第9話「戦闘」
「いやあああああ!!」
私は叫んだ。
「た、立つんだ、マルテ! マルテッ!!」
足が動かない。
すくんで、立ち上がることができない!!
や、やだ……
こっちにくる……こっちにくる!!
「くっ……”炎の精霊よ、顕現せよ!!”」
ルゥが炎の精霊を作り出し、リビングデッドへと投げつける。
だが、やつらはひらりとそれを躱した。
すぐさま、こちらを捉える。一直線に、こちらにやってくる。
「くっ……マルテ、僕の後ろに隠れて!!」
ルゥが立ちふさがる。
彼が盾に……私は……私は。
”……どうした? 魔法使いになって、認められたいんじゃなかったか? その程度なのか、君の決心は”
私の中のミイス王女が語り掛ける。
私は立ち上がった。
「”大地の剣よ、切り裂け!!”」
地面から壁から、無数の刃が飛び出る。
「ギャアアアアアッッ!!」
およそ動物とは思えない悲鳴と共に、リビングデッドは八つ裂きになった。
体がバラバラと崩れ去り、地面に落ちると、土くれとなって消えた。
「ハア、ハア……」
倒した。
体が震える。
初めての戦闘が、こんなに恐ろしいものだなんて……
「マ、マルテ……ありがとう、助けてくれて」
「え? う、ううん。私のほうこそ、ありがとう……」
二人で手をつないだ。
無事を確かめ合い、心底ほっとする。
「マルテ。やっぱり戻ろう。こんな怪物が出るなんて、僕たちの手に負えない」
「う、うん」
私ももう、奥に行く気にはなれなかった。
冒険は十分した。
あとはお父様に報告し、ここに兵隊たちを呼ばないと……
「”大地の胎よ、混沌と化せ”」
その声は、地獄の底から響いてくるようだった。
その瞬間、洞穴の奥から闇が広がり、一瞬で私たちの歩いてきた道を染め上げた。
「な、なんだこれ……! ま、魔法……!?」
「み、道が消えちゃった……!!」
声の主は続ける。
”逃がすものか……せっかくここまで生き延びて……もう少しで……力を取り戻せるのに……絶対に……絶対に……”
「だ、誰!?」
”食いつくしてやる……肉も……骨も……魔力も……魂も……二度とよみがえることのないよう、欠片も残さず消化してやる……”
「マ、マルテ……行くしか、ないみたいだ……」
「うん……!」
背後の空間には、闇が広がっている。
目の前の道だけが、誘うように奥へと続いていた。
光の精霊の明かりを頼りに、二人で手をつなぎながら歩く。
”殺す……殺す……殺す……殺す……”
その間も、ぶつぶつと呪詛のようなつぶやきがずっと聞こえていた。
「こ、ここは……!?」
やがて私たちは、一際広い空間に躍り出た。
光の精霊の明かりが上まで届かない。とても地下とは思えなかった。
”ここは、祭壇”
「祭壇……!?」
”あの方が姿を隠されて以来……ずっと、ずっと……祈り続けてきた。再びまみえるように。また手を取ってもらえるように……”
「マルテ、あそこ……!!」
ルゥが奥を指し示す。
そこに向けて、光の精霊を飛ばした。
「それまでは、決して誰にも邪魔させない」
二つの大きな目が、私たちを見ていた。
「”炎の柱よ、立て”」
地面に急速に膨らんだ魔力の気配を感じた。
私は即座に魔法を唱えた。
「”み、水の盾よ、守れ!!”」
私たちを水のカーテンが包む。
直後、地面より発生した火炎が、水の盾と衝突した。
魔法は打ち消しあい、周囲を熱い蒸気が包んだ。
「こ、こいつ!! 魔法使いだ!!」
ルゥが叫ぶ。
その間にも、洞穴の主は次の魔法を唱えている。
「”風の刃よ、刻め”」
耳をつんざく轟音を立てながら、不可視の刃が私たちに迫る。
「”炎の柱よ、立て!!”」
爆音とともに炎が噴出し、風の刃を飲み込んだ。
よし、戦える……! 次は、こちらからも攻撃魔法を……!
「”大地の剣よ、切り裂け!!”」
「”……土の精霊よ、還元せよ”」
その瞬間、私の作り出した大地の剣は、ぐにゃりと歪み、泥へと戻った。
「えっ!? な、なんで!?」
手ごたえはあった。間違いなく魔法は成功したはずなのだ。
だが、結果は失敗したときの魔法と似ていた。
「”炎の槌よ、潰せ”」
私がうろたえている間にも、やつの追撃はやまない。
「ま、まずい、マルテ!! ”土の精霊よ、顕現せよ!!”」
ルゥが私の前に出る。
無数の土の精霊が出現し、炎の槌を防ぐ壁となった。
間一髪、ルゥの魔法により、私たちは難を逃れた。
「お願い、”大地の剣よ、切り裂け!!”」
再び攻撃を試みる。
だが、またしてもやつが怪しげな呪文を唱えた後、剣は土へと還った。
「だ、駄目だマルテ!! やつのほうが魔法使いとして上手だ!! このままじゃ勝てない!!」
「そんな、そんなこと言ったって……!!」




