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ここでは異世界の言葉で話せ


その後、私は寝付けなかった。

シストの祖母の心配もあるけど、あの屑神が一晩中流し続けた様々な音楽が脳裏で永遠と渦巻いている。

優しく聞き入ってしまいそうな歌声から、変哲な曲調、獣の咆哮みたいな人間の絶叫……

何? 向こうの世界の音楽って……何??


私がうなされて居ると、小屋の扉を叩く音が聞こえる。

頭がぼんやりしながら、扉を開けるとシストの姿が。彼は興奮気味で私に報告したい雰囲気がひしひし伝わった。

若干、早口気味にシストが話す。


「あのっ! 今朝、夢を見て――そ、祖母が見た夢の事でお話したくて!! あれ? 昨晩いた男性は……」


「彼は仕事柄、各地を巡っておりまして。先程、出ていかれてしまいました。ふぁ……すみません。戒律の都合、昼間は就寝しているので眠く……」


「そ、それは大変ご迷惑をお掛けしましたっ」


「いえ、ちょっと寝付けなかったものですから、ご心配なく。折角ですから、向こうでお茶を飲みながらお聞かせください」


私は信仰しないけど、クトゥルフ様がどうされたのか一応、話は聞いておきたいわ。

そもそも、本当にクトゥルフ様相手だったかも心配だもの。

アイツのことだから、全然違う神様をけしかけた。なんて事、ありそう。


教会でお茶を飲みつつ、私は一息つき。

シストも落ち着きを取り戻して、話をしていく。


「祖母が言うに、クトゥルフ様の夢は海の中だったらしいです」


「海ですか」


そうよね。

私が見た文献でも海に神殿があるとか、海に所縁ある『深きもの』という魚人に崇拝されてるって。


「祖母が海中深く沈んだ先に、クトゥルフ様がいらっしゃられました」


「ちなみに……どんなお姿でしたか?」


「えっと。()っぽい、俺も絵でしか見た事ないんですが。海にいる蛸に蝙蝠を翼が生えたような……それでいて、巨大で威厳を感じさせるものです」


うん、姿は文献通りね。

問題はそこからなんだけど……私は「成程」と納得して続きを求めた。


「クトゥルフ様はなんと?」


「いやぁ……それが」


え?

シストは複雑な、申し訳ない表情で答える。


「なにか、仰られてたのですが。何を仰っているかサッパリ分からなかったそうです」


う、う~ん。色々と残念過ぎる……「でも!」とシストは顔を上げて話す。


「祖母の意思は伝わったようです。転生を望まない旨をお伝えしたら、クトゥルフ様から何か施されたと」


「具体的には?」


「俺にも分かりません。体が薄い光に包まれ。クトゥルフ様は何かお伝えした後、海の闇へと去っていかれ。そこで祖母は目覚めたそうです」


曖昧な内容ね。

シストから話を聞くに、祖母は目立った変化はなく。

彼女の方は何か実感しているそうだけど、第三者からすれば信憑性がない話。

まあ、この手の宗教の逸話は、信憑性ない話ばかりよ。

だから神を信じない人達もいる。


しかし、シストの方は納得しているようで「この度はありがとうございました」と頭を下げる程だった。

私の方は何もしていない。

彼(屑神)にお伝えしておきますとシストに返答しておいた。


満足したシストが帰って、私は少し眠気が来たので小屋に戻ろうとした矢先。

一つ思い出す。

彼が貰った鉱石……返して貰うべきだったかしら。

だって、ニャルラトホテプ(あいつ)が渡したものだし、ロクでもないものよ。


……まだ、間に合うかしら。

エルフの足に追いつける自信なんてないけど。


眠気をこらえ、私は教会の敷地内から少し出た所で叫び声が響いた。シストの声よ。


「ふざけるな! それを返せ!!」


目の前の森林内で木々が揺れている。エルフだ。

シストではないエルフの集団が俊敏な身体能力で木々を飛び渡っていく。流石は森で生きる種族。

でも……変。彼らは一体どういう。


エルフの一人が、あの例の鉱石を持っていたのに私は気づく。

無論、持っているのはシストでも、彼の祖母でもない。別のエルフの男性。

あれ? シスト本人はどこ??


そしたら、木々の上にいるエルフ集団の何人かが笑っている。


「出来損ないのノロマに、こんな高価な代物似合わねえよ!」


「なあ。それ何の鉱石だ? 見た事ねーけど」


「取り合えず、ドワーフに渡せば高値で買ってくれるだろ」


え……ええ……?

シストと同い年くらいの若いエルフなんだろうけど、人間の荒れくれ者と大差ない。

変に高貴で威厳がある種族と想像してただけに、ちょっと幻滅してしまった。


ただ、シストも変で。

エルフなのに、こう言っては何だけど、足が遅いし、他のエルフみたいに木々を飛び渡るどころか、地面をただただ走るばかり。


「返して欲しけりゃ追い付いてみろよ!」


そうシストを嘲笑し、彼らは俊敏に木々の合間を駆けていく。

対して、シストは追い付くどころか完全に息切れ、呻き嘆くばかりだった。

私ですら彼に追いついてしまった。

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