赤蚊の魔女②
目を覚めれば、どこかの屋敷でベッドの上に寝ていたようだ。
体を起こせば、怠さやふらつきがまだ残っている。しかも手に手錠がつけられている。
――あれ。なんでこうなっているの。
ジャンヌは思い返す。
森の中で吸血鬼のイーグスに血や『光』を吸われた。気を失って連れてこられたのだろう。
ここは吸血鬼の領地だろうか。
それにひじゅうの魔女カーミラ・リア・ルージュがいるのだろうか。カーミラは最古の魔女の1人で一人では勝てるような相手ではない。
さて、どうすると考えた時だった。
「お目覚めですか」
声をした方へ向かば、イーグスが優雅に椅子に座っていた。
「あんたねえ・・・」
ジャンヌは眉を吊り上げる。
「こうしないと聖女様が聞いてくれないと思いましてね」
なんか嫌な奴を思い出す。以前にも似たような光景にイラつく。
「ああ。もしかしてカーミラ様のことを心配でいるんですか。そこは気にしないでください。カーミラ様に差し上げるつもりはないので。僕、個人で依頼があるんですよ」
「依頼?聞いてほしいなら、まずこの手錠を外してくれる」
ジャンヌは手錠をイーグスに見せる。
「外したら僕の命がないですから」
「うん。そうね。やるね。殺すね。牙を引き抜いて、一生血を吸えないようにしてやる」
単調に答える。
「話の聞いた通り、野蛮な聖女様だ」
話に聞いた通り。誰かに話しを聞いたのだろうか。
「待った。話に聞いたって誰から?」
「困っていたところに親切な方がご紹介してね」
いやな予感。
「確か、かざなりの魔女ウィム・シルフでしたね」
「あの魔女めー」
かざなりの魔女ウィム・シルフは、アキセと付き合っているという噂を流した張本人。
関わりたくない魔女の1人。
「とてもいい魔女でしたよ。出血大サービスと言って、教えていただきました」
「なんて?」
「魔女まで助けてくれるお人よしの聖女と」
「あの魔女。マジ殺す」
ウィムに殺意を向ける。
「まあまあ落ち着いてくれませんか。いい加減、本題に入りたいので」
「いや」
「実はですね」
勝手に話を進める。
「殺してほしい魔女がいるんですよ」
イーグスは笑顔で堂々という。
「魔女から求婚してくるんですよ」
「求婚?」
恋に生きる魔女もいるが、世間で思えるようなまともな恋をするとは思わない。聞いた話では、相手を人形のように弄ぶのが大半らしい。ロクなことにはならないことは事実だった。
「この美しい美貌にこの力と抗体のおかげでね。魔女や同族から求婚してくるんですよ。吸血鬼の中でも珍しいからね。僕は。これまでも断るのも大変だった。同族ならともかく魔女を断るのは骨が折れる」
「ちなみになんだけど、どうやって断ったのかしら」
「僕の姿に変えた身代わりを渡したり、僕を忘れるように忘却の薬を与えたりその他もろとも」
やっぱりまともな奴ではない。
なんで、私はロクな者と会うのだろうか。
「とりあえず、僕はそんな恋とか結婚とか興味ないんでね。依頼として聖女に魔女を殺してほしんだ」
「乗る気はない。そんな依頼」
ウィムやイーグスの想い通りになってたまるか。
「大丈夫ですよ。状況的にやってくれますよ」
「はあ?」
その時、轟音がした。
壁から人影が映っていた。
「ダーリン!迎いにきたわよ!」
土煙から少女が飛びだし、イーグスに抱き着く。
淡い紫色の長髪でポニーテールにしている。短めのワンピースに上着を肩まで乗せず、胸元で留めている。
「モルモ様。元気そうで」
「モルちゃんって言って。ねえ。心の準備できた?もう私待っていたんだから」
魔女はすぐにジャンヌに気づき、目と合う。
「何?その女。私たちの祝いのディナー?」
勝手に決めるな。
「モルモ様」
「だから、モルちゃんって言ってよ。ダーリン!」
「実は・・・」
イーグスは、モルモから離れ、ジャンヌの肩を回して抱く。
「この聖女様は、俺の花嫁なんだ」
その言葉で目が点になった。
はああああああああああああああああああああああああああああ。
何言ってるのよ。この男は!
「だから、あきらめてくれませんか?モルモ様」
まさか、挑発するようにわざと言っているのか。
モルモが黙り込んでいる。
「おい・・・そこの泥棒猫」
モルモは、怒っている。
「勝手に婚約者を取るんじゃねえぞ」
「怒るとこ違うでしょうが。どっちかというとその男がサイヤクってことに気づいて!」
「うるさい!あんたがたぶらかしたでしょうが!赤蚊の魔女モルモ・モスキ・ディーンが、くじゃくじゃに殺してやる!」
モルモが突っ込んでくるが、ジャンヌは避ける。
もちろんイーグスも避ける。
「だーかーらー!」
怒り任せで手錠を壊す。
「人の話を聞けっていっているだろうが!」
ロザリオを懐から出す。
「見る目なしの恋バカ女が!」
ジャンヌも立ち向かう。




