10月31日②
アキセ・リーガン。
『呪い』を利用し、現象を起こす魔術を使う魔術師であり、魔女の子供で厄介な魔力を持っている。
この男と会ってからジャンヌの苦労が増した。ある時は裏切りと巻き込み、ある時は夜這いや覗きといった性的な嫌がらせをしてきた。
この男が現れたということは、今回もロクなことがない。
「なんでいつも行先にいるわけ」
呆れるほどに。
「さあ、運命に導かれているんじゃない」
からかってくるので、無視する。
「いつからここにいたわけ?」
「昨日から。宿で寝て起きたら、祭り。昨日まで祭りの準備とかしてなかったからさ。もうびっくり」
「やっぱりね。今日いつが分かっているの?」
「知ってる。10月31日。ハロウィンのことだろ」
「そうよ。あんたがどこまで知っているのかは知らないけど、私はこの日は関わりたくなかったのに」
「おっと、おれの情報網をなめるなよ。一日限定の魔女のことで気にしているんだろう。強いって聞いているぜ」
「そこまで知っていたのか」
本当に油断できない。
「まあな。聖女の中で戦った奴いないのか」
「魔女と戦った聖女は確かにいるけど勝ったり負けたり。それに転生するたびに呪力が変わるから、以前の情報なんて当てになんないし。だから、この日はおとなしくしたの」
魔女は、倒しても『呪い』がある限り何度でも生まれ変わる。魔女によっては、以前の呪力が失ったり変わったり、記憶を受けつく場合もある。
「この様子から見るとこの町を支配しているな。どうします聖女様」
「魔女探すしかないでしょ!てか、その呼び方」
不機嫌な顔をする。
その時だった。
町人たちがどこかに集まっている。
ジャンヌとアキセは、町人についていくことにした。
着いた先は町の広場だった。
人が多く集まり、その中央でヒゲの生えた男が話している。町長だろうか。何か演説している。
「今年のハロウィンメインイベントの魔女を選びましょう!」
町長はランタンを持ちながら話す。
「魔女?」
ジャンヌとアキセはお互いの顔を見る。
「魔女は、あらゆる災害を起こし、人を不幸する象徴。その魔女を処刑すれば、1年間幸福を満たすことでしょ。そこで、選ばれた魔女には、裁判を行い、最終的に火あぶりをし、今年の厄災を払わせましょう!」
「おおおおおおおおおおおおお!」と町人は盛り上がっていた。
――それって生贄だよね
「今年の魔女は、そこの聖女様に担っていただきましょ!」
町長は人込みの中、ジャンヌを指す。
「私?」と思わず声を上げる。
町人は一斉にジャンヌに視線を向ける。
「さ~皆さんで捕まえましょう!」
「おおおおおおおおおおおおお!」と町人は声を上げて走ってくる。
ジャンヌとアキセはその場から逃げ出す。
町人から逃れ、家の陰に隠れていた。
「まさか・・・これがしたくて私を招待したのか・・・」
魔女の狙いは分かった。聖女を魔女に仕立て、町人に殺させる算段だろう。
「まあ、魔女の天敵が聖女だしな」
「魔女のルールに従う義理はない。早く魔女を探さないと・・・」
「なあ、ハロウィンの魔女って今日限定だろ。だったらこのまま隠れて消えるのを待った方がいいんじゃないか」
「そうはいかないよ。この町ごと魔女と一緒に消える場合もあるのよ」
毎年呪力が変わるため、何か起こるか分からない。
「だったら早めがいいだろ」
「それはそうだけど!」
ジャンヌはスライドするようにアキセから離れる。
「とか言って!まだ私の『光』を奪おうとしたでしょ!」
「ち、バレたか」
アキセはこっそり手をジャンヌの手に伸ばして、奪う魔力でジャンヌの『光』を奪おうとした。
奪う魔力は、手に触れたモノならなんでも奪うことができる。『光』を吸収するほど、『光』の抗体を持っている。
以前にもその魔力にやられ、散々な目にあった。
「毎回毎回騙されません!私だって学習をするんです!」
「ん~じゃあ、これは」
アキセは、何かを投げだした。ピンが割れ、紫色の蒸気が上がっていた。
すぐに手で口と鼻を抑えるが遅かった。
急に眠気が誘う。
睡眠薬のようだ。
アキセを向けば、いつの間にかマスクを着けていた。
「くたばれ・・・」
ジャンヌは眠気に負けた。