやってくれ。マジ鬱陶うっとうしいし」の意を込めて、ゆっくりとうなずいておく。


「はぁ、しょうがない人ですねぇ」

「さっすが夕ちゃん! いや、マイアンエンジェル様!」

「もぉ~、そんなヘンテコな呼び方するなら、聞いてあげませんよぉ?」

「サーセンッ! 失礼シャッシタ! どうかご容赦を!」


 幼女に平身低頭するこの情けない姿、写真に収めて妹ちゃんに送れば、実に面白いことになりそうだ。


「それで靖之さんは、私に何を聞きたいのかしら?」

「えーと、僕は一体どうしたら、瑠香を卑劣漢の毒牙から守れると思う?」


 卑劣漢の毒牙て、きっとごく普通の善良な小学男子だろうに……シスコンフィルターやべぇな。


「やー、どうしたらも何も……靖之さんがここへ来た時点で、ほぼ解決してると思いますけどねぇ」

「えっ、そなの?」「……ほう?」


 夕が自明とばかりに告げた回答は、ヤスだけでなく俺にも意外なものだった。


「あ! さてはアレか? 『なぜならここにはあたしが居て、今からバッチリ解決するからね!』ってやつ」

「んにゃ、言葉通りの意味よ。あたしの推測が正しければ、もう何もしなくても解決する。でも確証を得るには、いくつか靖之さんに確認しないとだけどね?」

「おっけおっけ、なんでも聞いてっ!」

「ふーむ……」


 思えば以前俺がひなたの事を相談した時も、ひなたがドジっ子の演技をしていることを見抜いて意外な助言をしてくれたので、今回も同様に夕は何か気付いているのかもしれない。それで、ヤスの悩み自体は正直どうでも良かったが、その夕の推理にはとても興味が湧いてくるのだった。


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