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3-10 朗報

 もうじきSHR(ショートホームルーム)が終わって放課後となるが、俺たち──特に部長のヤスは基本的に弓道場に居なければ怪しまれるため、尾行するにしても限られた時間しか自由に動けない。そうなると、せめて小澄の放課後の行動を事前に把握しておきたいので、まだ小澄からの警戒が薄いヤスが近付いて行き先を確認する――そういった計画でヤスと事前にメールで打ち合わせてある。

 そうしてSHRが終わり、中嶋先生が教壇から離れると同時に、手筈てはず通り密偵()のヤスが小澄の席に向かって中腰で歩き出す。だがそこで……まさかの中嶋先生が教室の外から小澄を呼び出した。

 くっ、これは想定外の展開……だがこれはチャンスでもあり、二人の会話から重要な情報を得られるかもしれない。そう考えて計画続行のハンドサインを送れば、ヤスは合点承知とサムズアップを返し、次いで二人へジリジリと接近して諜報(ちょうほう)活動を開始する。

 こちらは部活に行く準備をしつつ、さり気なく横目で見てみれば……ヤスは戸の内側で靴紐(くつひも)を結ぶフリをし、廊下へ聞き耳を立てて――って俺らの内履きに紐なんかねぇから! やっぱアホだわこいつ……どうせ漫画か何かの猿真似でもしようとしたんだろ。時そばかよ。

 案の定、クラスメイト達がヤスへ不審な目を向けながら教室を出ていくが、小澄達にバレなければ問題はない。今後ヤスがクラス内でおかしなヤツ扱いされるだろうが、元々だから問題はない。うん、万事恙無(つつがな)し。

 しばらくして中嶋先生の話が終わったのか、草がそそクサと撤退し、諜報内容を報告しにこちらへ中腰で向かってきた。どう言い繕っても怪しさしかない……ああ、他人のフリしたいなぁ。


「大地、朗報だ。中嶋はいろいろな部活の体験見学を勧めていたぞ。特に『文化系』ってのをめっちゃ強調してた。あと、今の時期に運動部に入るのは、例え経験者でもあまりお勧めできないとかなんとか」

「よっし、ナイス!」


 思わずガッツポーズ。いやぁ、ほんと仕事できる先生だわ。もう尊敬しちゃうね。


「肝心の小澄の反応は?」


 弓道部に固執されればそれまでであり、ぬか喜びの皮算用ほど悲しいものはない。そもそもこちらが皮を取られる(狩られる)側なのだ。


「えーと、『そうまで仰るなら、しばらく見学してみます。いろいろな分野に触れて見識を広げるのは良いことですね』って言ってた。あと、ちょっと聞き取れなかったけど、まだその時じゃないみたい、とかなんとか。何にしろ真面目さんだねぇ。あと可愛い」

「よーしよし、こいつは運が向いてきたな!」


 ここしばらく不運続きだった俺は、この僅かな幸運にも喜びを見出し、意気揚々と弓道場へ向かうのであった。



   ◇◆◆



 道場に着いた俺たちは、すぐに探りに行きたい気持ちを押さえ、まずは普段通りの行動を取ることにした。更衣室で(はかま)に着替えて部員達と正座で並び、福田師範のアリガタイお説教とヤス部長の事務連絡を聞き終えると、練習が始まった。

 道場内を見渡せば……射場(しゃじょう)に立って弓を引く者、ゴム(きゅう)巻藁(まきわら)で型を確認する者、時計役と早気(はやけ)(矢を早く放す癖)の克服に取り組む者、弓の手入れをする者、はたまた走り込みに行く一年生やその付き添いの二年生と、数十人それぞれが自身に必要なことをこなしている。

 このように各々の活動の自由度がとても高いため、それぞれの部員がどこで何をしているかは、教育係の先輩くらいしか把握していない。なので三年生にもなれば、少しの時間くらいなら出かけていても誰も気にしなかったりするのだ。

 そろそろ動く頃合いかと考えていたところ、ちょうどヤスがこちらへ寄ってきたので、合図をして部屋の隅へ移動する。


「それじゃ早速探りに――とは言っても、俺ら二人が同時に行っても目立つだけだし、交代制が良さそうか」

「だね。ちなみに居場所だけど、今日は手芸部に行ってみるって言ってたかな」

「手芸部か……」


 白羽――いや、赤羽の矢が立つ第一号は手芸部か。昨日の宇宙首脳会議(のうないかいぎ)では、人間剣山とミシン大暴走で針山血の池地獄という結論……うーん、すでに不安しかない。


「天馬せんぱぁーい♪ ちょっといいですかぁ?」


 まずはどちらが行くべきかと考えていたところ、突然ヤスにご指名が入った。なかなか面倒見の良いヤツなので、後輩からは意外と慕われているが……扱いやすいとも言う。ちなみに俺の方は、眼光を()き散らしている成果もあり、気軽に声を掛けてくる後輩は一人も居ない。


「お、徳森ちゃんじゃないかぁ~。何か用かな~? へへへ」


 その人気の部長殿はと言うと……すでに顔がゴム弓のように伸びきっている。部長の威厳なぞ皆無だ。


「そのぉ、弓の張り方が良くわからなくてぇ、教えてくださぁい♪」


 うーん、あざといなぁ。ヤスはこういうのが好きなのか。いや、何でもいけるんだったな。


「もちろんいいよ! と言いたいところなんだけどね……」


 ヤスはこちらを見た後に、目線を道場の扉へ一瞬だけ送って戻した。その合図の通り、ここはまず俺が行くのが良いだろう。


「例の仕事なら俺がやっとくから、お前は徳森の面倒見てあげな」

「いやぁ悪いね。大変だろうけど、僕の代わりによろしく頼むわ」


 都合の良い設定をでっちあげれば、ヤスはすぐに意図を()んで、上手く答えてみせる。こういうところは信頼できるヤツだ。


「あ、宇宙先輩……その、突然横から、ごめんなさい……」


 ヤスへの人懐っこい態度からは打って変わって、本当に恐縮ですといった様子である。


「……ああ」


 俺は徳森へ適当に返事を返すと、速やかに道場を出て校舎に向かう。

 こうして、あたかも部長の重要な仕事を代わりに請け負ったという(てい)で、大手を振って道場を抜け出すことに成功した。かなり幸先の良い流れと言える。

 それに、奇しくも先日のアドバイス通りとなったじゃぁないか、ヤス君。あとで顧問料として、ジュースでも(おご)らせるとしよう。


弓道関連は基本的に私の経験談です。

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