言霊の魔女①
ジャンヌが森の中で歩いている時だった。
愛らしい目。羊のようにモコモコな毛を持つ子犬だった。
かわいい。可愛さでときめいてしまう。
もう少し近くで見ようとしゃがみ込もうとする。「ボク!」とアキセの声がしたので、反射的に蹴る。
――こいつ。ここまでするか。
アキセが可愛い子犬に変身して近づく作戦だろう。絶対にそうで違いない。
「ジャンヌ・・・」
声をした方へ向けば、イルがいた。
人間の顔と体。エルフの耳。狼の口。左腕が鋭い爪を持った黒い腕。大猫の右腕。大トカゲの足。狐の尻尾。大きいロープとかぶりを着ている。
「暴力的なのは知っていたが、そこまで・・・」
「違うの!こいつが言いたくないんだけどアキセなのよ!」
子犬に指を差す。
勘違いしないで。
「こいつが?」
イルが首をかしげる。
子犬が蹴られたにもかかわらずに近づき、ジャンヌの足に甘えるように体をすりつける。
「ボク!」
また蹴る。
「確かにあいつの声がするが・・・臭いが違うんだよな。それに獣臭くない」
「そうなの?」
「ああ」
子犬を見つめる。声がアキセと同じ。だとしたら。
その時、イルの視線が遠く見つめる。
「どうしたの」
「別の匂いが一瞬したが、消えた」
「そう・・・」
「ふふふ~ん」
長い耳をつけた着ぐるみを着ている幼女は、玩維の魔女スタッフィ・トモニール。鼻歌をしながらぬいぐるみを作っていた。
「イロハおかえり。あれ。捕まえてないの?」
スタッフィは振り向いて言ったのは、黒い髪に肩を出して、ナデシコを描いている袖の長い衣を巻いている女。言霊の魔女イロハ・ナデシコだった。
「ええ。聖女がいたのよ。でも・・・素敵な方を見つけましたの」
イロハは顔を赤らめて言う。
「ん?」とスタッフィは首をかしげる。
「ちょっと協力してくれます?」
「あ!だったらテラコットを使いたい。さっそく使いたい!」
「いいですわ。それにしてもまた個性的なぬいぐるみですわね」
確かに。
目玉がボタン。口から血。体の一部布切れがそれぞれ違う。不気味なぬいぐるみだった。
「ええ~これも可愛いよ~」
魔女の感覚は分からない。
「ぬいぐるみというものはもっと可愛いものでは?」
「もうそんなのとっくに作ったよ。いろんなの作りたいの。スタッフィはエキドナみたくぬいぐるみの獣を世に放つのが夢なんだからさ」
小さい割に野望が大きい。
怪物の魔女エキドナ・キメライムは、最古の魔女の一人でキメラを生み出し、世に放っている。
スタッフィもエキドナのように目指しているようだ。
「分かりました。では借りていきますわね」
「いいよ。先に行ってて。あと一匹作ったら、スタッフィも行く~」
イロハは不気味なぬいぐるみを引き連れて出かけた。
「さ~て。もう少しだから、見張ってね~」
スタッフィは縄に縛われたアキセを見張っているテラコットに言う。




