野獣の夜①
顔が見れなかったが、とても見覚えたがあった。
「見~つけた♡」
高い声がした。そして徐々にアヒルの口のように尖らせ、顔に接近する。
わああああああああああああああああああああ!
悲痛の叫びを上げながら、アキセは目を覚ます。
宿で女を捕まえ、夜を過ごし、寝ていたところだった。
「どうしたのよ・・・叫んで・・・」
隣で寝ていた女が目をこすりながら言う。
「なんでもない・・・」
「そう」
女は再び寝る。
「ヤバい…ヤツが来る…」
体中に冷や汗をかいていた。
「どうしよう」
ジャンヌは悩んでいた。
現在、海のように広い湖の港にいる町に滞在していた。
次の街に行こうとしたが、ここからでは、歩いて1週間とかかるらしい。だか、船に乗れば3日で着くという。
だか、ジャンヌは乗りたくなかった。なぜなら、泳げないからだ。炎を扱うのか、反射的に水が苦手になっている。旅先も水辺を避けるようにしていた。
急ぎの旅でないため、仕方なく歩くことに決めた時だった。
「泥棒!捕まえて~」
唐突に女が叫ぶ。
男がバッグを持って走っていた。
「どけ!」
男は懐からナイフを取り出し、ジャンヌに迫ってくる。
腕を伸ばし、男の首に当て、勢いを殺さずに地面に叩きつける。
男は呻き声を上げる。
さらに念を入れて、股間に思いっきり踵を落とす。
一撃必殺の衝撃なのか、男は気を失う。
男は警察に引き渡し、小さな事件は解決した。
「ありがとうございます」
被害者である女性にお礼を言われる。
「いえいえ」
水色の長髪。黄色の瞳。ロングスカートとシャツとブラザー。10代後半くらいの女性だった。
なぜか妙な違和感をした。
「何かお礼をしなければ」
女は考え込む。
「あの~もしかして船に乗る予定でした?」
「え?」
急なことで思わず、声を出した。
「よかった~。私も乗ろうとおりまして、お礼を兼ねて、乗船代払いますよ」
「あ、私、歩いて行こうかと・・・」
「長旅になりますよ。さ~遠慮なさらずに!」
女はジャンヌの手を引っ張る。
「ちょ!話を・・・」
「そうだ、私の名前は、オリビアと言います」
ジャンヌはなさるがままに船に乗ることになった。
「どうしよう。乗っちゃった」
顔に手を当てながら悔やんでいた。
月に照らされながら、船は湖の上を遊覧していた。
ジャンヌは船の柵に傾けていた。
大きい帆船で3本のマストに帆を張られている。
夜風が船を動かしていく。
なぜか、船に乗ってから、乗船してからオリビアの姿を見失った。
誘っておきながらどこにいったのだろうか。
追及するつもりはない。
今は。
「早く降りたい・・・」
溜息交じりでつぶやく。
静けさの中で妙な視線が交じり、ロザリオを後ろに払う。
2,3人切った感覚した。見れば、上半身、腕、頭を失くした人間のようなものが倒れていた。顔を見上げれば、黒い騎士風に格好した人に囲まれていた。彼らには赤い刃を持っている。
「吸血鬼」
吸血鬼。血を好む魔族でありながら、月の『光』に抗体がある分、日の『光』に弱い種族。
相手が魔女でなければ、問題がないが、今回は環境が悪かった。
船の上で、しかも他の客も紛れている。派手に動けないが、それでもジャンヌは、吸血鬼を蹴散らす。
「私がいる時に襲うなんて。運が悪いわね」
悪意を見せるジャンヌに吸血鬼が怯えている。
「大将を出しな」
ジャンヌは言い放つ中。
「まさか、聖女様がご同行とは」
低い声がした。吸血鬼たちが道を開く。
どうやら大将がきたようだ。
「あんたが大将でいいかしら」
吸血鬼たちは道を開く。
黒髪。赤目。黒い騎士の格好した男だった。
「はい、私、この部隊の隊長を務めるアンザム・バリスと申します」
「ご丁寧にどうも。どうせ食事用の人間を狩ってきたところでしょ」
吸血鬼の世界では、最古の魔女であるひじゅうの魔女カーミラ・リア・ルージュにより貴族制で成り立っている。貴族の食事用に下級の吸血鬼が人間を狩ることがある。その狩りに鉢合わせたところだろう。
「いいのか。ここの人間を殺すことになるか」
「その前にあんたたちをつぶ・・・」
殺意を込めてロザリオを振ろうとしたが、唐突に膝をつく。
――なんで。急に体が。
動けない。体中に痺れを感じる。どう考えても、毒を盛られたしか考えられない。
だか、いつ盛られた。
聖女はいつ狙われてもおかしくない。魔女以外でも敵はいるからだ。『呪い』の病気はかからないが、怪我や病気にかかることを知って、狙う者も少なくない。
日頃から警戒は怠っていない。
だか、覚えがなかった。
「おや、どうしましたか?」
アンザムが声をかける。
まずい。今は逃げなくては。動こうにも体が言うことを利かない。
「捕らえろ」
アンザムは、部下に指示を下した。
何も抵抗できなかった。




