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魔女狩り聖女ジャンヌ・ダルク サイドストーリー篇  作者: 白崎詩葉


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あの頃と変わらない③

 すぐに攻撃した。

 血を伸ばして、ブラドに向かった。

 だが、血は届く前にただの血となって、床に落ちる。

 攻撃しようにも何もできない。

 血が変わらない。何も変わらない。

「時間をかけるつもりはない」とブラドが近づく。

 やだ。

 あの時のようになりたくない。

 背後に下がれないほどに、背中が壁についた。

 離れたいのに足が動けない。

 ブラドが目の前に立った。

 ブラドが睨みついた時、急に眠くなった。



 目を開けると、周りが明るかった。

 よく見ると、ブラドの脇に抱えていた。

「ブラド様。おかえりなさいませ」

 声をかけたのは、メイドのハンナだった。

「こいつを洗ってくれないか。カーミラ様に会わせる」

「かしこまりました。ただいま準備いたします」

 ハンナは奥へ行く。

 まだ何かされる。

 すぐに離れようと体をじたばたする。

「起きたか」

 ブラドが落とす。

 すぐにブラドに顔を上げた時だった。

「その子ね」

 声をした方へ向いた。

 その先にはカーミラがいた。

「カーミラ様。今すぐ汚れを落としてからにしますので」

「私が早く見たかったのよ」

 目の前まで近づく。

 カーミラがしゃがみこみ、見つめる。

「今度の子も癖がありそうね」と頬に手を当て言う。

 その時、ふと思い出していってしまった。あの言葉を。

「黙れ!クソば!」

 ドーン!


 この時の記憶はない。

おそらくこの時に教育の方針を決めたと思う。

 その言葉は、死の言葉となり、二度と言わないと決めた。


 それから、イーグス・フォードと名をもらった。

 何をされるかと思えば、まずは礼儀や勉強をしろと。

 当時はその意味を理解できなかった。

それよりもまだあの時のようにされるんじゃないかと。

 何度も抜け出し、何度もハンナやブラドに連れ戻されたことか。

 脱出できないと気づいても、やめたくなかった。諦めたくなかった。

 カーミラがこの城から出さないように、タタリをかけたことを後から知った。

「どうして、勉強をしないのよ」

 カーミラと紅茶の時間。

 仕事があるのに、この時間は必ずいた。

「そんなに勉強が嫌」

 カーミラはカップに口をつけ、椅子に縄でしばわれたイーグスに言う。

「なんでここまでするんだ?」

「口」と鋭い目つきをするカーミラ。

「どうしてここまで教えていただけますか」

「よし」とカップを置く。

「私の元にいるなら、礼儀を持ちなさい。それに、この世界のことも。社会も歴史も。あなた自身のことも。何も知らないでしょ。知っていたら、いろいろと考えられるでしょ。どうやって行動するかも。どうやって解決するかも」

「・・・」

 何も返せなかった。

 カーミラの元に来るまで、あの部屋の中しか知らなかった。

 言われたことしかできなかった。何も考えられなかった。何をするかも分からなかった。

「そんなに嫌なら、一つ約束してあげましょうか」

 カーミラが提案する。

「あなたが16になった時、私の仕事を優先してくれるならこの城から一人で出ることを許可してあげる」

 その提案が喉から手が出るほどだった。だか。

「年は分かりませんが・・・」

 カーミラはにやっと口をあげる。

「分かるわよ。血の鮮度で確認できる。抗体も」

 カーミラは目を閉じる。

「今は7歳で・・・あなた。聖女の血を吸ったことあるの?」

 カーミラが驚いた様子で見つめていた。

「ございません・・・」

「そう」

 白の吸血鬼は、吸血鬼の突然変異で、光の抗体が高い。

 だから、聖女の血を吸えない吸血鬼でも対応できる。だから戦力として生かされているのだろうと。

 でも、聖女を噛んだ覚えがない。

 もしあるとしたら、屋敷から逃げ出した時だろうか。

 カナカナと音を聞いてから記憶がない。

 確かめようにも、唯一の手かがりのあの服も男爵に破かれた。

 探しようがない。

 後から知ったが、あの服装が東の国の服装と似ているということ。

 東の出身の聖女の可能性があった。

 だとしても、その聖女が現在生きているのか分からない。

 生きていたとしても、覚えているのかも。会ったとしても敵として襲われるかもしれない。

 それとも違う反応をしてくるかもしれない。いや、そんな期待は持たない。

 だから、探すことはしなかった。

 カーミラの約束は、何か企みがあると思うが、それで自由を得られるなら、なんでもよかった。

 それから約束を果たすために、大人しく勉強した。成長するにつれて、ブラドの仕事を手伝い、社会性を学ぶためと言って、他の吸血鬼や赤の従士の交流もした。

 他の吸血鬼たちを見たが、女たちは魅了され、男たちからは忌々しい視線を感じた。

 白の吸血鬼は異性を惑わし、同性からは嫌悪される。だか、抗体が持つ者には効かない。だから、赤の従士からは面白がってからかわれた。

 それから16になった。

 約束通り外に出ることを許可いただいた。

「許可をいただき、ありがとうございます。失礼します」と城から出た。



「一日かと」とブラド。

「私は半日」とカーミラ。



 18時間後。


 戻ってしまった。

「引き分けですね」

「戻るなら早く戻りなさいよ」

 呆れた様子でいうカーミラとブラド。

 まさか、ここまで魔女と吸血鬼たちが追いかけてくるとは。

 改めて自身の誘惑の恐ろしさを知った。

 カーミラから離れたとしても、こんなすぐに追いかけてくるとは思わなかった。

 それでも自由が得られるなら。

 カーミラからの仕事をこなしながらも、魔女と吸血鬼から逃げることを覚えた。

 それから2年たった頃だった。

 本当に魔女に困っていた時だった。

「出血大サービス」とかざなりの魔女ウィム・シルフが現れ、白の聖女ジャンヌ・ダルクを紹介された。

 血を吸い、以前にも感じたことがあった。

 ジャンヌと会ったのはこの時初めてだった。ただの気のせいだろう。

 でも、魅力的な味で、懐かしかった。

 だからなのか、何度も飲みたくなった。



 イーグスは目を覚ます。

 動けなかった体がやっと動く。

 まだ重いが、動けないほどではない。

 抜かれた歯が生えている。

 噛みつかれた首や指、体も治っている。

カーミラにより死ぬことができない。だからなくなった体の一部が再生し、傷も治っている。

服も破かれている。

 今の姿を見て思い返してしまう。

 あの頃と変わらない。

「起きたでありんすか」

 声の方へ向けば、タカオが立っていた。

「何。着替えてないのでありんすか」

 タカオが見下ろす。

「動けるでしょ。さっさと綺麗にしなんし」

何をしても何も変わらない。

 今は従うしかない。


 カーミラは見事な平手打ちをした。

 壁に人の形とした穴が奥まで続いた。

 入浴場まで続いているだろう。

「どこで覚えたのかしら!」と切れ気味に手を払うカーミラ。

「これはまた」と空いた穴を見つめて言うブラド。

「死なないようにしてあるから平気よ。後でもう一度連れてきなさい。しつけしがいがあるわ!」

 カーミラは離れる。

「承知しました」

 ブラドが入浴場に着いた。

「どうですか」とブラドが声をかける。

「はい。とても大人しい子ですよ」とハンナは白目をむいたままの少年を洗う。




 メイド長のハンナ。


 カーミラの直属のメイド。

 昔は、カーミラの城には多くのメイドや執事がいたようだか、今はハンナ一人のようだ。

 すべて一人でこなすほどの実力を持ち、そして、苦手である。

「坊ちゃん」とハンナは探してくる。

「また、勉強をさぼって」

 頬に手を当て、ため息を吐く。

 と言っても、すぐ背後にある茂みにイーグスが隠れている。

 気づかれないように息を殺す。

「仕方がない。坊ちゃんが寝言まで言っていたカーミラさまの悪口ノートを提出しなければ」とハンナは手元にノートを持つ。

 すぐに茂みから飛び出してしまう。

「あら、そちらにいらっしゃったのね」

「どうして・・・」

「メイドは見たというものなので」と笑顔で返す。

 他にも。

 隠れていても「坊ちゃん」と言いながらすぐに見つかる。

 逃げた先で「坊ちゃん」と現れることもあった。

 対抗して攻撃しても、逆に掃除に使われて、「助かりました」と言われた。

「坊ちゃんがあちこち行ってくださったおかげで、見落としていた掃除もできて何よりです」

 探しついでに掃除するほどの余裕があったということ。

一番ひどかったのが。

さすがにイラたち、ハンナのメイドキャップに傷付けた時の怒りが・・・恐ろしかった。

 カーミラが止めに入るほどの怒りだった。

「メイドキャップはメイドの命だから、絶対に手を出すな」とブラドが注意するほどだった。

「昔、ありましたね。うふふふ」とハンナは笑顔で言う。

 ブラドも何かあったらしい。


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