立地条件:他種族が立ち入り不可能の環境
馬車に揺られながら、件の別荘?について神が語る。
「フジウルクォイグムンズハーが挙げた条件は決して厳しいものではないが、星の情勢次第では厳しくなるものだ。まず一つ目が『液体金属』が産出する土地である事」
「液体、金属?」
「『パスクアラ公国』の火山地帯に微生物を含まない液体金属があると判明した。何故これが必須かと言うと、ソレがフジウルクォイグムンズハーの主食になるからだ」
「ええと、それは他の生物には猛毒という『碧の泉』の……?」
私も実物は見たこと無いけど、『パスクアラ公国』には――他の火山地帯にもあるらしいけど――碧色の美しい泉がある。
だけど、それは人間を含めたあらゆる生物にとっては死を招く危険な液体。
故に『死の泉』なんて呼ばれてたりもする。
アイツは私の問いに「ああ、それそれ」と間抜けな返事をしてきた。
「もう一つは『一神教』である事。多少、無神論者がいても構わないようだが、宗教派閥であれこれ騒ぎを起こしていないのが条件だ」
え?
いやいや待って、それってわざわざ大手の派閥がある拠点に行くなんて、周りは敵だらけで、自身の信仰が広められる訳……
「私と別の意味で信仰されたくないからだが」
「別の意味で」
「うん。信仰されるのが好きじゃないから」
「……神様、ですよね?」
「お前たち人間が言うところの『神』に匹敵する存在だろうな。しかし、それとこれとは別だよ」
……変わりもの過ぎじゃない?
私の突っ込みは無視して、最後の条件は案の定、信仰嫌悪に通じるものだ。
「最後の条件は誰も何も立ち入ることがない事だ。現時点において、この星の人間の文明では、あそこに立ち入るようになれるまで……まあ、ざっと1100年程度だろうからな。ひょっとしたら、立ち入る事無く知能ある生物は滅びるかもしれん」
「そんなに!?」
神が如何なる計算を行っているか想像つかないけど。
約1000年か……でも、1000年誰とも会わないとなったら、流石に心細くなったりしないかしら。
「いや、1000年は我々基準だと一時間程度だから」
「……さいですか」
私達がそんな会話を繰り広げている内に、シストが「村が見えてきましたよ」と教えてくれる。
運動神経は悪くても、エルフ特有の動体視力が健在のシスト。
大分、離れた距離にある村の存在を教えてくれた。
何とか、日が落ちるまでに到着する事ができたわ。
小さな村だから、大したものはない。
だけど、山のふもとだからか、小さな宿舎があったので、そこで一晩泊まる。
あと、こういう田舎だと物々交換が主流になるから、薬草を煎じて作った薬と幾つか交換する事ができた。
主に衣服類。
シストの為の耳隠れ用になれそうな被り型の帽子を入手できたのも有難いわ。
村の方々から話を伺っていると、ある噂を聞いた。
「アンタら、ここからだと『オートゥム』に向かうんだろ?」
「はい。正確には『オートゥム国』と『フリュブル大国』の国境を越えて『パスクアラ公国』を目指します」
「ん? あぁ、遠くの方に行くのかい。大変だねぇ。『オートゥム』に長く立ち入らないならいいんだけど」
「もしかして、国の情勢が悪くなっているのでしょうか?」
「国自体は問題ないとは思うけど……実はねぇ、『オートゥム』に吸血鬼がいるらしいのさ」




