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糸巻の魔女①

「今日も野宿かな」

 日が傾き、赤くなった空を眺めながらジャンヌは歩いていた。

「さて、寝床を探さないと」

 一歩前に歩いた瞬間。

 目の前でドスッと岩石が落ちたような重い音がした。

 あと一歩早ければ、巻き込まれるところだった。

 咄嗟に後ろへ下がり、ロザリオに手をかける。

 土煙に黒い影が映る。

「げほ、げほ、変なところに落ちた」

 聞いたことがある声だった。やがて、土煙が止んだ。

 金髪の長い髪。シャツに短いスカートをはいているエルフの少女だと思ったが、声が男だった。それに見覚えがある顔だった。

「もしかして…レオン?」

 女装したレオンだった。

 以前、よきの魔女リリス・ライラ・ウィッチャーに復讐するためにナリカケを作る事件があった。その時に一緒に協力した間柄だった。

「は?あ、おまえ!この間の短気聖女!」

 レオンは、ジャンヌに指を指す。

「何よ。その言い方」

 失礼な発言にジャンヌは眉を吊り上げる。

「あなた・・・どうして上から落ちてきたの?危うく巻き込まれそうになったけど」

「逃亡経路に失敗した」

 レオンが悔しそうに言う。

「逃亡?あ~リリスから逃げてきたでしょ」

「そうだよ」

 レオンは、よきの魔女リリス・ライラ・ウィッチャ―の子供でエルフの血を引いたリリムである。特に彼は、リリスのお気に入りでとても可愛がっている。その可愛い方が尋常ではない。想像もつかないようなことをしているらしい。レオンが男として以前に生き物の扱いをしていないと聞く。

 嫌になっていつも逃げ出しているという。

「その服もまた『呪い』で作っていないでしょうね」

 前回会った時に、知らずに『呪い』で作った服に触れた時、浄化され、服を破けたことがあった。それで彼が女装した男だと初めて知った。

「今回は本物だ。でも・・・今回男物の服がない・・・」

 レオンは口惜しがる。

「・・・そう」

「リリスが俺の隠した男服を燃やすんだ。しかも目の前で。誰が着るんだろうと言ってさ」

 レオンは苦労しているようだ。

「まだ女装させるだけでまだマシか・・・人形のように弄ぶし。生き物すら見てねえ」

 魔女は基本何を考えているのか分からない。考えるだけ無駄。どの魔女もまともではないからだ。

 ジャンヌはふと気づいたことをレオンに問いかける。

「ねえ、そんなに逃げたって、すぐに連れて帰るんじゃないの?懲りないの?」

 レオンがリリスのお気に入りなら手放したくない。外に出ないように閉じ込めるような気がする。

「俺だって・・・無意味だって分かっても逃げ出したいんだ・・・」

 自覚はしていた。

「俺・・・リリスと契約されて逃げられないんだ」

「え?契約?」

 魔女の契約ほど面倒くさいものはない。

 魔女と契約を結ぶのは、首輪に繋がれているような状態で、魔女が解除されない限り、自由を奪われる。契約内容はそれぞれだが、その契約を破かれたら、どう裁かれるのか、想像はつかない。運が良くて、怪我して生きて帰ればいい方。

 レオンは、素直に契約内容を話してくれた。


 いい。よ~く聞きなさい。

 あなたは、私が死なない限り、死ぬことも老いることもない。

 つまり一生愛らしい姿にいられるってこと。

 例え、バラバラに引き裂いても、燃え尽きて死んでも生き返れるのよ。

 嬉しいことでしょ。

 後ね。あなたが嫌がって逃げてもかまわないのよ。

 だって怯える兎って愛らしいでしょ。


「ウサギじゃない!」

「そこに突っ込むの」

 相当気に入っているらしい。リリスがそこまでやるとは。リリスが生きている限り、老いることや死ぬことができない。この世で最強と言われるリリスを倒すことなんて、誰もできないことだ。つまり、レオンは一生リリスのおもちゃとなる。

「もう嫌だ!こんな生活!誰かあああああああ。俺を自由に解放させてくれー」

 地面に叩きつけ、悲痛な叫びをする。

 レオンの事情と苦労を知ってしまい、いろいろと哀れみを感じてしまう。

 涙目になったレオンがジャンヌに振り向く。嫌な予感。

「リリスを…」

「断る」

「なんで!まだ何も言っていないじゃないか!」

「言わなくても話の流れからして、リリスを殺してほしいとかでしょ。いやよ。相手はこの世界で最強と言われる魔女よ。それに面倒くさそう」

 それが一番の理由だった。

 リリスを倒すとなると、黒女神(シュバルツ)と戦うのと同じくらい総力戦になる。古の聖女のイヴとマリアと互角な戦いが続くかどうかだ。

 いろいろと想像以上なことになるかもしれない。考えるだけで鳥肌がたつ。

「それにリリス死んだら、あなたも死ぬんじゃないの?」

 魔女の契約によって、魔女が死んだら、共倒れする場合もある。レオンからの話からして共倒れになる。

「リリスから解放されるなら、死んでもいい!」

「自殺願望か!」

「じゃあ、せめてこの契約解除とかできないのか?」

 必死にせがんでくるレオン。

「いや、それはそれで面倒くさくなるから嫌よ」

 もし契約解除されたと分かったら、リリスに何されるか想像もつかない。

「それに聖女は魔女の契約を解除できると思わないでよ。そこまで聖女は万能じゃないの」

「ち!使えねえな!」

「ああ」

 ドスのきいた声を出す。生意気な言葉にイラつくが立ち、ゴツっとレオンの頭を殴る。

「なんだよ!」

「失礼なこと言ったから。それにこれ以上話が続いたら夜になるわよ。暗くなる前に寝床を探したいから、さようなら」

 赤かった空が徐々に暗くなっていた。ジャンヌは歩き出そうとしたが足が止まる。

「そういえば・・・」

 ジャンヌは見回し、果実を見つけ、木からもぎ取る。

「ちょっと」

 レオンに声をかける。

「ああ!」

 不機嫌な声で返したレオンが、振り返ったところで果実を投げる。

 レオンは片手で果実を受け取る。

「なんだよ。これは」

「ナリカケの時、手伝ったお礼」

 以前ナリカケ退治に協力し、お礼もしてなかった。

「安」

 レオンは、果物をかじる。

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