赤い服を着た男⑤
オオイヌは筋肉質になった淫魔を押さえきれなくなった。前足を掴まれ、地面にたたきつけられる。
枝に積もっていた雪が落ち、地面が割れるほどだった。
妄想だけで力を増すとは。ルシアの想いを実現する力も侮れない。
たたきつけられたオオイヌは、モコモコとした子犬へと変わった。
あのイヌ。以前、言霊の魔女に声を入れられたぬいぐるみの子犬だった。
「このイヌ!」
淫魔は子犬に足を上げる。
ジャンヌは白い炎を飛ばす。淫魔は白い炎をよけ、子犬から離れる。その隙にジャンヌは子犬の前に立ち、ロザリオを構える。
「これ以上付き合うつもりはない。すぐに終わらせる!」
ジャンヌはロザリオを振り、白い炎の波を飛ばす。
アキセも早く終わらせたいので、参戦する。
アキセは銃を打ち、淫魔の足元に当てる。浮かびあがった陣から鎖が伸び、淫魔を捕まえる。
白い炎が迫ってくる。
これで終わる。
「当たってたまるか!」と力づくで鎖を壊す。
「は?」
淫魔は避けながら、袋を投げる。袋の勢いがおかしい。袋に重みがある。ジャンヌは背後にいた子犬を持ち、避ける。袋は地面にぶつかれば、大きい爆発が起きる。
袋の中に爆弾を仕掛けたのか。予想外な技を使いやがって。
「ム~ラ~ム~ラ~」
淫魔は手に黒い玉を込める。
「破あああああああああああああああああ!」と黒い球を撃ち出す。
「え?」
ジャンヌは咄嗟に伏せる。
黒い球は木をいくつも払い、見通しのいい道ができた。
「ふざけた技を使いやがって!」
「今の俺は無敵じゃ!」と高笑いする淫魔。
腹立つな。
「おまえらを倒し、セックスをするんじゃあ!」と淫魔がジャンヌに向かう。
「もう殺す!」とジャンヌは怒る。
ふざけているが意外に強くなっている。
力の根源はマンガにある。マンガを浄化すればすべてが終わる。だか、ジャンヌが代わりに退治してくれればいいか。ゆっくり見物しようとするかと思った矢先だった。
「いい加減にしてえええええええええええええええ」
ドン。
ルシアは本の角で、淫魔の頭を思いっきり叩く。
ルシアも地面が割れるほどの衝撃を与えた。
その衝撃で淫魔からマンガが転がる。
黒いモヤに包まれたマンガを掴み、「こんな汚いの、いらない!燃やして!」とルシアがジャンヌに差し出す。
「あ。うん・・・」
ジャンヌは躊躇もなくマンガを白い炎で燃やす。
「もうやだ。汚い大人なんて大っ嫌いだああああああああああああああ」
ルシアは泣きながら飛び出す。
あっけなかったな。
マンガの力を失い。淫魔は太った姿になった。
そうか。元からこの姿だから性行為もできなかったわけか。
ジャンヌは、と辺りを見れば、あの子犬にかけつけていた。
「大丈夫?」
子犬は気が付き、ジャンヌの胸の中による。安心したのかジャンヌの顔が緩やかになった。
ジャンヌと目が合い、にらみつけられる。
「なんだよ」
「この子には手を出さない」
ジャンヌは強く子犬を抱く。
「俺がそんなちっこいのに!」
顔に衝撃。
子犬が顔に突っ込んできた。その反動でまたジャンヌの胸の中に戻る。
「この!」
急に手足が動かなくなり、急激に寒くなった。よく見れば、腕まで氷ついていた。
「え?」
「やっと終わったわね」
声をした方へ向けば、雪華の魔女ユキシズクがいた。




