死んだらどーする!
【新訳■■■教聖書より クトゥルフ神の友】
(前略)
エルフは途方もなく長寿でしたが、彼らの中で、出来損ないの青年が一人おりました。
運動神経に優れ、天性の狩猟の才があるのが普通の種族で、彼だけが運動神経が悪く、狩猟の才能がなく、周囲から蔑まれていたのです。
彼は他の種族とやっていこうと模索しましたが、やはり、エルフなのにエルフとして劣っている点を笑われ、結局、どこにも居場所を作れませんでした。
彼は絶望していました。
彼は自ら命をたとうと試みようとした時、女神教では死後、前世とは異なる種族へと転生する事が約束されている事を思い出したのです。
死んでもまた別の種族として、劣等者を嘲笑う世界に産まれ落ちるのだと。
転生をどうにか回避したいと願っていますと、青年は山奥で教会を見つけました。
偶然そこに居合わせた主は、彼にクトゥルフ神と交信できる特別な鉱石を授けました。
その晩、クトゥルフ神と交信した青年は「私は死後、転生を望みません。どうか女神の転生から解放しては頂けないでしょうか」と祈りました。
クトゥルフ神にとっては珍しい願いでしたので問いかけます。
「何故 転生を拒絶する」
「エルフは長寿で千年も生きるのです。千年も生きれば、生きるのに疲れてしまうのです」
「転生を為せば前世の記録は魂から抹消される」
「時折、前世の記憶がある者がいると聞きます。もし、前世の記憶が残ってしまえば生きるのが億劫です。既に生で疲れた魂なのです。生は望みません。楽になりたいです。どうかご慈悲を」
一応の納得をしたクトゥルフ神は、青年を輪廻転生から解放しました。
また、クトゥルフ神は全てのエルフがそうだと解釈してしまったので、全てのエルフを輪廻転生から解放してしまいました。
これにより、エルフは誤解が解ける二千年まで、転生できなかったとされています。
クトゥルフ神の言葉に感謝の意を抱いた青年でしたが、その後、主より授かった鉱石を他のエルフに盗られてしまいました。
鉱石を盗んだエルフは、それをドワーフに売りました。
その晩、クトゥルフ神はドワーフと交信をしました。
ドワーフは女神教とは無縁の種族なので、転生には関心がありませんでした。
ただ、死後の世界があるならと、そのドワーフはこう言いました。
「ワシらは物を作るのが得意じゃ。素材や土地があればワシらで勝手に住む家を作るが、死後の世界はそこんところ、どうなんじゃ」
「建築や技術は、ユゴスよりの菌類とイスの種族が中心になっている。それを望むならば良しとしよう」
「よく分からんが、ワシらのような建造が得意な彼奴らがおるんか。ちと楽しみじゃのう」
こうしてドワーフは死後の世界で、住居や建造を担う役割を得ました。
ドワーフはその後、未知の鉱石を調べようとしましたが、彼が住む地域が人間に支配され、鉱石を没収されました。
次に鉱石を没収した人間とクトゥルフ神は交信しました。
熱心な女神教徒だったその人間は、クトゥルフ神を異形と罵り、まともに話を取り合わない為、クトゥルフ神は交信をやめてしまいました。
これにより、人間は今日まで転生は愚か、死後の世界に招かれなくなったとされています。
人間は鉱石を異端の遺物として破壊しました。
その断片を小さな人の種族、ノームがこっそり持ち出しました。
今度はノームとクトゥルフ神は交信しました。
普段、隠れ潜んでいるノームは女神教を知っていましたが、既に弾圧された神々の存在も理解しており、クトゥルフ神もまた、数多くいる神々の一柱と思い、敬意を持ってこう望みました。
「私達は他の種族より短命で儚いです。皆、来世を望んでおります」
これによりノームは死後、必ず転生する事が約束されました。
その後、鉱石は指輪の宝石に加工され、そのノームが密かに想っている人魚へ贈り物として渡されました。
人魚とクトゥルフ神は交信しますと、人魚は彼の神を巨大な蛸だともてはやしました。
死後の世界を聞かれた人魚は、こう尋ねました。
「死んでもウチらって水の中で生活する事になるの? それチョー萎えるんだけどー」
「不安になることは無い。こちらにはお前たちのように水に住まう、深きものがいる」
「それ、人魚とは違う種族なワケ? 他にも水で生活する奴いるんだ~。なら、オッケー!」
実際、異なる世界にいる深きものと人魚は不思議と気が合い、死後の世界の海にて両種族共存しているとされています。
しばらくした後、海が荒れた際、人魚は指輪をなくしてしまいました。
海流に流されつづけた指輪は海底まで至ると、そこで入水自殺をしていた吸血鬼の懐に転がりました。
生きるのに飽きて自殺し続けていた吸血鬼でしたが、クトゥルフ神と交信し、途端に高揚しました。
「お前みてぇな奴に遭遇できるなんて、退屈な生も価値が芽生えたぜ! 折角だから色々話聞かせてくれよ。そんでもって、俺とダチになろうぜ。俺達、エルフより長生きなせいで萎えて自殺しちまう程度には長寿だからよ! お前も長生きで退屈だろ?」
「人類の単位で数十億以上の時を生きたが退屈はない」
「ははは! マジかよ!? レベルがちげー! 俺らが雑魚だわ!!」
倫理のズレた吸血鬼だからか、クトゥルフ神とその吸血鬼は気が合いました。
吸血鬼の問題である長寿過ぎる点を聞いたクトゥルフ神は、彼らの為、年に一度、冥界と現世を繋ぎ、死に近づきやすくする儀式ならぬ祭を行うことにしました。
これにより、吸血鬼は昔より死にやすく、老いやすくなったのでした。




