つぎはぎの男①
「だめだ。迷った」
霧の中でジャンヌは迷い込んでいた。
昨日までは晴れていたが、山で野宿し、目を覚ましたら、霧が濃くなっていた。
だめもとで霧の中を歩くが、似たような風景ばかりで抜け出せない。
「どうしよう。『呪い』で作られた霧じゃないし・・・」
太陽や月から出る『光』が『呪い』を浄化し続けるため、『光』が届く限り、『呪い』で天気を操ることはない。地形の問題だろう。
いつ降りられるのかとジャンヌが困り果てた時だった。
すぐ横から黒い影がジャンヌに飛び込んできた。
「えっ?」
黒い影にジャンヌがぶつかり、転がる石のように転がっていく。
「わあああああああああああ」
やっと回転が納まった。
「も~、何よ・・・」
勢いよく回ったため、頭がふらつきながら、立ち上がる。
「それはこっちのセリフだ」
男の声がした。声をした先には、一緒に転がってきた男がいた。
体が大きいロープを着ており、顔は被りをしていたため見えないが、口先が狼だった。
「獣人?」
『呪い』の異形化した動物の一種。
動物の足が4本から2本に立ち、知能が発達し、人型に近い種族。だか、狼の獣人なら、足に鱗がついていないはず。
「ち、きやがった。」
獣人は視線を変え、警戒態勢を取る。
ジャンヌもロザリオで光の刃を作り、警戒する。
敵の正体が明らかになった。
「ムギリか」
ムギリ。
霧と一体化した魔獣。
霧と同じ色の真っ白い毛のウサギ。膝ほど大きさ。銀色の目。群れで行動する。魔族化の影響で、本来草食だったが、肉食へと変化した。霧しか現れることができないため、食欲に飢え、より狂暴化している魔獣。
獣人に3匹ほど襲いかかるが、獣人が爪を立て、迎え撃つ。真っ二つに引き裂いた先にまだ2匹ムギリが獣人の腕を噛みだす。それが合図となったのが、獣人にムギリが群がるように、襲いかかってくる。
ジャンヌにも4匹ほどムギリが襲いかかる。ロザリオを横に振り、白い炎を放つ。
白い炎は、ムギリを包む。ムギリの体に白い炎がつけ、唸り声を上げる。
ムギリは、魔獣で魔力を持っているため、『光』で浄化される。
苦しむムギリの声に、獣人にいたムギリが気付き、霧の中へと消えていった。
獣人は、疲れ切っているのか、膝をついていた。
「君、大丈夫?」
ジャンヌは、獣人の元へ駆けつける。
「え?」
獣人の右腕が大猫の腕だった。それによく見れば、足が狼の足ではなく、鱗をもったトカゲの足だった。尻尾は狼の尻尾よりどちらかと狐の尻尾だった。
「君…それって」
獣人は、手を伸ばしてくる。
すぐジャンヌの顔の横を通る。視線を向ければ、ジャンヌの後ろに1匹のムギリを掴んでいた。どうやら、後ろから来るムギリを獣人が気付いて、対応したのだろう。掴んだムギリの頭を潰す。
「ありがと…」
礼を言い切る前に獣人は、その場を去ってしまった。
「結局、あの獣人は何だったんだろ」
ジャンヌはまだ霧の中をさ迷っていた。あれからだいぶ時間が立った。あの獣人は普通ではなかった。
合成獣にしては、『呪い』が出でいなかった。
合成獣は、怪物の魔女エキドナ・キメライムから生まれた魔女の子供。魔女以外に『呪い』を生み出す。だか、あの獣人からは『呪い』が出でなかった。
ハーフにしても綺麗に生まれているような気がする。あと残すとしたらと考えていたら、白く濃かった霧が、徐々に薄く黒い色になっていた。もうすぐ夜になるという知らせだった。
「さすがにやばいな。どこかに休める場所ないかな」
ジャンヌは、休める場所を探していたところで洞窟を見つける。
「あそこで休むか」
洞窟の中へと入る。
「ん?」
洞窟の中は、たき火の跡や食べ物が置いており、生活感があった。
「ここって?」
背後から物音がした。振り返ると先程会った獣人が子鹿を担いでいた。
「あ!」
「あ!」
お互い同じ言葉を発した。
獣人は、すかさず逃げようとした。
「ちょ!待って!」
ジャンヌは呼び止める。
獣人は、その動作の勢いで頭に被っていた被り物が下ろされる。
「ヤバ!」
獣人は頭を押さえようとして、大猫の手が頭を押えるより先に被り物が下ろし、姿を現す。
後ろ姿でもただの獣人ではなかった。
頭は人間で、耳がエルフの耳だった。
「やっぱりあなたただの獣人じゃないわね」
獣人は、ジャンヌに振り向く。
顔が人間だが、口の部分が狼の口を糸で繋いでいる。




