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9 『あの目は』
∀ ∀ ∀
何かの夢を見た。
何か、なんて曖昧なのも困る。自分の事なんだから、そのくらいわかっていて欲しい。
揺蕩う感覚の中で、ただ、一つ覚えていたのは、あの魔狼の瞳だった。
突然、威圧を飛ばされたのは、私の言葉がきっかけ__では無い。
私が、目を合わせたからだ。
夢の中で記憶を俯瞰して見ていた。ぼんやりと、なんとなく。
だから、目を合わせたタイミングと言葉を伝えたタイミング、そして狼が威圧を出したタイミングの差異に気が付く事が出来た。
私が目を合わせた途端に、狼は目を見開いたのだ。そこに浮かんでいたのは__恐怖だった。
単純に恐怖なら、まだ私へ攻撃したくないという意思に対しての恐怖だと落とせるが、あの目は、単純なそれではなかった。
筆舌に尽くしがたい不気味な恐怖。
初めて見る存在への耐え難い嫌悪感。
此方が先に動かなければどうにかされてしまう、という不安。
あれは、あれは__
「私への恐怖」、だった。
∀ ∀ ∀