夏色を選る幸せ。
毎週土曜日、夕方くらいでしょうか。高校生くらいだと思うのですが、背の高い男の子がひとりやってきます。
私がこの文房具屋さんで働き始めたのは二か月前ですが、その時にはもう既に常連さんだったようです。その子は必ず便箋を買っていきます。
先週は確か、海をモチーフにした便箋を買っていきました。なかなかに乙女心をくすぐるデザインです。きっと、彼女さんにでも書いてあげているのでしょう。
お客さまの詮索はあまり好ましいことではありませんが、毎週来る彼は印象深い上に、決まった買い物。これで想像をめぐらさないのは、きっとこの夏のセミくらいでしょう。
名前はわからないので、土曜日からの連想で、土星の環の「環」をとって、「たまき」くんと勝手にお呼びしております。もちろんこっそり、心の中で、ですよ。
七月十一日。今日も環くんは便箋を選んでいます。実は彼の好みの傾向をこっそり把握して、バックヤードからの補充の際にも意識をしているのです。前回は海色でしたから、夏のイメージのもので、被らないものを選択します。
今日私が選んで足しておいたのは向日葵色の便箋です。
「…お願いします」
環くんがレジへと持ってきてくれた便箋は、陽の香る向日葵色です。少しにやけそうになってしまう口元を引き締めて、私はレジ打ちに専念します。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
今日も環君は、便箋だけを買って帰りました。