つぎはぎの男⑤
馬を借り、2時間かかるところを1時間強に短縮した。
ジャンヌは、町の中に入り、馬から下りる。
「『呪い』が増加している。魔女が現れたのは本当みたいね」
黒いモヤがあちこちに散らばっている。明らかに魔女がいるようだ。
「どうやら住民は避難したようね」
町の中を警戒しながら、歩いていたところで、黒い物体が襲ってくる。
後ろに下がる。黒い物体の正体を確かめる。
「針?」
ナイフくらいの大きさだった。
ジャンヌはロザリオを構え、見回す。
「ち!避けるなよ」
ジャンヌは屋根の上にいる少女を見上げる。
「あんた、魔女でしょ」
白いメイドキャップで後ろ髪を止めている。ワンピースを着て、大針を持っている少女だった。
「この盗人!」
「はあ?」
「よくも私の人形を惑わしたね!」
「何言っているのよ・・・」
言いがかりにもほどがある。
「はあ!しらかばくれるんじゃないよ。たぶらし女!この繋目の魔女ユナ・クシャナが殺してやる!」
ユナは、針をジャンヌに向けて投げ出すが、刃を作ったロザリオで針を浄化する。
「ユナって!?」
あの獣人から聞いた魔女の名前だ。
彼女が言っている人形とは獣人のことだろうが。
魔女がこんな町まできたということは、獣人はこの町にいるのか。でも、どうしてと考える隙を与えることもなく、ユナは、針を構えて襲ってくる。
外は騒がしい。どうやら魔女ユナが聖女ジャンヌ・ダルクと戦っているようだ。あの男が仕掛けた罠にはまった。
「よ~し、抜けたっと」
いつの間にか男は、手足についた糸を解き、自由の身になっていた。
「じゃあな。化け物」
男が立ち去ろうとしている。
許せない。あの男をこのままにしてはいけない。獣人を落とし占め、ジャンヌを巻き込ませたことに。
怒りに任せ、鎖が解け、檻をこわし、男を襲いかかる。
男は異変に気付き、振り返る。
「え?マジ!?」
所詮は魔女が『呪い』で作ったに過ぎない。
体中から飛んできた針は、光の刃を作ったロザリオで浄化して消えるが、ユナが持っている大針は消えなかった。
おそらく大針は、魔女が浄化しない限り、消えない。ロザリオへの対策をしている。
聖女と戦う魔女は、『光』の消耗か『呪い』以外で殺す。前者は、『光』を消耗するば、『呪い』を浄化する力を失い、後者は『呪い』以外なら聖女は病気やケガをするからだ。
今回は後者に当たる。
それは、針が瓦礫や家の破片などに刺し、ジャンヌの元へ飛ばしてくる。
よく見れば、針の頭に穴が空き、糸が絡んでユナの手に繋がっている。
針に刺した物を糸に繋げて操っていた。
間接に殺しにきている。
しかし、今は晴れており、『光』が無限に吸収できる。環境的には有利に立っている。
負ける気はしないが、油断はできない。
ユナがジャンヌに突っ込み、ロザリオと針のぶつかった時だった。
突如、轟音が響いていた。
「何?」
ユナが視線を向けた隙に、蹴りを入れ、建物に飛ばす。
轟音した先を見れば、壊れたテントに視線を向く。
「ちょっと、待って!そんなに怒ってたの!悪かったって!」
聞いたことのある声。
予想通り、煙からアキセが飛び出す。
その後を追う獣人。尋常ではない怒りを感じる。
止めなくては。
「ち、獣らしく退治してやる!」
アキセが獣人に銀色の銃を構える。
「やめんか!」
アキセの顔にドスをきいた声をしたジャンヌが蹴りを入れ、近くの壁に飛んでいく。
目を見開いた獣人は、すぐに勢いを止める。
ジャンヌは華麗に獣人の前に着地する。
「なんでここにいるの」
何もなかったように獣人に声をかける。
獣人は、唸り声しか出さなかった。
「あんた?声は?」
獣人は視線をアキセに向けていた。
察しがついた。おそらくアキセの奪う魔力で獣人の声を奪ったのだろう。
「またあんたが・・・」といいかけたところで何かが飛んできたのを感じ、ジャンヌと獣人は咄嗟に避けるが、アキセは避けきれず、謎の物体にぶつかる。
ジャンヌが正体を確かめると、それはアキセが糸で体中巻かれ、身動きが取れなくなっていた。
まあいい気味。
「もう!なんで鎖が解けているのよ!」
ユナ・クシャナが怒鳴る。
ジャンヌと獣人は警戒する。
「あれ、言葉はどうしたの?話せるはずだよね?」
ユナは首をかしげる。
「まあいいわ。それはそれでいい人形になったし。そこの聖女を殺すまでおとなしくしてよ!」
ユナが大針を大きく振り、糸の塊を出す。
獣人に向かって糸の塊が飛ぶが、飛んできた白い炎が糸の塊を消す。
「はあ。邪魔なんですけど」
ユナは、がんを飛ばす。
「邪魔なのは、あんたの方でしょうが」
ジャンヌは、獣人の前に立つ。
「何言ってるの?」
「私、結構気に入っているのよ。彼に」
ジャンヌは獣人に振り向く。
「だからさ。彼が困っている魔女の縁を切るって言っているの」
ジャンヌはロザリオをユナに向ける。
「縁を切るって何よ・・・ふざけるな!」
ユナが怒声を上げる。
「人形は連れ帰る!しつけし直してやる!あんたを串刺してからな!」
「もうあんたとこれ以上付き合う気はないわ。決着つけさせる!」
白い炎を向けて放ち、ユナの姿を見えなくするほど取り囲む。
「合図したら、魔女を襲って」
獣人は静かに頷く。
獣人ではユナに近づいたら、針でやられてしまう。
だったら。
ユナが白い炎を抜け、空へ逃げていく。
よく見れば、大針を上に伸ばしている。
「今!」
獣人はオオトカゲの足に力を込め、ユナの元へ跳ぶ。
ロザリオを通して、大きく振るい、細い蛇のような白い炎を獣人に向ける。
白い炎は、渦を巻きながら、獣人を囲む。
ユナは体から針を飛び出すが、獣人に巻き付いた白い炎が浄化する。
獣人はユナの首を噛みつき、ユナを大針から離す。ユナを首ごと回し、ジャンヌの元へ投げる。
ジャンヌは、白い炎を槍状に形を変え、ユナに向かって投げる。
白い槍は、ユナの頭を貫く。




