花桜の魔女①
「おまえが白の聖女ジャンヌ・ダルクか」
経緯もなく突然、ジャンヌの前に少年が立っていた。
7歳くらいの少年。服装から見てどこかの貴族だろう。
「ふ~ん」
偉そうにじっと見られる。
よく見れば、目が赤い。吸血鬼の特徴の一つであること。
「何」
急に腕を引っ張られる。口を大きく開け、牙を見せる。
一瞬で頭によぎった。イーグスに血を吸われるあの感覚。
咄嗟に少年を押す。少年は勢いよく奥に飛ばされ、木にぶつかる。その衝撃で木が倒れる。
すぐに冷静になった。普通の吸血鬼は聖女の血を吸えば、光の浄化に耐え切れずに死ぬことを。
「子供でも手を抜かないんですね」
背後からイーグスがひょこっと来た。
「彼は普通の吸血鬼ですよ。血を吸ったら、死ぬんですよ」
「知ってるわ。そんなことを」と切れ気味に返す。
いつもイーグスに吸われていたから咄嗟にやってしまった。
イーグスは『光』の抗体があるから、血を吸われても耐えられる。
「マイルズ様もお忘れでしたか」
イーグスは少年に向かって言う。
「げ!シロイヌ!」と嫌そうに驚くマイルズ。
「私は解雇しましたが」
「どういう関係よ」
「アリス様のご氏族ですよ。外出したから連れてきなさいとアリス様に言われましてね。あ~見えて中身が黒いんですよ。イタズラがもう殺すレベルで。刃物を飛ばすし、毒を盛ろうとしましたし」
「そこまでさせるあんたが悪い」
「アリス様にも似たようなことを言われましたよ。さて。帰りますよ。アリス様にご迷惑です」
「おまえの彼女を奪ってからだ!」
咄嗟にマイルズの横にロザリオを刺す。
「二度とその単語を使うな」
ドスの入った声で脅す。
「ほら。相手は聖女ですよ。冗談が訊かないですから、軽はずみな発言は避けた方がいいですよ。僕しか扱えないので」
「それもどういうことよ!」
「見つけました!」
別の幼い女の声。
赤い瞳。長い金髪を三つ編みで留めている。桃色よりの赤いドレスを着た幼女の吸血鬼。
「ブランシェ・・・」
「お姉さまとイーグス様にご迷惑をかけないでください」と言いながらブランシェはイーグスに駆け寄る。
イーグスは頭を抱える。
「ブランシェ!そいつから離れろ!」
「どうしてですの!」
「いいから離れろ!」
「ブランシェ様もどうしてこちらに」
嫌そうなイーグスはブランシェに訊く。
「マイルズを探しに来たんです!」
顔を赤らめてイーグスを見つめる。
分かった。ブランシェが根端か。ブランシェはイーグスに恋している。マイルズはブランシェを気にしている。マイルズはイーグスを嫌っている。殺したいほどに。イーグスを勝つためになぜかジャンヌを奪おうとしたということ。ブランシェはマイルズを探せば、イーグスに会えると思ってきたということか。
修羅場か。
ひどくなる前にこの場から逃げるか。
その時、一枚の花びらが散る。
花が一凛も咲いていない森の中でどこから散っているのか。
花びらが吹雪のように吹き、視界を奪っていく。




