あれって月神よね?
夜が明け、私は色々とやり始めた。
教会の掃除云々の前に、食料を確保出来るかが問題よ。
食料に関しては幼い頃の経験が生きた。
父が毒キノコなど食べてはいけない物を教えてくれたもの。
野生の果物やキノコ、山菜など、昔よく食べてたものを懐かしむ様に取っていった。
教会から少し離れた所に小さな泉があって、魚が泳いでいた。
道中、うさぎや中くらいの鳥も見かけた。頑張れば女の私でも捕まえられそう。
あと、薬草も確保出来た。
簡単な傷薬から病気に効くものまで作れるそう。薬に関する知識は聖女修行で得たもの。案外、役に立つわね。
と、まあ。
食料は問題なかった。今後、冬に向けて保存食を作らないといけないくらいかしら。
次は教会内の探索。
教会内にあったのは、地下室。
そこに役立つものはなかったけど……異臭が酷い。異臭っていうか……血、っぽい痕跡が壁や床にぶち撒かれてた。
同じように血がこびり付いた金属具が、いくつか残ってた。どう使うか知らないけど、はあ、良からぬ類よね。
生贄? 供物??
……人間は殺したく無いし、女の私が人殺す方が難しいし。
第一、殺したくない。
本当に供物捧げないと駄目なら、魚とか小動物でいいかしら。
生々しい部分を見ても私が臆すること無いのは、不思議だった。
むしろ、ここまで女神と相対的な神だと清々しいくらいよ。反女神教の宗教だったのかしら。
女神は豊穣以外にも、太陽神の側面もある。大体が実りに纏わる逸話が多い。
対して多分、月神?っぽいあの神。うん、正反対ね。
……月神よね?
あそこまで意味ありげに月を背景にしておいて、月とは全然関係ありませんとか勘弁してよ?
私、そういう体で祈っちゃったんだけど。
これで違ってたらどうしてくれるの。いや、もうどうせ、私の祈りなんて神に届くどころか無意味なんでしょうけど。
あの地下室は保存食置き場にしたいから、明日清掃ね。
「肝心なものが無い……」
思わずぼやいてしまった。
肝心なものとは、あの神に纏わる書物とか、所謂教本のこと。
一日のルーティンとか、記念日とか、婚姻関係とか、女神教は口酸っぱい程に決まりがある。あの神にも教えの一つや二つ、規則だってあるでしょうに。
残る探索場所は教会の裏手にある小屋。
扉を開いて早々、血とは異なる異臭が。
そこには机に突っ伏した状態の白骨化した遺体。それに動揺隠せずにいる私の顔が、室内にあるヒビ割れた鏡に映されていた。
貴族だから髪伸ばせって言うから伸ばした不自然な黒髪。
生まれつきのツリ目のせいか。愛想がない。兵士みたいに面白みない顔と王太子達に散々文句吐かれてた顔。
我ながら聖女っぽい顔じゃないわ。
歴代の聖女の肖像画を見る限り、そう思う。
例の遺体はちゃんと埋葬するとして……あった!
小屋には寝るのに十分な小さいベッド、小さな刃物がいくつか(研ぐ必要あるけど)と服。
そして、書物。
自棄に沢山あるけど、どれも古代文字で書かれている。
普通の平民は読めないけど、何故か教養で古代文字の学習をした私には理解出来る。
こんなところで無意味だと思った知識が役に立つなんて。
ただ、読み解く時間は必要ね。
よし……