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11 鉄砲玉の任官試験

   ……………

 ……………


(人間は才能ではなく個性、というが

   能力からして、ひとにより歴然たる差がある

 人間は平等にはできていない

   もっとも完璧な人間などいるはずもない


 能力が高い人間が優遇されもてはやされるだけなら

   支配者はよほど傲慢で高慢ちきになるだろう

 人心は離れるだろう……その時点で魅力があるとはいえない

   カリスマは人たらし、なにより魅力



 しかし能力の多寡はあまり問題にならない

   勝負をしたとき?

     能力の高い方が勝つ。成功する


 これは当たり前だ。しかし

   ならば敵より能力が少し高ければいいだけだ

     それも戦いに必要な能力だけ



 負けるとしても。負けるなら、いくつか選択肢がある

   負けるような戦いはするな

 あるいは

   どうでもいい戦いには負けておけ

 あるいは

   手があることがわかるだろうか?

     能力が低くても敵をダシ抜ける


 負けるが勝ち、というが。そんな卑屈な負け犬根性論ではない

 どうでもいい戦いに負けている限り、負けるが勝ちを名乗っていられる


 常に全力で戦って正面から粉砕、そんなことをいつまでも続けられるものか

 ならばどうでもいい戦いは手を休めて負けておいた方が、戦力を温存できるし敵は油断する


 問題は、戦うべきところで戦うか否かだ

   意味のない戦いをしてはならない


 無意味な戦い? ありえるか

   どんな戦いも訓練にはなるだろ、被害受けない限り

     しかし犠牲を出してはいけない。消耗させてはいけない……)



 …………

   …………


 玉城環のサバク王国、任官試験。剣術、狙撃、短距離走……チェス、カード、サイコロゲームなどなど。

 これを『水面』のいわば動画で視聴してから、結論を出すマクナイアだった。

「玉城は手加減しているな……負けまくる。女には負ける。男には全力で挑む……そして手加減して負ける、か」


「手加減なのですか? ボケているだけに思えましたよ。だってカードの大貧民で、いちばんでジョーカー上がりをして負けるとか、しまくっていたではないですか」

 不思議そうにソルトは問う。


 しかしマクナイアは断言した。

「弱みを見せない代わりに、実力も見せない。こんなマンチキン野郎相手にできるか」

「互いに手加減しつつ実力を確かめ合う、か……だからティアラは砕かれたのか……なんちゃってバカ、というものですか」

 

 マクナイアは引用した。

「『能なるもこれに不能を示し、用なるもこれに不用を示し、近くともこれに遠きを示し……その無備を攻め、その不意に出ず』。まさにその実演といえる」


「孫子、ですね。『兵とは詭道なり』、ですか。マクナイア様なら?」

「私はそこまで完璧ではない。完全には手を読めない。しかし、あいての扱い方ならわきまえている。部下を統率するにあたり、すべての能力が部下より上でなくてはならない必要も理由もない。むしろ王なんか無能でも……代わりに統率力ないし、カリスマがあれば指揮はできる。これは韓非子かな」


「すると……バレット・アウトロードの今後も予想できます。マクナイア様に手を出す動機がなく、かつ強大な魔力を約束するティアラすら砕いた、としたら。結論は一つ」

 マクナイアはうなずいた。

「そう。もう1年を切った、ダゴン復活の阻止に戦っているはずだ。かれのこと、またダゴンを破壊する手すら、思いついたかもしれない」


「心当たりがあります」

 ソルトは引用してきた。

「宇宙を支配する方程式、スペースコード。これを解く鍵がスペースキー。錠前がスペースロック。これら一連の謎がスペースサイファー。この分野のいわば、スペースロジックマジックが、新しい魔法として注目されていますから」


(……それは理数知識分野だ。魔法といっても、物理法則のとうぜんの帰結から導かれていて……)

 と、マクナイアは問い返そうとしたが。



 ここで病室にノックの音が響いた。

「入れ」

 と、直ちにいうソルトだった。


 一人の女魔術師が入ってきた。一礼するや声高に報告してくる。

「バレット・アウトロードの追跡、失敗しました。もはや検出で探すことはほとんど不可能です」



 検出が不可能とは、魔力感知の魔法検索網に引っかからないことを意味している。環は魔力21、十分大きい魔力なのに検出できない……

 なにかあることは間違いない。そもそもこの程度の魔力で、ダゴンを倒すことも異世界を破壊することも、できるはずないのだから。



 事態がやっかいな方向に進みそうだった。仮にも邪神、旧支配者のダゴンすら倒せる、いや倒したほどの男の動向とは……なにを求めている?

 単なる力攻めを考えているはずはない。力攻めにするなら、女王のティアラほどの強力なアイテムを破壊する理由はない。


 人となりはもはやわかっている……金や財産、社会的地位、あるいは女や薬。そんなものに執着する器ではない。有能なのに属さない。古典、韓非子などからの引用だが……これは為政者からすると、もっとも扱いつらいタイプだ。


 マクナイアはつとめて平静にして、環の……実の息子の……次なる手を案じていた。


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