花桜の魔女⑤ 挿絵あり
「ここは」
木造の部屋。奥には庭が見えた。桜がいくつも見える。散っていく花びらが建物の中に入ってくる。
ブランシェとマイルズもいる。
「イーグス様。ご無事ですか」
ブランシェに声をかけられる。
「ご心配なく」
まだ体が動けない。魔力も使えないから、右肩から流れる血が止まらない。
「あれ。何これ」
ブランシェは背中から何かを取った途端に、体が軽くなった。動ける。魔力も感じる。魔力を取り戻したので、右肩の血を固め、体を起こす。
「これは」
ブランシェが持っていたのは、カードだった。よく見れば、陣を描いている。
やはり仕掛けられていた。背中に回れていたとすれば。
「いつの間にこんなもの。つけたのかしら」
「僕も気づかなかった」とマイルズにとぼけた様子だったので、「そうですね」とイーグスはマイルズににらみつける。
マイルズがびくついている。
やはり。そのカードで確信した。あの襲撃がアキセだということを。見つかっていなかった間、アキセとマイルズは協力していたということを。
「あなたたちね」
女の声をした方へ向く。
薄ピンクの髪と目。以前にもユカタと似たような恰好とし、赤と薄桃色を基調とした服を着た少女だった。
「人の庭で何をしているかと思えば・・・」
魔女と目が合う。
「白の吸血鬼ではないですの」
目の前にまで近づく。
「イーグス様に!」
ブランシェとマイルズの前に突然、ドラゴンに似た顔だけが威嚇する。周辺に花びらが集まり、徐々に大蛇のように長い体が形成する。人が呑み込めそうな大きい体だった。
「シャア―」と桜色の蛇は威嚇する。
「ミヤマちゃん」と桜色の蛇は振り向く。
「まだダメよ。見張ってて」
ミヤマは大きく頷き、長い尾でブランシェとマイルズを囲む。
人質に取られた。
変に動けば、殺されるかもしれない。
「右肩。怪我しているんですね」
魔女が優しく右肩を触る。
「これは・・・」
魔女は右肩に口をつける。血を吸われている。
「おいしいですね」と魔女は笑う。
「お名前は?」
「・・・イーグスと申します」
嘘を言ってもブランシェに突っ込まれる。
「イーグス様と申しますのね。私。花桜の魔女ハルカゼ・サクヤと申します。よろしければこの後お茶いいですか」
お茶会に誘われた。また惑わされたか。でもこれで利用できる。
「できればあのお二方を返してからでも」
「分かりました」
あれ。あっさり。
まあいい。先にこの二人を逃がせるなら。空間の外に出せれば、アリスが保護できるだろう。これで面倒見なくて済む。
「この後付き合ってくだされば」
「ちょっと待ってください!」
ブランシェが止めに入る。
「イーグス様は私と駆け落ちするんです!」
ややこしいことを言うな。
「あの~本当ですの」とサクヤは首をかしげる。
「いや~それは~」
「ブランシェ!そいつはやめろって言っているんだ!」
「マイルズは黙ってて!」
サクヤはブランシェの元へと近づく。
「あなたもイーグス様もご執心で」
「はい!」
ブランシェははっきり答える。
「いい」
サクヤがしゃがみこんで、ブランシェと目が合う。
「あなたはまだ子供なのよ。あなたとはつり合いが取れないわ」
サクヤははっきり言う。
「マイルズがあなたのことを気にしているじゃないの」
「違う!」
マイルズは顔を赤くして言う。
「だからあの子と向き合ったらいいのでは」
「私はイーグス様がいいんです!」
パシ!
サクヤは平手でブランシェの顔を横に払う。
左頬に赤くなっているブランシェが、一瞬何かあったのか分からないような顔で見る。
「ブランシェ!」
マイルズがブランシェの元へと駆け寄る。
「分をわきまえなさい!」
サクヤは声を上げながら見下ろす。
「品がなってない。見苦しい。そんな子は嫌いよ」
サクヤが鋭い目つきをする。
庭から散っていた花びらが集まり、形を成していく。狼と羽をもった腕で鋭い爪と大きい足を持つ鳥の獣が走ってくる。
イーグスはすぐに動こうにも床から枝が伸び、手足を絡める。
マイルズがブランシェの前に立ち、赤い刃を2本飛ばす。
一本は狼の片目に当たり、混乱する。一本は鳥の獣が腕の羽でガードする。マイルズの横からミヤマの尾で払い飛ばす。マイルズは壁に当たる。
「マイ!」
ブランシェの目の前に狼が口を大きく開けて、迫る時だった。
狼が急に白い炎に包まれながら散っていく。鳥の獣も白い炎に包まれながら、花びらとなって散っていく。
その先には、白の聖女ジャンヌ・ダルクが立っていた。




