■■■■■、別荘を買う
いきなり現れて、何かやらかしに来るのは毎度のことだけど……別荘って。
それこそ、クトゥグアに燃やされた別荘の二の舞になるんじゃない?
私の心を読んだアイツは返事をする。
「言っておくが私の別荘ではない。フジウルクォイグムンズハーの別荘だ」
「……は、はあ。ええと、……え? なんて??」
聞き返したのは、聞こえなかった訳じゃなくて。聞き取れなかったというか。
真顔で再度繰り返してくれた。
「フジウルクォイグムンズハーだ。かねてより土星からの移住を願っていたが、中々どうして立地の条件が揃わなくてね。しかし、偶然にもこの星が条件が成立していた。これから下見に向かう。折角だから、ついて来い」
いや、名前……名前ながっ! フジ……?
てかあの書物に、そんな神の名前あったかしら。なかったような……
名前についてはともかく、フジ……様の別荘? 移住先??
急な話に私も何とか追い付こうとしたけど、あれ? もしかして町に連れて行って貰える??
良かった! 今の生活じゃ精一杯だったから本当に良かったわ!!
売り物になれそうな薬草を煎じたものを幾つか作り置いたものと、あとは私の髪を売れば必要なものは買えそう!
あ、そうだわ。
私が告げる前に、シストが薬草取りから戻ってきて教会に顔を出していた。
血相変えたシストを他所に、アホ神は能天気に教えてくれる。
「そうそう。そのエルフに渡した鉱石だが――」
「も、申し訳ございません! 貴方が下さった鉱石を、その、盗られてしまって!! や、やはりアレがなければ、な、何か不味い事にっ」
「今な。吸血鬼の王子が持っている」
「「………なんで?」」
私とシストの声が重なっちゃった。
いや、本当になんで? どういう経緯??
呆然とする私達にアイツが、普通に話を続けた。
「さあ。しかし、吸血鬼はクトゥルフ神と気が合ったそうだぞ。もしもの事もあるし、お前は鉱石がある吸血鬼の国に向かった方がいい」
「きゅ、吸血鬼なんてそんな……! 女神教において迫害種族の国に向かうのは至難の業ですよっ」
「だがなあ。手放しただけで何かある訳ではないが、クトゥルフ神と交信するには、あの鉱石が必須だ」
「わ、わかりました……」
私がシストの為に「彼も同行させて頂けませんか」と頭を下げる。
吸血鬼の国へ向かうのは一筋縄じゃいかないもの。
「『パスクアラ公国』までは長い。早く準備しろ」
教会の外にはいつの間にか馬車が用意されていた。
それにしても……『パスクアラ公国』ですって?
ここからとんでもなく距離があるじゃないの……
★
パスクアラ公国。
教会がある山脈を超えた先の、そのまた先。
私の知識が正しければ、国境は最低でも三つほど越えなきゃいけないほど離れた国。
国土はかなりあるものの、八割……ほとんどが火山地帯。場所によっては人が即死しかねない猛毒の空気が漂っているとか。
思ったんだけど、こんな場所に神の別荘なんて正気かしら……




