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第6話「おまじない」

 ルゥと出会ってから半年ほどが経過した。

 あれから彼はめきめきと腕を上げ、光、炎、風、水、土の精霊を呼び出せるようになったのだ。これで基本属性の精霊はすべてマスターしたことになる。”ミイス魔導物語”で言えば、一巻のちょうど真ん中くらいの内容だ。


 だが、上達したのは彼だけではない。


「……”大地の剣よ、切り裂け!!”」


 唱えた瞬間、地面から伸びた鋭い切っ先が、木になっている実を切り落とした。


「す、すごい、マルテ! 成功だよ!」


「へっへ~ん」


 ふんぞり返って鼻を高くする。

 ルゥがパチパチと拍手した。


 今私が使ったのは、”大地の剣”。土属性の攻撃魔法だ。

 ”ミイス魔導物語”で言えば、一巻の終わりに登場する魔法だ。ミイス王女はこの魔法で、街を襲撃した魔物を退治してしまうのだ。


 もちろん、これだけではない。ルゥがマスターした基本属性の精霊はもちろん、”炎の柱”、”水の盾”が使える。これらはすべてミイス王女が一巻で使ったものだ。


 使える魔法が増えるとともに、魔力量も増えていった。いや、増大した、といった方がいいかもしれない。


 魔法の威力を調節するテクニックを覚えて以来、魔力は加速度的に増えていったのだ。あの時は大きな炎の精霊を十回出すのが精いっぱいだったのが、今は百回出しても尽きることはない。むろん、あの時よりはるかに大きな炎の精霊を呼び出すこともできる。


 それというのも、ルゥがいたおかげだと思う。

 彼は私の予想以上に魔法の習得が早かった。彼に追い抜かれまいと、私は必死で魔法を練習した。

 そのかいあって、”ミイス魔導物語”第一巻の修了を達成できたといえるだろう。


 ……だが、今日はこれだけで終わるつもりはない。

 ”ミイス魔導物語”第二巻で、彼女は早くも離れ業を成功させている。それは、”二つの属性を組み合わせた魔法を使う”ということだ。


 意識を集中させ、目標をにらみつける。

 狙うは、木そのもの。”炎の柱”と”大地の剣”を組み合わせ、大木を倒して見せる……!!


「……”灼熱の剣よ、切り裂け!!”」


 地面を破り、赤熱した大地の剣が、大木を一刀両断――……するかと思われたが、木に到達する寸前に、剣の先端はへにょん、と地面に向かって折れ曲がった。そのまま地面に倒れこみ、粘土質の土が私とルゥに降りかかった。


 私とルゥは泥だらけになった。


「……失敗だね」


 ルゥの声が重くのしかかる。

 私は悔しさにぶるぶると体を震わせた後――


「あーもう! なんでうまくいかないのお!? ミイス王女は一発で成功させてたのに!」


 大きく伸びあがった後、ばたりと仰向けにルゥの膝に倒れこんだ。

 彼が優しく受け止めてくれる。


「しょうがないよ。僕たちはまだ子供だし、ミイス王女は天才だしさ。大人でもこんな魔法、使える人はめったにいないと思うよ」


「そーなんだけどさー……私だってさー……」


 ……少なくともここまでは、一度の挫折もなくやってきたのだ。

 それが急に壁にぶち当たったもんで、しばらく悶々としている。

 おかげで先が気になっているのに、”ミイス魔導物語”もなかなか読み進められてない。


「うーん……あともう少しって感じなんだけどな……なんか、自分の中で炎と土が上手くかみ合わないというか……」


「ちょっと、別の方向で進めてみたら? もう一度前の魔法をおさらいしてみるとか」


「そんなこと、ずっとやってるよ! もう一巻なんて、50回は読み返したんだから!」


「あはは、すごっ」


 のんきなルゥの笑い声を背に、空を見上げる。

 雲はゆっくりと空を流れていた。


「”静寂の風よ、彼女の心を静めてください……”」


 ふと、ルゥがつぶやくのを聞いた。


「……? なにそれ? そんな魔法、あったっけ?」


「ああ、これは魔法じゃないよ。おまじない。昔、泣いてる僕にお母さんがよくやってくれたんだ」


「……ふうん」


「マルテの心が落ち着けばなって思って」


「そっかー……」


 ただのおまじないか。ルゥが私の知らない魔法を知ってると思ってびっくりしたんだけど。

 ……でも、なんか不思議だ。本当に心が穏やかになってきた気がする。

 あー、ルゥの膝、気持ちいい。なんか眠くなってきちゃった……

 すやぁ……



***



 ある時、私とルゥが休憩がてら散歩していると。


「あーっ! 魔法使いの女!」


 この前ルゥをいじめていた子たちに、ばったりと遭遇した。

 思わず身構えるルゥ。

 私は後ろ手に彼を隠した。

 大丈夫、何があっても、私が守ってあげる……


 ……と思ったが、どうにも様子がおかしい。

 私たちを見ながら、こそこそと話し合っている。

 いきなり襲い掛かってきたりはしないようだ。

 どうしたというのだろう?


「な、なあ、お前たち、知らないか!?」


 と思ったら、三人のうちの一人が血相を変えて近づいてきた。


「俺んちのダグが、ずっと帰ってきてないんだ!!」


 私とルゥは顔を見合わせた。

 話を聞いてみると、どうやら彼の家で飼われている動物が帰ってこないというらしい。

 ダグというのは、地面に絵を描いてもらったところ、犬のような動物だとわかった。どこの世界にも、人類の相棒となる動物はいるらしい。


 ともあれ、大事な家族の一員が居なくなったのだ。

 彼が私たちに縋りつくのもわかる。

 私たちはこの前のことは目をつぶり、協力してあげることにした。


「ルゥ、見かけたりした?」


「ううん、見てない。ゼドの家のダグは知ってるけど……」


 そりゃそうだよね。

 ここ最近、ルゥは私とずっと一緒にいた。

 私が知らないなら、ルゥも知らないだろう。

 八方ふさがりか、と思った矢先、ダグを失くしたゼド君が震えだした。


「や、やっぱりあいつの仕業だ……」


「あいつ?」


「知らないのか!? 西の森の、『ランゴリア』だよ!」


「ランゴリア?」


 なにそれ。また異世界の珍奇な動物か。


「知らないの? マルテ」


 と、ルゥが話しかけてきた。

 どうやら彼は知っているらしい。

 というか、この場で「ランゴリア」が何かわからないのは、私だけのようだった。


「ランゴリアっていうのはね、ここら辺の子供の噂話に出てくる怪物なんだ」


「噂じゃないよ! 半年前にだって、隣の家のダグがいなくなったんだ! 夜中に西の森に黒い影が歩いていくのを見たやつだっている!」


「へええ……」


 ちょっと怖いけど、ちょっと面白い。

 日本での生活と、お屋敷周辺の世界しか知らない私には、大いに好奇心を刺激される話だった。

 なんとなく、うずうずする。


「ゼド、大人には相談したの? ダグがいなくなったこと」


「したよ! でも大人はまともに取り合ってくれないんだ! お父さんやお母さんだって、そのうち帰ってくるって……」


 その時、ゼド君はハッと何かに気付いたように私を見た。


「な、なあ! 一緒に探しに行ってくれないか!? 西の森に、ダグを探しに! 魔法使いのお前なら、探し物を見つける魔法とか、あるだろ!?」

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