4-03 詐欺
「今日もパパのために愛情込めて作ってきたよぉ♪」
夕は俺を連れて適当な空席に着くなり、弁当取り出してテーブルに広げ始めた。
「……いや、気持ちはありがたいし、物凄く美味しいのも認めるが……こんな貰ってばっかも悪いしさ? ほら、材料費とかもかかってるわけだしな」
小学生に奢られているのと同じな訳で、そういう意味でも素直に受け取り辛い。それで改めて券売機に戻ろうと席を立とうとするが、
「あーもう、パパはそんな細かいこと気にしなくていいのっ!」
またもや夕に手を引かれて、強引に座らされてしまった。
「そもそもあたしは、パパに返しきれないほどの恩があるんだから、このくらい安いもんなの。こんなのは、利息分にもなんないわ。だから、あたしの一生をかけて返していくんだからね♪」
「ええぇ……」
それにしても、当人に全く覚えが無いのに、これでもかと恩返しの押し売りしようとしてくるの何なん? そういや、昨日の小澄も恩人がどうとか……世は空前の恩返しブームなのか? もしかして、新手の詐欺……御礼御礼詐欺? 先日お世話になったものですが、御礼がしたいのでこの口座に……みたいな。あほらし。
「そんなウルトラヘビーな恩を着せた覚え、全く無いんだが? 一体いつの話よ」
「うーん、八年前くらい?」
「いやいや、お前さんはそんときいくつだよ……赤ちゃんか一歳くらい? そんで俺は十歳……おい、一体どんな状況だ!」
どうも、八年前に大切なおしゃぶりを拾っていただいたものです……いやねぇから。
「うふふ。じゃぁ……そのうちということで、いかがかしら?」
「いやどっちだよ!? ってかそれ恩返しですらねぇよ、ただの貸しだ! だあぁぁぁもうわっけわからん!」
こうして突如現れる不思議ちゃんモードの夕には、頭を抱えるしかない。しかもこれが信じがたいことにも、適当に嘘や冗談を言っている顔でもなく、正体不明のむず痒さが付いてくるのだ。やはり、夕がとんでもない勘違いか記憶違いをしている説……もしそうなら、本人が嘘と思っていないから納得である。もしくは、俺の方が記憶喪失説や、異星人や異世界のようなオカルト的摩訶不思議な秘密が隠されている説……うん、ないわ。ファンタジー小説じゃあるめぇし。
「あはは、パパったらおもしろーい♪」
俺が困惑する様子を見た夕は、そう言ってクスクスと笑う。ただ、面白がってはいるものの、俺を馬鹿にしているという雰囲気は全くない。どうやら俺とのこのやり取りを純粋に楽しんでいる様子であり、こんな顔をされてしまえば、こちらの毒気も抜かれるというものだ。ほんとこの子、何なんだろうね。
「そういうわけだからぁ、パパはなーんにも気にせず、あたしのお弁当食べてねっ!」
「はぁ……分かったよ。大人しくいただくとする。にしてもお前、意外と頑固よな?」
「あらっ、パパに似ちゃったのかもね~? ふふっ」
「そりゃすげぇこって」
本当の親子なら、良くありそうな微笑ましい会話だが、夕の場合は似られるもんなら似てみろってもんだ。それと、俺も頑固か……たまにヤスにも言われるな。俺自身はそう思っていないが、頑固者とは得てして自分が頑固であることを認めない者なのだろうから……つまりそういうことなのかもしれない。
御礼御礼詐欺……なんて恐ろしいんだ




