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他神に押し付けるだけの簡単な仕事


エルフ。

彼らは普段、森の奥深くで集落を形成し、生活している。

よく、他種族と付き合いが悪いなどと偏見を持たれるが、それには理由が二つ。


一つは、彼らが比較的長寿であること。

若くて二百歳。長くて千歳生きる。

人間からすれば、長寿で、しかも長く若さを保っていられるから羨ましい。

でも彼ら以上に長寿の種族・吸血鬼(ヴァンパイア)がいる。詳しくは――話がそれるからしないけど。


もう一つは、独自の共同体が強すぎるから。

これは前述の長寿も関わってる。

長寿故に他種族との死別が激しく、また他種族から見ても彼らが長寿過ぎて付き合いにくい。

エルフはエルフ同士で付き合って、共同体を形成する方が楽って事。

……だったら吸血鬼と付き合えばよくない?って聞こえそうね。

吸血鬼は、吸血鬼で色々と……うん。アレなのよ。


まあ、そういうことで古くから現代に至るまで、エルフは他種族から離れた生活を続けている。

こうして面と向かい合うのは奇跡に等しい。

最近じゃ、森でエルフを見たら幸運が舞い込むなんて噂がある位よ。

……教会周辺の探索は遠くまでしてなかったけど、近くにエルフの集落があるみたいね。


でも、どういうことかしら……

エルフは森の恵みを大事にするから、熱心な女神教教徒の種族。

だから、教会のステンドグラスを見たら怒るんじゃないかと思ったわ。でも、違うみたい。


エルフの青年が重い雰囲気で口を開く。


「俺はシストといいます。あの……相談。というか、何と言えばいいのか……」


私が声かける前に、まだいた屑野郎の方が悠々と話しかけた。


「安心したまえ。ここは様々な神を紹介する窓口のような場所だ。お前の望み次第で、それに適した神を紹介しよう」


なに勝手に、と思って聞いたけど。

あ、これ本来のコイツの在り方じゃない、って気づかされてしまったわ。

ホント物は言いようね。何も間違った事も嘘もついてないから、タチが悪い。


エルフの青年――シストも目を丸くして「色んな神?」と聞き返している。

ここぞとばかりに、ニャルラトホテプは饒舌だった。


「作物ならば豊穣の神、水害ならば水の神といった具合だな。神だからといって、何でもできると勘違いする輩が多く、昨今は参っているよ。神にも得意分野はあるのさ」


「な、成程。ええと……順をおって説明します。俺には祖母がいるのですが、そろそろ眠りにつくと本人が言っているんです。もう九百になりますし、周りも長くはないと判断しています」


エルフが死ぬ。

なかなか聞かない話だけど、寿命はあるものね。

……ひょっとして葬式の依頼? あ、でも、エルフは独自の葬式を執り行うから違うでしょ。

シストが深刻な表情で続けた。


「でも……祖母が『長く生きる事が苦痛になった』『()()はしたくない』と訴えるのです」


え?


転生。

女神教では死後、前世とは異なる種族へと転生する事が約束されている。

ただし、異教徒や前世で悪行を重ねた者には適応されず、それらは地の底で罰せられると言われているわ。

でも、それを望まないって……


「どうしたらいいですか? 女神教で転生を回避して、どうにかなる術はあるのでしょうか。それとも、祖母を救って下さる神がいるのでしょうか」


う、うーん……いない。

死後、自分が罰せられるのを恐れている人たちの懺悔は無茶苦茶聞いた事あるけど、転生したくないってのは流石にない。こんな贅沢な我儘、エルフとか、それこそ吸血鬼が抱きそうなものよ。

第一、そんな神と所縁がないから……


そしたら、屑神は懐から何かを取り出してシストに差し出しながら、簡単に言う。


「あー。なら()()()()()だけだな」


「え!? な、なんでクトゥルフ、様!!?」


って叫んでしまった。

そりゃそうよ! 復活したら向こうの星を滅ぼすってあった、あの!?

シストに渡したのは独特な形状をした淡い青紫色の鉱石、のネックレス。見た事もない色の宝石? 向こうの宇宙にしかないものかしら。


シストが「この石は?」と尋ねたけど、肝心な事は教えず屑神は


「それを身に着けて眠れば、クトゥルフと対話ができる。転生を望まないと訴えれば、相応の対応はしてくれるぞ」


俄かには信じがたい話でシストも不安を隠せない様子だった。

私も「何かあったら、すぐこちらに来てください」とシストに伝える。

彼は深刻な表情で「わかりました」と応えてくれたけど……本当に大丈夫なの? とくに()()クトゥルフ様に任せるなんて……


シストが去った後、以前、音を鳴らしていた妙な板を操作していた屑神。

そしたら、また変な音……いいえ、音楽が流れてきた。

なんだけど、これまた変哲な音楽で、どういう歌詞かは分からないけど、陽気な音楽なのは確かだった。


思わず「これは一体」って聞いてしまった私。

そしたら、奴が板を操作して、陽気な音楽から一変、とんでもない激しくテンポが早い音楽が流れだした。

割と真面目な口調で返事をされる。


「我が父、アザトースの宮殿で流す音楽の選別だ」


これ流すの!?


「ああ。それと一つ。お前が勘違いしているのを訂正してやろう。クトゥルフは生粋の霊感持ちで冥府神だ。生態系で海に生息しているだけで、水や海の神ではない」


あ……そうなの……? 


「お前が心配している星を滅ぼすというのはアレだな。クトゥルフのいる死の世界とを繋げると、死の瘴気で生命が死ぬ理屈だ」


じゃあ、人間とか他の生物に悪意がある訳じゃないのね。

ビックリした……


「そうだな。悪意もなにも。何の感情もないな。人間を含めた、崇拝する連中まで、他の生物のことは何も」


………うん。いいのかしら……それって。逆に複雑だわ。

っていうか、さっきから続けてる音楽鑑賞会。一晩中続くの???

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