私には全然わからない。雰囲気で選んでいる
貢物の処理は中々時間がかかる。
向こうの文字が全く分からないから、何が入っているかすぐ分からないのよ。
中には絵が描かれてあるものとか、透明な壁?(どうやって作るのかしら)的なもので中身が見えるものもあって、仕分けに苦労しない事もあるけど……
これは布、ね。使えるからとっておく。
えーと、これは……蝋燭? 随分、色とりどりで小さいし、色んな形で、変わってるわね……
これ……なに? 箱から出してみる。分からない……あ、石鹸!? 匂いで分かった。
でも、これ石鹸なの……?? 変なの……
あ! これはジャムだわ!! でも、つけて食べれるものが、ここにはないのよね~……
同じくビンに入った食べ物っぽいの。でも……な、何が入ってるの? 気持ち悪い物体が入ってるとしか、食べれるのかしら……
これ、コップね。次はお皿。食器一式。うーん、使えるけど、こんなに要らないのよ……売れるかしら。
え!? お肉、かしら。これはハム!? 変な形したものもあるけど、多分そう。
中でも多いのは、小さな袋に入った食べ物。
最初は開けるのに苦労したけど、段々とコツを掴んで来た。
で、一口食べると……
「……これもお菓子だわ。向こうの世界の人達は、結構贅沢なのね……?」
甘いお菓子なんて、ここじゃ贅沢品なの。
でも、こんな風にポンポンと渡すなんて相当豊かな世界なんでしょうね。
ん? これ薬草?? あっ、紅茶?
……コーヒー! こういうのもあるのね!! ちょっと嬉しいわ。お湯を沸かす位なら、ここでもできるし楽しめる。
向こうの世界にも茶葉ってあるんだ。ハムとかもそうだけど、私の知ってるものがあるって不思議。
「うわ、またこれね……しかも違う柄の」
お菓子の次に多いのが、謎の金属製の入れ物。
片方に開きそうな穴があって、変な金属片がついてる。この金属片を動かすと穴が開く。
中には飲み物が入ってる。
「……ああ、これも飲み物。しかも、お酒」
たまーに果実水みたいなのが入ってるけど、果実が描かれておきながらお酒だった時もあって、油断できない。
もう大体はお酒って考えた方がいいわね。
「はあ。駄目だわ! キリがない!!」
これでも貢物の半分に到達してないのだから恐ろしい。
どうすればいいのよ。お菓子やお酒だって、こんなに食べれないわ。
生ものも……蟹って調理したことないんだけど……
一先ず、時間をおいてから食べろと言われた大きな果実を台所に運んだ。
そこへ、突然、誰かが押しかけて来た。
女神教の巡礼者かと内心警戒したけど、明らかに集団の恰好が山賊のソレだった。
◆
【新訳■■■教聖書より 神様からの貢物】
山賊たちは教会に押し入りました。
彼らは食べ物や、金になりそうなものがあれば奪うつもりでいました。
ところが、教会には尋常ではない数の貢物があり、これには彼らも驚きます。
途方にくれていたアンリエッタが、彼らに言います。
「どうか、これらを持って去ってください。私一人では手に余りすぎるのです。中にはお酒や食べ物、高価な食器もあります」
山賊たちは半信半疑でしたが、奇妙な容器に入った酒を飲むと、これは本当だと。上機嫌で宴会を始めてしまいました。
瓶に入ってた奇妙な食べ物は酒に合って、とても美味しく。
庶民には馴染みない甘味なお菓子に舌鼓を打ちます。
山賊の一人がアンリエッタに尋ねます。
「これは一体どこのもんなんだ? 酒も食い物もうめぇが、飲んだことも食ったこともねえし。見た事ねえもんばかりだ!」
「えっと、神様から頂いたのです」
「成程なぁ! 見た事もねえから、神の国にあるもんって訳か! そりゃ、うめぇに決まってらぁ」
酒で相当酔った彼らでしたが、そのまま貢物を全て馬車に乗せて、夜道を行ってしまいました。
アンリエッタも、酔った山賊たちを不安に思いましたが。
所詮は山賊相手です。何も警告せず、彼らが立ち去ってくれた事に一安心しました。
それから、山賊たちは夜道でも飲み食いを楽しんでおりましたが、その中に一本。奇妙な酒がありました。
誰もが蜂蜜酒だろうと、ビンを開けた途端。
蜂蜜酒らしかぬ奇天烈な臭いが漂い、頭痛や吐き気を訴える山賊が幾人かいました。
それでも、酒を飲んだ者は奇声をあげて、幻覚を追って攻撃をし、その場は混乱しだします。
何とか山賊たちは、下山をして近くの検問所で兵士に囚われましたが、中には正気ではないものもおりました。
彼らの話自体は信憑性がないものですが、彼らが持ち出した貢物はこの世のものではない品々に、見た事もない文字がいくつも描かれていたので、信じざるおえませんでした。
その貢物の中で、どれが人に害なすものなのか判別ができない以上、貢物を引き取った教会は、全てまとめて封印する事にしました。
実際、害をなすものは、一本の蜂蜜酒だけだったのですが、彼らが知る由もありませんでした。




