毎週土曜はこの店で。
今日も僕は、文房具屋で便箋だけを買う。封筒とセットになっている便利なアレではなく、めくって一枚ずつ切り取って使うタイプのものだ。
一週間にひとつ。毎週土曜日の夕方五時に、商店街というには少し新しい、ショッピングモールというには少しさびれている、そんな場所の一角にある文房具屋で買う。
今日は、海色の便箋を選んだ。せめて便箋だけでも夏らしさを演出していかないといけないな、などと僕は考える。腕時計のカレンダーは七月四日だと言っている。まだ雨は止まない。
便箋や封筒の類は入り口からすぐのところにある。入る前から大体の目星は付いている、と言っても過言ではない。何せ僕は毎週ここに通っているのだ。品揃えなんてそんなに頻繁に変わるものじゃない。
「いらっしゃいませ」
僕に気づいた店員さんが、営業スマイルというには少し親しみのある笑顔を向けてくれる。僕は軽く会釈をする。毎週通いだして随分経つので、顔は覚えられてしまっているらしい。僕も店員さんの顔は覚えてしまっている。一度見たら忘れられない顔の人なのだ。とはいえ、特別目立った目鼻立ちではない。おそらく大学生のバイトだろうとみられる彼女は、茶髪や金髪にするでもなく、艶やかな黒髪を綺麗にひとつにまとめている、おとなしい雰囲気の人だ。僕もじろじろと彼女の顔を眺めたことはない。
それでも、彼女のまとう雰囲気は、僕の昔の恋人に、似ている。ただそれだけだ。女々しい僕は、今日も文房具屋に通う。
その店員さんは、柚木さんという。会計のとき、制服のネームプレートを確認したのだ。柚木さんはとても丁寧に便箋を包む。未だに紙の包装紙に包んでくれるのも、僕がこの店を好きな理由のひとつだ。