10月31日①
日が南より傾いた頃、ジャンヌは森の中を歩いていた。
そういえば、今日は10月31日だった。
この日は町に入ってはいけない。
「今夜も野宿か。久しぶりに町でゆっくり休みたいのにな」
このところ野宿が続いており、疲れがたまっていた。宿のあるベッドでゆっくり眠り、疲れを取りたいと思いながら森から抜けた。
その先は、霧で先が全く見えないほどの濃さだった。昼までに霧が発生するものだろうか。
その時だった。
ジャンヌを囲むように黒い物体が現れた。
コウモリのような顔にトカゲのような体格。腕に翼をつけ、2本足で立っている獣。『呪い』により魔族化したコウモリの魔獣。カゲロウだった。
カゲロウは、魔獣には珍しくパンチや蹴りといった格闘技を使う。夜行性であり、特に日の『光』の抗体が低いので日中から現れない。
そんな魔獣が昼間から出でいる。
魔女ほど苦戦はしない。遠慮なく白い炎を放つ。カゲロウが白い炎に消えるが、次々にカゲロウが出現する。いくら浄化してもカゲロウが懲りずにジャンヌを襲う。魔獣にしてはしぶとい。
その時、目の前に町の門だけが、ジャンヌを出迎えるように立っていた。
「門?!まさか!」
門が開いた。
おそらくカゲロウは魔女に操られている。
今日はあの日。町に入れさせるつもりだ。魔女の想い通りにはさせない。
ジャンヌは門から離れるが、カゲロウがジャンヌに突進する。咄嗟に腕を出してガートし、カゲロウの攻撃を防ぐが、その勢いで背後へ飛んでしまう。
門はジャンヌを吸い込むように中へと入る。
「たく~あのカゲロウめ。殺す」
ジャンヌはカゲロウに飛ばされ、少し切れ気味で起き上がる。
「どこ?」
ジャンヌは見回たせば、町の中にいた。
周辺には町なんてなかった。あの門で転送されただろうか。
周囲を確かめる。
家のあちこちにランタンやレースなどで飾り付け、カボチャやカブに穴を空け、人の顔を想わせる作りで置物として家の前に設置している。
子供たちは、オバケや獣などに変装をして、家を回り、お菓子をもらっている。
どうやら祭りで騒いでいるようだ。
「罠にはまっちゃった」
大きくため息をした時だった。
「なんだ、おまえも来ていたのか」
聞いたことがある声でジャンヌは振り返る。
黒い髪と目の優男。黒いロングコートで全体的に黒を基調とした服。中指に指輪がつけている。アキセ・リーガンが立っていた。