つぎはぎの男⑥
アキセはいまだに糸に巻きつかれていた。
「くそ。抜けらんね」
影が2つ見え、アキセの背筋に寒気が通る。
振り返れば、ジャンヌと獣人がアキセを見下ろしていた。
「あれ、終わったんですか・・・」
「ええ。彼の声を盗んだでしょ。返しなさい」
ジャンヌは枯渇の混じった笑顔を向ける。
「・・・はい」
アキセは素直に獣人に声を戻し、獣人は話せるようになった。
懲らしめようと思ったが、すぐにアキセは逃げてしまった。
町も派手に壊してしまい、このままいれば面倒ごとに巻き込まれるので、ジャンヌと獣人は町から森の中へ逃げ出したところだった。
「もう声は平気そうね」
「あの男はなんだんだ?おまえの知り合いか?」
「知り合いにもしたくないほど、やな奴よ」
「そうなのか」
「そうよ」
本当に縁を切りたいほどに。
「これからどうするの。もうあの山には戻れないでしょ」
「もう人間たちにばれた。別の場所を探す」
「そう…」
おそらく獣人は果ての無い旅に出るのだろう。でも、居場所が見つけられないなら。
ジャンヌは獣人に思い切ったことを話す。
「行くとこなかったら、一緒に行かない?」
獣人は一瞬戸惑ったように見えた。まさか誘われるとは思わなかったのだろう。
「こんな俺でも、誘ってくれるのはうれしいが…もう魔女とは関わりたくないでね」
「そう」
魔女に改造され、連行されそうになった。嫌になるのも仕方がない。
「もう君のフサフサな尾を触れないなんで、悲しいな」
そこだけが恋しくなる。
獣人は溜息を吐き、尾をジャンヌに差し出す。
「今回の礼だ」
「わーい。フサフサ」
ジャンヌは、遠慮なく獣人の尾を触る。
「気持ちいい~」
「もう、いいだろ!」
獣人は尾を引く。
フサフサよかったなあ。
「もう行くぞ」
「待ってよ」
ジャンヌは、獣人を呼び止める。
「なんだ!」
獣人は苛立ちを隠せずにジャンヌに振り返る。
「最後に名前。今度こそ教えてくれるよね」
一間を空いてから言った。
「ラ・イル」
ラ・イルは、ジャンヌに背中を見せる。
「そう。ラ・イルまた会えるといいわね」
ジャンヌは笑顔を見せる。
「まあ、機会があったらな」
ラ・イルは振り返りをせず、その場を立ち去った。
「いつまで隠れているの」
木からアキセが不機嫌そうな顔で現れる。
「何よ。その顔。不機嫌になるのはこっちなんですけど」
「なあ、なんであんな奴を気にするんだ?」
何を言われると思えば、思わないセリフに思わず目を見開く。
「へ~嫉妬?あんたが?」
ジャンヌは、アキセにイタズラな笑みで返す。
「嫉妬と思うなよ。淫魔は、恋愛なんで感情はないから、嫉妬はしない」
アキセは、言い訳混じりで返す。
「嫉妬だとしても嬉しくないけどね」
「はあ?」
ジャンヌは少し歩き出すが、アキセがしつこくなる前に言い切る。
「じゃあ、教えてあげる」
ジャンヌは振りかえり、アキセの額に指を突く。
「あんたより男気があって頼りになるから」
指を突いてから、アキセにデコピンする。アキセが口を開く前に歩き出す。
「おい!それはどういうことだ?俺だってそれなりに助けてやっただろうが」
アキセは納得しない様子でジャンヌを必死に追いかけるのであった。




