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異世界でチートでは無く物欲センサーが付属しました  作者: 狼絕
1章 『星々の願い』
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3 『厳しいかなぁ……』



 「あんのドS……」


 そう悪態を付くのも当然だろう。何を言いたかったのか、どうしたかったのか、全く分からない。


 まあ、アドバイスをくれたのは良い。魔物にあまり会う必要が無いように、取り敢えず私を敵と認識するようにすればいいのだ。


 私は何としてでも会いたくなかった。私はか弱い女の子で、まだそういった身体を使うようなものは殆ど出来ない。なのに突然放り出されたら死んでしまうし、何より、私は万が一勝てるとしても、勝ちたくない。

 私の心象は普通と言えるはずだ。誰もが思う筈だ。みんな、感覚が麻痺しているのでは無かろうか?


 __そう、私はカタツムリも殺せない。


 魔物をいつも殺している面々からすればどうでもいいのだろうが、私は目の前で愛でているカタツムリを突然踏まれて本当に心を刺された気分になってしまうような女の子なのだ。いや、前の世界で言えばそういう人はたくさんいただろう。

 要は、私は生けとし生きる物を躊躇なく殺せる精神が育っていない。


 不安が改めて募る。だが、私はこういう時の対処方法を知っている。


 要は、アドバイス通り敵対することを__祈るのだ。



 「お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします」


 仲良く近付かれてそれで死ぬとかシャレにもならない。それに、私はそれで近づいてきた生き物を殺せる精神はしていない。まともな精神性である。


 「お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしま……」


 「あ、あのぉ……」


 「敵対敵対敵対敵対敵対敵対敵対敵対」


 「ちょ、すみませぇん……」


 「うっさいっ! 一緒に祈れッ!」


 「ひぇぇ……」


 腰に提げていた剣がやっと喋り始めたので、私は祈りに巻き込むことにした。


 「いや、ちょ、私、」


 「今まで喋らなかったくせになんで突然今になって話すの……???」


 私の疑問を投げる。元々怖いであろう目付きを投げると、こちらを認識しているのかなんなのか、そもそも目があるのかもよく分からない剣がビクン、と震えた。


 「ご、ごめんなさい……こわ、くて……」


 「あぁ……」


 いつものか。はいはい。私が怖いって話ね。

 私は一気に興味を無くし、仕方がないと割り切った。


 「で、どうしたの?」


 「あ、あのぅ……契約の、条項を、忘れてしまって……」


 「………………」


 額を抑える。なんで覚えてないの、あんた、めっちゃ重要な要項でしょ。


 「セレナ。最初級武器。方向性も進化も未だ全く決まっていない、未熟な正真正銘の新品の剣。適正職は『剣士』」


 私がセレナの概要を挙げて行くと、セレナが黙った。


 「初期魔法が『|防御向上《アドバンス・ガード》』でもなく他の身体強化魔法でもなく『|防護《プロテクション》』で、前衛として防御力に欠ける剣士との相性は抜群。未来性はある」


 淡々と述べていく中、褒められたのが少し嬉しかったのかフルフルとセレナが揺れる。


 「ただ、最初級武器だけあって魔力変換効率も少なく、経験も無いのでサポートをするにはまだ未熟。平均よりも所持魔力量が少なく、魔力量は二から三」


 この世界で魔法を使うにあたって必要になるのが、魔力と呼ばれるもの。それの限界所持量を魔力量と呼び、平均を五として一から十までの数値がある。

 ゼロは存在しない。どんなに才能と運が無くても、カス程のものでしかなくとも、魔力は生き物には必ず存在する。


 「私には剣士の経験が無く、そうでなくとも戦闘経験は皆無。同じく経験未熟の剣との相性は最悪」


 セレナの揺れが止まった。


 「契約期間は五日。多少話し合いにて前後していいものとする。禁則事項は無し。契約対価は三日に一回以上の手入れと銀貨四枚」


 私の感覚的には金貨一枚で十万円くらい。銀貨百枚で金貨一枚なので、銀貨四枚は大体四千円。

 食費も宿代も服代も、様々な日常生活で使うものを必要としない彼らにとってこれらの金額は普通と言える。ただ、あまり強くない最初級武器であることを考慮すると、もっと上位の武器になった時の金額が恐ろしい。


 「ちょっと、厳しいかなぁ……」


 「ひ、ひどいです……」


 お金はシグレから借りていて、利子もつけて返すと約束しているのだ。手入れにも少なからずお金はかかるし、五日間の契約で銀貨四枚でもキツい所がある。

 にも関わらず相手は最初級武器。私には技術も経験も無く、相手も同じである。

 扱うとしても殆どモノにならないだろう。


 だから、初心者の冒険者はよく、自分よりも経験がありランクも高い武器と契約をするのだ。その分武器が有利なので金は足元を見られるが仕方ない。


 お金が無いから冒険者になった者は大体、それに上乗せして借金して行く事が多い。

 ギルドからお金を借りる場合は少しシステムが優しくなってるが、それも、初心者はお金が無い者が多く、借りないで契約対価の少ない最初級武器と契約を結び死ぬ者も少なくないからだ。


 ただ、私はお金を借りなかった。

 ギルドの優しい利子も期間というのも、初心者救済の為のものだ。その金で契約した武器と一緒に依頼をこなして稼いだお金でお金を返せばいい、というものだろう。


 そして、その事について、契約する武器も含めて考えようと武器屋に行った時に出会ったのが、エナキアである。


 「エナキアの紹介で契約したけど、ほんとに大丈夫なのかなぁ……」


 「わ、私もですよっ! 姉様の紹介だっていうから契約したのに、そ、そんな言い方しないでも……」


 それもそうだ。少しここに来てからのストレスが外に出ていたかもしれない。それをぶつけるのは良くないだろう。


 「それは謝る。ごめん。でも、事実として少し不安なのはそっちも同じよね?」


 「う、うん……」


 エナキアは何を思って私とセレナを引き合わせたのだろうか。


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