つぎはぎの男②
「なんでこんなことに。聖女なんか関わりたくなかったのに」
獣人は焚き火の前で頭を抱えていた。
「さすがにここまで来たら話してくれないかな。その体についてさ。気になるし」
向かい合うようにジャンヌはたき火の前で座っていた。
「てか、何気に食べるな」
獣人が持ってきた子鹿を一部裂いて、子鹿の肉を焼いて食べていた。
「一人じゃ食いきれないでしょ」
獣人は溜息を吐く。
ジャンヌは、獣人を見つめる。改めて見ると、異様な姿をしている。
人間の顔。エルフの耳。口には狼の口。腕には大猫の腕。足は、大トカゲの足。尾は狐の尻尾。体を隠すためが、大きいロープとかぶりを着ている。
「どう見ても人間ができる技じゃないわね。魔女がやったんでしょ」
「だったらどうする。俺を殺すか」
獣人は殺意のある目つきをする。
「そんな目で見ないでよ」
「聖女は魔女を殺す者。魔女関係者であれば無作為に殺した聖女もいると聞いているんだか」
「私は野蛮な聖女と一緒にしないでほしいな。」
それでも獣人の目つきが変わらなかった。
「確かに正義感の強い聖女もいるし、魔女や魔族に対して容赦しない聖女もいる」
聖女も魔女と同様に個性な者がいる。
「彼女たちは律儀に守っているのか。自己防衛が強いのか。まあ。いろいろよ。聖女のルールと魔女を狩ればなんでもいいのよ。聖女は」
「魔女と変わらないような・・・」
「あんないかれた魔女と一緒にしないでよ」
魔女は常識を囚われないほど、自由でワガママな存在。聖女も癖のある者もいるが、魔女と一緒にしたくない。
「私は自由気ままに旅して、やってくる敵を倍に返してるだけ。聖女として最低限のことをするだけ。別にこの仕事は嫌いじゃないよ。だって、ストレス発散に魔女をやれるからね」
笑顔で返す。
「そうなのか・・・」
安心させるところがさらに警戒をさせている。つい本音を言ってしまった。今すぐに話題を変えよう。
「話は戻るけど、どうしてそんな体になったわけ?」
「まだ、聞くのか・・・」
「好奇心」
興味津々に見つめる。
「気がついたら、こうなっていた。それに魔女の周りには死体があったが・・・」
腹をくくった獣人は言葉を詰まる。
「その死体にもあなたのようにいろんな体を繋げていたのね」
「ああ。俺もどうなるか分からなかった。だからすぐに逃げ出したんだ」
「魔女は何を考えているか分からないからね。逃げて正解」
「逃げたがいいが、昔のことは思い出せないし、思い出せたとしてもこの姿を受け入れてくれない」
「だから、霧が濃いこの山なら人間たちが近寄らないから、住んでいるわけね」
「もういいか」
「待って!あと一つ」
獣人は、あきれる顔をする。
「魔女の名前は?出来れば魔女名も」
「魔女名?」
「魔女名はその魔女が象徴する力ことよ」
魔女名は、魔女しか読めない魔女文字を使う。最古の魔女の1人、字綴の魔女マリカラ・ウィーンが発明したという。
「それは分からない。名前はユナとか言っていた」
「ユナ?聞いたこともないな。若い魔女かな」
「そうか・・・」
獣人は、残念そうな顔を見せる。
それはユナと呼ぶ魔女を退治されていないことになる。魔女は探しているかもしれないから、まだ安心はできないと獣人は感じただろう。
「もう十分に聞いたろ。明日はふもとまで案内する。もう寝ろ」
獣人は横になる。
「そういえば、名前聞いてなかった。私、白の聖女ジャンヌ・ダルク。あなたは?」
「言う必要がない」
「つれないわね」
ジャンヌも横になった。
「なんだ。ジャンヌ。そんなところにいたのか」
アキセは、工作の魔女コルン・コボルドの発明品『探しモノ地図』を使い、ジャンヌを探していた。
今は、山のふもとの町の宿で休んでいた。
古びた地図には、いくつものの生えた木の中の洞窟に矢印が指している。ここにいるのだろう。人指し指と親指を広げれば、洞窟を拡大する。
洞窟の中に2体。片方はジャンヌだろう。
もう片方は、誰だろうが。この地図は人に触れれば、相手の情報や姿さえも読み取れる。
アキセは地図に指を触れる。
姿は、人間ではない。合成獣のようだか、違う。獣人のようだ。
「たく。霧の中で困っていたら助けに行こうかなーって思っていたのになあ~。てか、なにこの獣」
人間の顔に狼の口。エルフの耳。腕は大猫の腕。足がオオトカゲの足。狐の尻尾。
どう考えても魔女が作った生き物だろう。
アキセは、獣が嫌い。獣の臭さと地位の低い生き物に知能を持ち、進化したことが気に食わない。
「気にくわねえ。なあ」




