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カンカンカンカン!!!


それから、幾度も叩いたり、音を鳴らしたりして爆睡かましている屑神を起こそうとしたけども、効果なし。

不敬なんて構わず、色々試そうとした。

逆にここまで無反応だと、何をやっても無意味じゃないかと諦めたい。

でも、起こさないと……コイツが管理している所が大変な事に。


くっ……! 薄々気づいてたけど、コイツも含めた神々って眠りが深すぎるんだわ!!

大体が自分から勝手に眠りついてて、そのまんま!

家系! アザトースの家系が全員そう!!

謎に血の繋がりを感じさせないでよ!


次は鍋を叩いて騒音を起こそうとしたら、突然、彼の体から音楽が鳴り響いた。

聞いた事もない音に私が驚いている傍ら。

ピクリとも動かなかった彼がパチリと目を醒まして、胸元から変な板みたいなものを取り出す。音楽は板から鳴り響いていた。どうなってるの?


彼が板を指でなぞれば音は鳴りやんで、ようやく起き上がって私の方に振り向く。

嫌味ったらしい笑みを浮かべ話しかけた。


「随分な恰好だな。悪い夢でも見たのかね」


夢……私は我に返って、問いただす。


「あ、あれってアナタが見せた夢……」


「アレとは何の事かな」


完全にとぼけた態度をしてくるが、私はハッキリさせたかった。


「く……国は。滅んで、いませんよね……」


「さあ。なんのことだか」


あまりに生々しい夢だった。夢じゃない方が納得できるくらい。

でも、少し落ち着いてみると自分の体はなんともない。

草木でこすれた傷もない。

全力疾走し続けた割には体が疲れていない……じゃあ、本当に夢だったのね。


いいえ、もう夢ってことにするわ。

確かめようにもセレス王国に戻る事はできない。見つかればタダではすまないもの。

そしたら、彼が普通に私の脇を通り過ぎながら言う。


「話の途中でお前は気絶してしまったからな。改めて告げるが、お前の役目は二つだ。一つは私への祈りを続けること」


もう一つは差し詰め、布教活動かしら。

中々、難しい話よ。女神一神教の世界で一から布教なんて……


「いいや? 逆だ。()()()()()


「ど、どういうことでしょうか?」


普通に心を読んでくるのは、もういいとして()()()()()

「フム」と意味深に彼が理由を告げる。


「なに。信仰されればいい訳ではないのさ。信仰されない事でメリット――得になる事もある」


「は……はあ。わ、わかりました」


え。得になる事なんてあるの。

神様の事情はサッパリね。

一先ず、私は頭を下げて承諾するのだった。見上げた時には、もう既に彼の姿は跡形もなかった。


半ば放心状態で教会の様子を伺いに行くと、やはり変化していた。

ただ、昨日の夢?の時とは違って、ステンドガラスが……うーん、ちょっと柄のタッチが変わっているけど、元に戻っていたわ。

内装も変化してて、恐らく拷問部屋だった場所は悪臭がなくなってる。

台所は綺麗になっている。食器や調理器具も新品。……気前がいい神様?


ただ一つ。私の服が一着分なくなっていた。

まさか、あの屑神が持っていったんじゃないでしょうね……持っていかれたっぽいのは、私が追放された日に着ていたドレス。

売ったらお金になりそうだったから、保管してたのに。


まあ、代わりに新しい服があったから、別にいいわ。





【新訳■■■教聖書より 恥知らずの王太子】


セレス王国の王太子はある男爵令嬢と恋に落ちました。

しかし、彼は平民の聖女・アンリエッタとの政略結婚を余儀なくされており、どうにか男爵令嬢を妃に出来ないかと考え、そして、男爵令嬢を真の聖女と偽り、アンリエッタに偽物の烙印を押し、国外へ追放しました。

これで王太子は男爵令嬢と正式に結ばれ、幸福になるものだと信じておりました。


ところが、どこからともなく現れた道化の男が、あらゆる国の村や町中でこんな話を広め出しました。


「セレス王国の王太子は婚約者がいるにもかかわらず、別の女に鼻の下を伸ばしたのさ! しかも、公衆の面前で自分は婚約者ではなく、別の女と婚約すると宣言したもんだ!! とんだ恥知らずだぜ! ようは自分は浮気してました。浮気相手と結婚するって馬鹿真面目に告白したようなもんだろ? しかも婚約者を罪人として追放したと来たもんだ! こんな男が時期国王になるなんて、冗談じゃないよなぁ? あの国はもう終わってるぜ!!」


この話は、恐ろしい速さで国内・隣国、世界中、あらゆる場所で広がって、知らない者はいなくなりました。

勿論、王太子は不敬罪だと道化の男を捕らえるように命じましたが、誰も彼を捕らえられませんでした。

それどころか、旅行で国を離れていたセレス王国の国王と王妃が噂を聞きつけ、慌てて帰ってきました。

事情を知り、国王は激怒しました。


王太子にそのような権限がないのに、勝手な命を下したのは勿論、アンリエッタを追放した事にも怒りを露わにしました。

国王は王太子に尋ねます。


「何故、彼女を追放したのだ」


「彼女は聖女ではないからです」


「お前は聖女がなんたるかを理解しておらぬ。良いか。聖女は信仰力を極限までに高める為、長きに渡り修行を積み重ねた者をいうのだ。アンリエッタは聖女として完成された。その彼女がいなくなれば、女神からの恩恵は与えられなくなるだろう」


「それは! 彼女がアンリエッタの代わりに――」


「ほう。ならばあの男爵令嬢にアンリエッタと同じ修行をして貰おうか。食事の制限は勿論、化粧や装飾品は没収、社交界のパーティを禁じ、更には高層貴族のマナーを叩き込まなくては」


「い、いきなりそんな」


「ならアンリエッタを探し出すのだ。彼女を見つけ出せば、あの男爵令嬢を愛人にし、アンリエッタとの子と偽って子を授かっても良い」


王太子は血眼になってアンリエッタを探しました。

結果、アンリエッタが追放された日に着ていた衣服をまとった女性の白骨が森で発見されました。

獣に襲われた形跡があり、獣や虫に食われて、こんな姿になったのだと誰もが思いました。


結局、男爵令嬢は無理矢理、聖女の修行をつけられましたが、その厳しさに耐え切れず衰弱死となりました。

セレス王国は女神に祈りを届けるものがいなくなり、段々と農作物の豊かさが消えていきます。

何よりも、王太子の噂を聞いた人々が、セレス王国を見限ったのでした。

国民からも、隣国からも信頼を失いました。


国王が王太子を廃嫡しましたが、それでも変わることなく緩やかにセレス王国は衰退するのでした。


一方、追放されたアンリエッタは生きておりました。

彼女は森を彷徨った末、主が祀られている教会にたどり着いたのです――……


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