表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
269/307

7-72 夕陽

 それからテントで皆と合流した後、夕とひなたを待ちつつ、き火の後片付けをしていた。


「いやいやぁ、まさかのまさか、あの少年が少女だったとはな。最初あの子に嫉妬しっとしてたオレ、間抜けすぎんだろ、ハハハ……」


 ヤレヤレと首を振って自重気味につぶやくマメに、「あと未来人で二十歳の天才学者お姉さんだぞ」と付け加えれば、どんな顔をするだろうな。


「まっ、僕も似たようもんだよ。実はうっかり惚れそうになっちゃってさぁ、ぼかぁホモになっちまったのかとガチで焦ったっての。んでもマイエンジェル・夕ちゃんなら、そらしゃーないわって納得──あっ、トイレで大地が言ってた、そのうち解決するってやつ、そういうことかぁ!」

「ああ。でもお前のポテンシャルなら、男子でもいけるんじゃね?」

「いけませんがぁ!?」


 大三郎君とか、普通に許容しそうだけどな。ナゼかY染色体を持ってる以外は、完璧に女子だしさ。


「……バカしかいない」

「だぁねぇ〜? ……でもぉ、そー言いつつ〜沙也さやちゃ~ん? じつはぁ~、興味あ――」

「今すぐ黙りなさいこの馬鹿夏恋バカナコ

「ひゃぁ~こわぁ~♪」


 うん、聞かなかったことにしよう。でも良かったな目堂、マメと話し中のヤスには聞こえてなさそうだぞ。


「なぁ部長、ちょい聞きづらいんだけどな……あの子と宇宙こすもは、その……そういう仲、なんだよな?」

「おうよぉ。こいつらはもうラッブラブ、まさに運命の二人ってやつだね! だからぼかぁさ、この先ずっと応援するって決めてんだ。あれよ、推し活ってやつ?」

「ほー、そこまでか! いやぁ、あんたも隅におけねぇな? ま、小学生ってのが色々アレで苦労しそうだけど、あの子なら将来性無限大だし、それでも余裕でおつりが来るってヤツだ。……小学生だから、だったらドン引きだけどな? ハハッ」

「ったく二人して好き勝手言いやがって……夕の前では絶対この話すんなよ?」


 周りにバレるのは半ばあきらめているし、歳の差をからかわれるのも気にしないことにするが、俺以外から夕へ伝わるのだけは絶対阻止だ。


「え、なんでだ? あんたら付き合ってるんじゃ?」

「それがなぁ……大地はまだ告白できてないんだわ。あれで付き合ってないとか、もはや奇跡。まぁそのジレジレっぷりも、推し要素ってやつだけど?」

「ちょっ宇宙、何やってんの!? あんなスゲー子、モタモタしてたらアッという間に取られるぞ?」

「だぁもう分かってる、こっちにも色々あんだよ!」


 それもあって今さっき夕を誤解させてしまったし、本当に申し訳なさしかないが、かと言ってそう簡単な話でもないのだ。


「マメよ、その辺は触れんといてやってくれ。詳しくは言えんけど、マメの想像の百倍大変なもん抱えてんだわ、この二人。つーわけでな、僕らは二人の邪魔にならんよう、しずか~に応援すんのがベスト」

「いや応援も要らんのだが? ただまぁ、その……秘密で頼む、マメ」

「おおお……了解」


 マメは俺の顔を見て一瞬驚くが、すぐに真剣な顔でうなずいてくれた。


「沙也ちゃんもぉ~、分かったかなぁ~?」

「……ん?」

「(これは正真正銘の機密情報だ。もし漏らしたら、部室で上映会を執り行う)」

「……上映……何を?」

「(キミの『参考資料』フォルダ)」

「っっっ!?!? …………ウン……キヲツケル」


 プルプル震えている目堂の方も、問題なさそう──目堂的には問題しかなさそうだが。

 そうして話しながらも片付けが終わり、あとは帰るだけとなったところで、夕とひなたが手をつないで戻ってきた。


「遅くなりましたぁ! お片付け全部お任せしてしまって、すみません」

「そんなのいいよぉ〜! 大事なお話〜、だったんだよねぇ?」

「はいっ! おかげさまで、とっても仲良くなれました♪ ね?」

「……う、うん」


 夕は気まずそうに頷きつつ、ひなたと俺をチラチラ見ている。このソワソワした様子からすると、無事に誤解が解けたようなので、まずは一安心だ。



   ◇◆◆



 それから皆でキャンプ場の入り口へ移動し、事務所へレンタル品を返却し終えると、最後に駐輪場で集合した。そこで幹事なーこがせき払いをして改まると、皆に向かってシメの挨拶を始める。


「あ〜、前略っ! 中略っ! 今日は~すっごぉぉく、楽しかったよぉ! みんなぁ~、参加してくれてぇ~ありがとねぇ~♪」

「こちらこそ、ありがとうございましたっ!!!」


 瞬速で片手を額に敬礼するマメを皮切りに、皆で名幹事殿にお礼をすると、続いてバイクや自転車に荷物を積み込んだ。ちなみに最大の積荷──目堂は、完全に体力が尽き果てたようで、一瞬にしてスヤスヤリン。


「もうだいぶ暗いからぁ~、気を付けて帰ってねぇ~? 特に〜、二人乗りの人は〜?」


 なーこに注意喚起されて、頷き返そうとしたところ、代わりに横からひなたが答えた。


「大丈夫ですよ。もうは沈みましたが、夕空の星が地面を照らしていますから」

「っ……そう、だね」

「ん?」


 街よりも光が少ないので、確かに星はよく見えるが、もちろん夜道を明るく照らすほどではない。それでマメヤスと共に首を傾げていると、ひなたが夕を真っ直ぐに見つめて、ただ一言だけ告げる。


「どうかお願いしますね」

「……うん。任せて」


 真剣な表情で意味深なやり取りをする二人を見て、ひなたの言葉の裏の意味をようやく理解し、再び申し訳無い気持ちが湧いてしまう。だが、この期におよんで俺が言えることなど何もなく、ただ口をつぐむしかなかった。

 そしてひなたは俺と夕に微笑むと、ひとり暗い夜道を走り出す。

 それを複雑な気持ちで見ていると……


「(なあに、わたしが照らしてみせるとも)」


 なーこがボソリとそう呟いて、俺へ不敵にウインクしてきた。それでまずは言葉通りとばかりに、パチンとハイビームへ切り替えると、前を進むひなたへ向けて真っ直ぐ走り出す。

 ああ、お前ならきっと……その熱い想い(ひかり)をいつか届けて見せるのだろうな。

 それで俺も頑張らねばと思い、まずは先の件を夕へどう話そうか思案していたところ……ヤスが両手を広げ、元気良くこう提案してきた。


「なぁなぁ、学校前まで競争しようぜっ! 明日の昼飯をけてなっ!」

「おいおい部長、あんた元気過ぎだろ――っああ! いいぜ、乗ったっ! でも二人乗りの宇宙こすもらは勝負にならんし、部長とサシの勝負、だな?」

「うん、しゃーないね。てな訳でまたな、大地、夕ちゃん!」


 二人は自転車にまたがり、俺へ小さくサムズアップすると、バイクを追い抜く勢いで走り去っていった。……ははっ、余計な気を遣いやがって。ほんと、いいヤツらだぜ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ