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9 ツンデレ女王と突貫野郎

 王宮にて。マクナイアはティアラを冠し、玉座についていた。それも、指揮杖を手に。

 

 ティアラの戴冠……これはマクナイアが王女から、女王へと変化した瞬間だった。

 

 

 広間に……王宮内に緊張が走る。

 名目上は正当な王位継承のはずなのに……事実上のマクナイアは部外者。ソルトたちの世界の外のもの。

 それも、敵対すらしていた……

 

 

 だからソルトは単に権力の道具として、マクナイアが欲しかっただけに過ぎない……

 

 しかし。『前国王』タロット自らの手での戴冠であった。この事実は王宮魔術師たちを愕然とさせていた……亡き国王が、その虚ろな骸骨の手でマクナイアにティアラを……

 

 

 ゆえに、もはや王宮の支配者はマクナイアだ。マクナイアはクイーンなのだ。

 

 

 

 ここで一気に、マクナイアの肉体と精神に戦いの疲れが襲ってきた。戴冠で魔力は強化されたとしいえ、張りつめていた緊張が解けたのだ。

 

 睡魔が忍び寄ってくる。これにはっとし、『覚醒アウェイク』魔法をさっとかける。

 マクナイアはきほん消費魔力の少ない魔法しか使わないが、代わりに体力がまた消耗したことに少し焦れてしまう。

 眠るか食べるかしないことには、体力も魔力も回復しない……

 

 

 この光景に、ソルトはしばし厳粛な顔をしていたが。やがて首を振ると、ふっと息を吐いていた。

「デザートをお持ちしろ……マクナイア様は疲れておいでだ」

 

 この命令に、給仕がトレイを直ちに運んできた。フルーツ盛りだくさんのクリームパフェが乗っていた。マクナイアの大好物……

 

 

 マクナイアは、つい反射的に叫んでしまった。

「ありがとう、パパァ!」

 

 はっとしたが、もはや手遅れ。顔面が熱くなった。

 

 

 緊張の糸が解けたのは、王宮魔術師たちもいっしょだった。かれらはいちように爆笑していた。うれしそうな、好意的な声だった。

 無理もない。数日前までのなにも知らない無邪気なお子様お姫様が、前世の『覚醒』以来、ツンツンした高慢な生意気娘になっていたのだから……

 

 

 マクナイアは頬を染めたまま、みんなの眼を無視して夢中になってパフェを食べていた。

 

 その間に、ソルトはマクナイアに対し。前国王からの王権の権限移譲についての手続きを進めていた。

 その後の意図は知れたものではないが。とにかく。

 

 

 これでマクナイアは……いわゆるツンデレ女王様となった。

 

 …………

   …………

 

 すぐに自室の研究室に戻るマクナイアだった。女王としての公務なんて、まだできたものではないし、そもそもする気もない。……ことがバレたら、(いつでも身につけられるものの)ティアラは回収され、玉座にすえ置かれた。つまり女王から王女に戻ってしまったが、マクナイアは気にしなかった。

 

 いつものように一人机に向かい、椅子に座り、ついでに情報を映す『水面』も開いておく。これはネットを使う21世紀現代日本の子とほとんど機能面で変わらない。『鏡』も隣にある。

 

 

 検索する……

 マクナイア自身の魔術レベルは3になっただけだった。それなのに、なぜあれだけの『力』が使えたか?

 

 手に入れた女王の宝冠ティアラが、恐ろしいアイテムだったのだ!

 使用者のレベルを一気に+7するという。マクナイアはそれにより強化されると、以下のステータスとなっていた。

 

 

クイーン・マクナイア

年齢:12歳

身長:141cm

Lv: 10(3+7)

筋力: 13

体力: 15

知恵: 44

魔力: 38

敏捷: 16

器用: 14

技能{

武術:素手護身術

魔術:魔力系・サイコ系発現 潜在魔力:未覚醒推定不能

技術:【省略】

追記事項:【削除】}

 

 

 繰り返すが、平均的な大人の人間の能力は10である。

 平均とは呼べない、その道のプロ、とされるまでのレベルは10。マクナイアはそのLv10にして、魔術師としては傑出している……ソルトよりも。

 しかもまだ子供だから、伸びしろはあるし。

 

 さらに調べる。

 

 

【能力値の目安】

1~3  幼児レベル

4~7  子供並

8~12 平均的

13~  良い

20~  優秀

100~ 規格外

 

 

【Lv値の目安】

1    初心者。油断したら素人以下。

2~3  経験者。初級だが現場で働ける程度。

4~7  中級者。すでに素人とは別次元。

8~12 上級者。その道のプロ。

13~  開眼者。道を極めようとする達人。

20~  超人。一生かけても困難な領域。

50~  神レベル。人間には到達できないはず。

 

 

 つまりティアラは初心者を一気に上級者並みにしてしまう……

 

 

 これはチートと呼べるのか? 国王、女王だけがこんな強大な力を手に入れ……

 マクナイアは皮肉に否定した。想う……

 

 

(チートってズルだろ、反則技だろ

   チート無双したい卑怯者はせいぜい遊んでいろ

     世の中はそんな軽薄なものではない

 

 薄っぺらい卑屈なヒーロー願望、破壊衝動あるガキ

   自分は死にたくない、傷つきたくないからの理由だけだろ

     そんなに己を強くしたいって

 

 いくら強くても等身大の人間、致命部一撃ヒットで即死なのに

   力だけ身につけてなんの意味がある?

 

 

 強くても戦えないヤツ

   弱くても戦えるヤツ

 

 強くても戦わないヤツ

   弱いのに戦いたがるヤツ

 

 しかし戦いとは下策

   戦いそのものを避けるヤツ。中策

     戦いを封じて起こさないヤツ。上策……)

 

 

 ……マクナイアはいつの間にか眠っていた。

 なにか騒々しい夢を見ていたが、よく思い出せなかった。子供がはしゃぎまわるような楽しい夢だった。

 

   …………

 …………

 

 起きると、いつになく王宮は静かだった。いや、いつも人の声は静かなのだが。おかしい。朝なのに小鳥のさえずりも聞こえないなんて……

 

 ノックがした。応じると、一人の女魔術師が入ってきた。ソルトではない、それだけで非常時だとわかる。問う。

「なにがあった?」

 

「ティアラが砕かれました……おそらくバレット・アウトロードに! ソルト様は応戦されて重傷を負われました。バレットは……そのまま逃走され」

 

 そんな! あの宝冠を……改めて気づく。

 

 バレット・アウトロードにとって関係のないこと……力の多寡たかなど。それが機略だけで邪神を破壊せしめたバケモノ高校生……

 

 

 『水面』に魔力を垂らし、現場を確認する……やや過去の映像を。すると。

 

 聞き覚えのある、叫ぶ男の声。……どこか。上!

「外道鉄砲玉、突貫します!」

 

 ガガ、ガシャーッッッーンーーー!!! ザリザザザリッッッ!!!


 耳障りな音とともに、派手にガラス片が割れて飛び散った。

 学ラン姿の高校生! 一本のロープをたよりに王宮の広間の天井近くの窓を打ち割り飛び降りてきて、一瞬のうちにティアラを奪うや、ゆかに叩きつけ打ち割った……


 次いで、彼はソルトと剣戟戦を始めた。互いに布の服に短剣と軽装だが、激しい切り裂き合いだ。両者ともたちまち、腕の背などに刃を受け、血しぶきが散った。

 ソルトとバレット。腕は互角か? しかし……。


 

(違うの? いや、バレットとは違う!)

 

 たしかあいつは彼! 玉城環たまき たまき! 『覚醒』直後のあの『水面』情報の中で見た高校生……

 我島の教え子とは違ったのか。彼がいま高校生なのなら!

 

 

 でも……それでは間尺に合わない。バレット・アウトロードは誰なんだ? そしてこの玉城とは?


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