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7-47 透明

※問題文再掲

『見えざれどみせる物、優しき隣を集むれば、見えざるものをも見せんとす』

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 ひなたは問題用紙を皆が見やすいように前へ出すと、『見えざれどみせる物』が意味するものが『心』にはなり得ない理由を、目堂と説明し始める。


「それで問題文を良く見てみますと……最初の『見えざれどみせる物』の『物』は漢字で書いてあるんですが、後ろの『見えざるもの』は平仮名なんですよ。なのでもし心だとすると、こちらも平仮名で書かれるべきかと思います。それで表記ゆれの可能性は──」

「……ありえない……夏恋だし」

「ええ、私もそう思います」

「……逆に……後ろは物体以外」

「はい。沙也さんが仰るように、後ろの平仮名の『見えざるもの』の方は、無形で概念的なものを示しているのでしょう。そうしますと、やっぱり最初に大地君が予想された通り、次の謎解きの情報なのではないでしょうか」

「「「おおお~」」」


 二人が説明し終えると、周りから拍手があがる。


「なるほどなぁ、まさに問題文を良く読めってヤツか。字のごとく隅々まで注意深くな」

「くぅ、オレらが先生から散々聞かされてるセリフだよなぁ!」

「ああ。なのに目堂の読み上げを聞いただけで解き始めた俺らは、まだまだ考えが甘かったって訳だ」

「ま、僕は良く読んでても全然気付かなかったと思うけど! ってな訳で、二人とも良く気付いたよね。よっ、お手柄っ!」

「だな。これはヒントになるぞ!」

「やりましたね、沙也さんっ♪」

「……ふふ♪」


 お互いの両手ピースの指先をちょちょんと合わせて喜ぶ二人を見て、なーこが満面の笑みを浮かべている。単純に二人が活躍したことに加えて、なーこへの信頼を前提とした推理を披露してくれたことが、お友達マニアにとって何より嬉しいのだろう。


「そうなると、実際に物として存在してるけど見えない――要は透明な物体ってことになるな」

「……あー、じゃぁやっぱ違ったか」

「ん、マメは何か?」

「おう。実はさっき空気はどうかと思いついてたんだが、みせる物のとこでつまずいてたんだ。でもこれで違うとハッキリした」

「なるほど。確かに空気は完璧に透明だけど、一般的な感覚だと物体じゃないよな。まぁ厳密な話をしだしたら、空気分子の集まりだし物体かもしれんが」

「そそ」


 目堂達がヒントを見つけてくれたおかげで、空気という有力候補を早々に選択肢から外すことができた。


「んー、他に透明な物って言ったら…………水とかガラスとかペットボトルなんかか? あー、でも今のマメの話でいくと、水はちょい怪しめ?」

「かもな。んで水以外も確かに透明な物体、なんだが……」

「えー、こっちもダメなん?」

「何というかだ、それらは空気と違って普通に見えるし、俺らはそこに在ると視認できてるのが引っかかってなぁ」

「あーそっか。透明だけど見えざる物じゃない……くっそぉ、違うかぁ~」


 ヤスは悔しそうにしているが、こうしてアイディアをポンポン出してくれる事はありがたい。


「んー……なぁなぁ大地。そもそもさ、透明なのになんで僕らは見えてんの?」

「えっ! それは……ん、んむぅ、なんでだろ?」


 そこでヤスから素朴な疑問が出るが、答えに詰まってしまう。そんなこと考えたこともなかった、とばかりに周りもポカンとしていたところ…………物理マニアが答えた。いや、うっかり答えてしまった。


「単体としては無色透明でも、他の物体との境界が視界内にあれば、そこに在ると認識できるぞ。例えば容器に入れた純水は、水面という空気との境界が見えるからこそ、そこに在ると分かるんだ。じゃぁ空気とガラスのような透明同士の場合にそれらの境界がなぜ見えるかと言うと、光の屈折率が違うので見え方に違和感が生まれるから。結局のところ『透明』っていうのは、その物体の中を通ってくる光が、遮られず、曲げられず、波長も変わらず、そのまま網膜まで届くということだからな。あと条件によっては境界面での反射光が見えるし、その場合はよりハッキリ認識できるぞ」

「「「……」」」


 今度は別の意味で、皆がポカンと口を開ける。……夕先生め、またやらかしやがって。専門分野の話になると、リケジョな夕はついつい反射的に答えてしまうんだろうなぁ。


「っ!? ――ってこの前テレビで言ってたぞ! ボ、ボクはよくわかんなかったけどっ! ハハハ……」


 くっ、苦しい言い訳だぁ! どう考えても、良く分からなかった人ができる説明じゃない。


「あはは~、あっさ君は~、勉強熱心だねぇ~? えらいねぇ~?」

「う、うん。科学系の番組、大好きだぞ!」


 これは本当だろうな。プロジェクトZとか絶対好きそう。


「うへぇ、僕は絶対見ようと思わないなぁ。家でまで勉強するとかイヤすぎる! 学校だけでたくさんだっ!」

「おい待て、オマエは学校でもろくに勉強してなくね?」

「たしかに――いや、メッチャしてるし!」

「ほぉ、じゃぁ試験前にノート借さなくていいな?」

「サーセンッシタァッ!」


 ヤスのアホっぷりに、周りから笑いがこぼれる。……ふぅ、なーことヤスのおかげで、なんとか有耶うや無耶(むや)になったようだ。良かった良かった。


「……んでさ、大地? 結局のとこ、どうやったら見えないんだ?」

「えーと、その透明な物体の境界が視界に入りきらないくらい巨大で、しかも反射光が入らないようそれを正面から見る、とか?」

「そういうことかぁ――っていやいや、ここにそんなデカいもんないぞ?」


 ヤスがグルリと辺りを見回して、両手を上げる。そもそもの話、見えない物を探すこと自体が難しいのだ。


「そうなんだよなぁ…………って待てよ。現実に大きくなくても、大きく見えれば良いだけだし、見る側が凄く近付けばいいのか? そしたら、背後からの反射光も自分に隠れて入らないしさ?」

「……あっ!」


 そこで俺の言葉で何かをひらめいた様子の目堂は、口元に手を当てて声を漏らすと、次いで見えざる物の答えをつぶやいた。


「……もしかして――」


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