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顔のない男(後)



【新訳■■■教聖書より 顔のない男】


また、ある時。日が暮れた頃、一人の男が教会に訪れました。

彼は旅人で、今晩はここで泊めて貰おうと、戸を叩いたのです。


「夜分にすみません。今晩、泊めて頂きたいと思ってお尋ねしたのですが」


呼び掛けると、奥の方から誰かが現れます。

それは顔にポッカリと穴があいた顔のない男でした。穴の底から嗤い声が響き、旅人が恐怖のあまり逃げ出そうとしました。


すると、扉でアンリエッタと鉢合わせし、旅人は尻餅をつきました。

顔のない男がいたと、後ろを指さした旅人でしたが、そこには誰もおらず、顔のない男とよく似た異形がかかれたステンドグラスがあるだけです。

アンリエッタは旅人から事情を聞くと、顔をしかめて溜息をつく。


「大丈夫です。恐らく、アレは貴方をからかいに来たのでしょう。他に危害は加えられていないでしょう? つまり、そういうものなのです」


確かに、言われてみればと冷静になった旅人は尋ねます。


「私が出会ったのは、あのステンドグラスの?」


「ええ、そうです」


「か、神……なのですか?」


「さあ……神ではないらしいです。だからといって、正体が何か。私にもわかりかねますが……ああして人間をからかうだけで、害はありません」


アレを知っている女性が無事にいる以上、一応、害はない存在なのだと旅人は自分に言い聞かせました。

それにしては不気味な姿だったので、旅人は一晩泊めて貰いながらも、全く寝付けませんでした。

翌朝は、とても晴れていましたが、旅人が教会からしばらく歩くと段々と深い霧が、辺りをたちこめました。


こんなところで顔のない男に出会ったら嫌だな、アレはこの山のどこかに住んでいるのは間違いないんだと思えば、旅人は不安を捨てきれませんでした。

すると突然、霧の中から顔のない男が現れ、不気味な嗤い声を響かせました。

旅人は恐怖のあまり、叫ぶ事も逃げる事もできずに立ち竦んでしまいました。


その時、旅人の荷物が一つ、顔のない男の方へ転がり落ちると霧の中に消えて、しばらくした後、大きな落下音が響き渡ります。

旅人が目をこらすと、その先は崖になっている事に気づきました。

ふと、見上げれば崖の先で浮いていた顔のない男はおらず、嗤い声も聞こえなくなりました。


不思議な気持ちのまま、旅人は山を無事におりることができました。


異形の正体はなんだったのでしょうか。

でも、あの異形がいなければ崖から落ちて死んでいたかも分かりません。ひょっとして助けてくれたのでしょうか。それとも、昨晩と同じ、人をからかいに来ただけなのでしょうか。

少なくとも、旅人はあの異形に対する恐怖はなくなりました。


生き残った女神教の巡礼者たちの恐怖の話と、旅人が体験した不思議な話と共に、あの山では嗤い声が危険を知らせるものだと噂され、異形の存在は認知されていくのでした。






教会に旅人の方が尋ねてきて、しばらくたった後。

あの屑神は「久しぶりに来ました」な風に、前触れなく姿を現した。()()()()()()()()()()()()()

教会を埋めつくさんとばかりな紙?に包まれた箱という箱は、どうやら向こうの人々からの貢物らしい。


「人間と付き合うと社交辞令で()()()()()()()を差し出す風習があるものでな。私には不要なものばかり増えていく。そういう訳だから、お前が処理しろ」


「は、はい……」


「そこにあるのは生ものだから早く処理しろ。あとこれはまだ硬いから食べれない。甘い匂いがしたら食べごろだ」


「はい……」


と、見た事もない大きな球体状の……果実?を受け取った。

変な網目の模様があって、そこそこ重い。

生ものと屑神が指さした箱に入っていたのは、別の果実だったり、なんだかよく分からない食べ物?とか、生きてる蟹の番が入ってて、相当ビックリした。


って、そうじゃない!

私が「あの……」と恐る恐る尋ねる。


「先日、教会の方においで下さったのでしょうか? 貴方様をお見かけした方がおりまして」


そしたら奴は不思議そうな顔で「いいや?」と否定した。

嘘つけ……と私が思ったのを聞いて、向こうは何か閃いた。


「多分、残留粒子だ」


「ざん……りゅう?」


「私の力の断片だ。それと接触した人間が、稀に私の幻覚を見るらしい。私がいないのに、私を見たと発狂して自滅した輩は腐るほどいる。まあつまり、よくある事だ。気にするな」


なる、ほど……?

じゃあ、本当にここへ来てはいないのね。聞き捨てならない部分もあったけど。

って。教会にいたら低確率でコイツの幻覚みるの!? 最悪じゃないの!


……今は()()()をどうにかしなきゃいけないかしら。


いつの間にか姿をくらました奴が残した貢物の山を見て、私は溜息をついた。

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