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コイツ、屑だわ


 目の前で非現実的なことが起きている。


 ステンドグラスに貼り付くように座っていた男は、ステンドグラスの上で立ち上がって、コツコツと音を立てて歩き出す。

 そのまま、足を床にかけたら、私と同じように地面に立った。


 私がソレにどう声を掛けるべきか躊躇してたら、目まぐるしく周囲の光景が一変。

 新調された壁紙に、床は大理石か何かで敷き詰められ、天井から小さめなシャンデリア的なものがぶら下がり、艶やかな装飾からベンチまで新品になっている。


 とても教会とは呼べない。貴族の舞踏会会場と大して変わりない……ステンドガラスまで消えた!?

 これは全身黒ずくめの男の仕業?

 そもそもアイツは……あの神?


 よくよく観察してみると、男の長ったらしい髪は不自然に揺らめいていて、中でも中途半端に一本だけ特徴的に飛び出してる髪の房があった。

 なんだかそれが、不気味な触手部分と似てなくもない?


 男は、薄暗い教会を見渡してから不思議そうに尋ねる。


()()は通ってないのか」


()()()?」


 知識にない単語を私が反射的に聞き返したら、向こうが変な顔で納得したらしく、また教会の内装が変わる。

 今度は、蝋燭の燭台が灯りになっている古き良き、安価な木製構造の教会だった。

 特別な飾りもないシンプルなもの。


 しかし、男は即座に内装を変えてしまう。

 次は教会っぽさはあるけど、自棄に柱が多い作り。

 その次はあまりに飾り気ない真っ白な壁に、柱もない内装。逆に物足りないわ。


 目紛しい変化をす教会に、私はやっと口を開いた。


「これは……どうなって……?」


「私の宇宙(ところ)にある教会の内装を粗方パクっているのだが、驚くほど世界観に合わないな。まぁ、これでいいか」


 そして、やっと変化がなくなった教会の内装は、最初の舞踏会会場のようなものだった。

 違いがあるのはシャンデリアは消え、蝋燭の燭台が各所に置かれてる。

 ステンドガラスはなくなってしまった。

 別にあれが気に入っていた訳じゃないけど……


 って、ちょっと待って。


 呆気に捉えてしまった私も私だけど。

 今の私、()()()()()()

 もう、時は既に遅いでしょうが、膝をついて頭を垂れる。

 本物の神をジロジロ見るんて、罰が下ってもおかしくない。

 祈っておいてなんだけど、本当に神が実在するかすら懐疑的だったもの!


 私は必死に言葉を紡ぐ。


「数々の無礼をお許しください。信者の身におくものとして、現世に降臨なされた今日この日に祈りを捧げます」


 ………


 驚くほど無反応だった。

 もしかして、顔を上げたら、そこには誰もいなかったとか。

 それはそれで恥ずかしい!


 私の不安を他所に、異形の神の御言葉が


「ふ、クク……ああ、うん。ふふふ、色々頑張っているようだな?」


 な、なに笑ってるの、コイツ……?????????

 違うの。微笑ましく笑ってるんじゃなくって、明らかに笑い堪えてるっていう。

 私、真面目に頑張ってて笑われてるの?


「ええと、確か。()()()()()()? ふふふ、くっははは」


 ふざけんじゃないわよ! なに笑ってんのよ!!(重要な事だから二回も言った)

 間違いない。

 コイツ、屑だわ。


 どうしよう。怒りで体が震えてきた。

 書物で散々書かれてた以上に屑で、ああホントしょうもない!

 婚約破棄した王太子の方がマシに感じるってどれだけよ!


 私の心情なんてお構いなく、笑い堪えている屑が話を続けている。


「全く分からんものだな。産まれて彼此(かれこれ)何百億年……四十億年? 数多いる神格の中では()()()()()()私ではあるが、正当に崇拝された事がなくてな」


 気が遠くなりそうな話に、人間の私は反応に困る。


「何故、神々が正当な信仰を求めるのか理解したよ。人間が疲労を癒すマッサージとか麻薬のような心地よさだな。成程。長く浸り過ぎれば中毒になる奴だ」


 そ、そうなの……?

 ちゃんと祈りが届いていたのも驚きだけど、神が信仰を強制したがる理由を知ったら知ったで複雑……

 祈り捧げたら逆に毒、って風に聞こえる。

 じゃあ、毎日祈るなって忠告?


「なにを言う。私は年中無休で働き続けているのだぞ。私のいる宇宙は些細な事でいる滅んでもおかしくない。私を仲介に、邪神を復活させる馬鹿の召喚予約が一杯だ。それを全部ガン無視して、馬鹿が暴走しないように駆け巡っている私に癒しは必要だ」


「心の声、聞こえてんのかよ!」


 もう耐えられなかった私は、大声張り上げてしまった。

 顔を上げたら、例の屑がさも平然と言わんばかりの真顔で私を見下しているものだから、私の挙動が静止する。

 しかも、沈黙が続くものだから、私は震える声で尋ねた。


「人々の想いを無視するなんて、貴方ホントに神様なの?」


「私? 私は、そうだな。神というよりは『概念』に近いから」


「はい?」


 概念? 概念ってなに??

 ひょっとして、適当な事いってる? コイツの正体がゴチャゴチャしてるの、適当な嘘の積み重ね?

 真顔でマジマジと私を見下してから、屑野郎はいきなり告げた。


「お前が祈るのを止めたら、この世界を滅ぼすから」


「………」


「今から軽くやってみようか。二秒くらいで、お前を追放した国を滅ぼす」


「……」


 え……待って。ちょっと待って。

 軽くって。軽く? 軽いってなに? 人間の命の重さの事じゃないわよね……??

 滅ぼす?

 どう、滅ぼすの。二秒? だ、駄目。追い付かない。


 あ……ああ。これ、脅迫? 脅迫よね? 本気でやろうとしてるんじゃないんだわ。

 ビックリした。

 いきなり、こんな話ふってくるもんだから―――


 私が落ち着こうとした矢先だった。

 遠くから、おびただしい笑い声が響き渡ったのは。

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