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2-05 齟齬

「おい、あの子ヤベェな!」


 俺の席までやってきたヤスは、興奮した様子で机に両手をつくと、突然そう切り出してきた。何の事かと思ったが……ヤベェと言えば小澄しかいなかった。


「ああ、ヤベェなんてもんじゃない。あれほどの逸材は俺も見た事ねぇぞ」


 もはや天然キャラの天然記念物だ。


「僕もだよ。あれは天然だよね? 見てるだけでドキドキが止まらないよ、なっ!」

「それな。入って来た瞬間目を釘付けにされたわ」


 特にあの大転倒はすごかった。いつ何をやらかすかと思うと、恐怖でドキドキが止まらない。


「あの様子だと、お相手は居るんだろうなぁ」

「そりゃそうだろ、世の中そんなに甘くねぇよ」


 誰かの手助けなしで小澄が生きられる程、この世は易しくない。


「だーよなぁ……」


 ヤスはナゼかがっかりしており……まさかお前、相方になって面倒を見たかったとでも? 正気か?

 するとそこで、ヤスの隣に女子制服姿――顔を見れば(うわさ)の小澄だった。


「あのぉ~」


 俺達に話しかけてきたとなると……入部希望だな! まずいなぁ、まだ打開策を考えついていない、どうするか……よし、ここは。


「あぁん、俺らに何か用かぁ?」


 DQNのごとくガンを飛ばして、精一杯の威嚇いかくをしてみる。弓道部、もとい俺の命は俺が守る!


「はいぃっ! あ、あああ、あのぉ、ま、間違っていたらごめんなさい。宇宙、だ、大地君……ですよね?」

「そうだが!?」


 おうふ、ナゼばれている。やはり入部(ねら)いかっ!


「あっ、やっぱりだね! あの私、大地君と同じ銀丘小学校だったんですけど、おぼえ――」

「知らん!」

「そ、そんなぁぁ……」


 仏頂面を作ってばっさり切れば、小澄はガックリと項垂れる。だが記憶にないのは本当であり、これが初対面のはずだ。

 そこでやけに静かなヤスが気になって様子を見れば、小澄の主に胸の辺りを注視しており……なるほど、標準よりもかなり大きいようだ。行動のインパクトがあまりに強すぎて、外見なぞまるで目に入ってなかった。


「えっ、きゃぁっ!」


 ヤスの隠す事のない熱い視線に気付いた小澄は、頬を赤くして胸元を押さえる。


「お前なぁ、それは失礼すぎだろ」


 紳士のマナーとして一応注意しておく。セクハラが許されるのはイケメンだけ、これ常識。


「な、僕は、えっと、違うんだ! ただ純粋に美しい物に、目を奪われていただけで……そ、そういう大地だって、さっき目を釘付けにされたって言ってたじゃないかぁぁ!」

「おまっ、なにを――」

「え、ええぇぇ! 大地くんもですかぁぁぁ!? 恥ずかしくて死んじゃぅ……」


 小澄は真っ赤になった顔を(うつむ)かせて、今にも泣き出しそうにしている。


「ヤスてんめぇ、何を捏造(ねつぞう)してやがる! そんな事言ってねぇよ!」


 こいつ、窮して俺にも罪を被らせるつもりか? 断じて許せぬ!


「いーや言ったね。さっき、あの胸ヤベェよなって話に、大地は激しく同意し・ま・し・たっ!」

「ぅぅぅ……」


 小澄は恥ずかしさの限界に達したのか、しゃがみこんで小さく(うめ)いている。


「何の事だ……――あっ、おまっ、さっきのは胸の話だったのかよ。てっきり俺は、小澄があまりに天然なアレ過ぎてヤベェなって話だと、あ……」


 しまった。


「うあぁぁぁーん」


 小澄は泣きながら教室の外に走り去って行った。ちなみに、その途中に居た男子学生にこけながらの体当たりをして、真っ赤になったその男子に全力で謝られている。

 それで残された俺達は、その様子を遠い目で眺めつつ語り合う。


「大地」

「何だよ」

「どっちもどっちだと思う」

「……だな」


 流石にこれは悪い事をしたと、猛省するのであった。


アンジャッシュ回です。

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