6-34 期待 (第3幕前半 最終話)
ヤスが好き勝手言いつつ走り抜けて行った家の門を眺めながら、俺と夕は二人並んで呆れ混じりに呟く。
「騒がしいヤツだぜ、まったくよ」
「うふふ、ほんとよねぇ。でも、靖之さんにはすごく感謝してるわ。パパもでしょ?」
「んだなぁ」
最後の脱出失敗を除けば、今日はまさにパーフェクトヤスと言うもので、二人でそのありがたみをしみじみと噛み締める。
「……ん」
「……うん」
だが話が一旦途切れると、夕がまた少しモジモジし始め、こちらも落ち着かなくなってきた。やはりヤスが居なくなって二人きりになると、こうしてちょっと微妙な雰囲気になってしまうようだ。……うーん、あいつは潤滑剤にもなってたんだよなぁ。馬油少し置いてって欲しかったぜ。
「――こほんっ」
そこで夕が軽く咳払いをし、空気を変えようとしてきた。助かります。換気大切です。
「あたしたちもお家に入って、つづきしよっか?」
「っえ!? ……あっ、あぁ。ソウダナ!」
未来の話の続きを、だよ! 何考えてんだこのヤロウ、ほんと落ち着けや! あーもう、偶然にも夕のセリフが被ってしまって、夢がフラッシュバックしちまったわ。まさに恥ずかしさの極み。
「ヨーシ、未来の話、楽しみダナァ!」
「うん? そう言ってくれると、あたしも話し甲斐があるわね?」
夕は少し不思議そうな顔をしているが、さすがにバレてはいないようだ。こんなことが万一にでも夕に悟られたら、一体どうなることやら……危ないところだったぜ。
そうして一安心しながら家に入り、廊下を移動すると、後ろから夕がパタパタと付いてくる。
「………………………………あっ」
だが途中で後ろの足音がピタリと止まり、代わりに夕から漏れた声が耳に入ったので、振り返ってみる。するとそこには、両手を口元に当てて、見る見る間に顔を紅潮させていく夕が居るではないか。……ちょぉ、もしかして、気付かれた!?
「あ、あのねっ!」
「ン、ドシタ?」
「…………そっ、そそ、そういう意味で言ってないよ!? お、お話の! 続きなんだからねっ!?」
「っ!」
おうふ……さすがに夢の中身まではバレてないとしても、似たような勘違いをしたことは気付かれちまった! ほんっと鋭い子だなぁおい!?
「いやいやいや、解ってるって! お、俺が勝手に取り違えて一瞬驚いただけ!」
「うん、うんうん! そうよね! ご、ごめんね? 紛らわしい言い方しちゃって!?」
赤い顔で両手をブンブン振る夕につられて、俺の動悸もブンブン加速していく。
「いいって、いいって!」
「でも、えっと、そのぉ!」
宇宙驚天動地祭、ここに開・催!
うおーい、どう収拾付けるんだよコレ!?
「夕!」
「はい!」
「大丈夫!」
「はい!」
一体何が大丈夫なのか自分でもサッパリ分からないし、夕の方も完全に勢いだけで頷いている。
「全然、全く、気にして無いから!」
「はい! …………ハイ?」
よし、これで祭りは仕舞いだ! スタッフさーん、撤収してくださーい。
「ふぅぅ」
「それはそれで、むぅぅ……」
いやぁ、そんな不満そうな顔されましてもね。もう後夜祭も終わりましたし?
それで仕舞った物の事はさっさと忘れよう、そう思っていたところ……夕が唇を尖らせてボソリと爆弾発言を呟く。
「…………………………………………………………そっちのつづきでもいいのに」
「なぁぁっ!?」
「あっ、あ、やっぱ今の無し! 無しで! そう! ムードとか大事だもんね!?」
「っっっ!」
そのムードが良い状態とやらを想像して、また動悸が高まってしまう。
せっかく仕舞えたと思ったのに……どうして片付けた物をすぐまた出すのかなぁ、この子はさ!?
「だぁもう! お互い照れくさいだけだから、この話ヤメッ! ヤメだぁ! 終了っ!」
「うんうんうん! そうね!」
夕は首が取れんばかりに激しく頷いているので、今度こそバッチリ同意してくれたようだ。
いやほんとこれ、続けても誰も得しないやつよ? 自爆テロはやめてね? 俺はひたすら平和を愛する男、宇宙大地なんだよ。目指すはピース&ピースからの二個二個Wピース。
「「……」」
だがこうして話が途切れると、また自然と二人で見つめ合って、静かになってしまう。
「「っく……」」
でもその沈黙がなんだか妙に可笑しくなってきて、
「「ぷふふっ」」
ついには二人揃って吹き出してしまった。
「もーなんなんだろうねぇ? ふふっ、おっかしいの♪」
「まったくだぜ、ははは」
この名状しがたい気持ちは何だろうな。えらくフワフワしてどうにも落ち着かないけれど……それも悪くないと感じる。
「ふわぁって何だか落ち着かないけど……それも悪くないかなぁってね?」
「え! ――っくく」
俺が思った事と全く同じ事を言い出した夕に、再び笑いがこみ上げてきた。
まったく、似たもの父娘かよ――ってまぁ、未来じゃ義理の父娘だったらしいし、そういうこともあるか。
「えっ、え? あたし変なこと言ったかしら?」
「いやいや、なんでもねーよ。秘密だ」
「ん~? ――もぉっ! もったいぶらず教えなさいよー!」
先ほどの照れも薄れたのか、夕はぷっくり頬を膨らませて文句を言ってくる。これは放っておいたら、またいつぞやのようにポコポコと叩かれそうだ。
「そうだなー、未来の秘密を聞いてからな?」
「あっ、言ったわね? よーし、そうと決まれば早速れっつごぉー!」
夕は片手を大きく振り上げて、茶の間の中へと楽しげに行進していく。
そこで俺は……今朝から待ち望んでいた元気な夕を、またこうして見られたことが本当に嬉しくて……その姿をただぼーっと目で追ってしまう。
「……ああ、よかった」
今回の騒動は終始辛いものであったが、それでまた一つ夕との絆が深まったのを感じており、こうして喉元を過ぎた今となって思えば、これも怪我の功名だったと言えるのかもしれない。夕との関係がこの先どう変わっていくのかは想像もつかないが、それはきっと……とても良いものになるのだろうと期待してしまう。
「ほーら、パパーはやくー!」
すでに定位置の座布団に座った夕は、こちらに片手を突き出して催促してくる。
「そんな急かすなっての。まったくよ……ふふっ」
そうして俺は、少々むずがゆくも暖かな気持ちを抱いて、まだ見ぬ未来へと一歩踏み出すのであった。
第3幕前半部までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。
大地君が成長して嬉しい! 早く未来の話が聞きたいぞ! などと思っていただけましたら、ぜひとも【★評価とブックマーク】をよろしくお願いいたします。
第3幕前半部では、いよいよ彼女や未来の秘密が語られる……という体でイチャイチャおうちデートとなります(笑)。
その前に、今回グッと距離が縮まった夏恋ちゃんのスペシャルエピソードが挟まれますので、そちらと合わせてどうぞご期待ください!




