第34話「共鳴」
「すごい魔力だ。君、本当に子供かい……?」
彼が興味深そうにささやいた。
だが、私は関心を通り越して驚愕していた。
(そのセリフは、私の方だよ……!!)
いったいなんだ。この魔力の量は。質は。
今まで触った誰よりも、研ぎ澄まされた鋭さがある。
この子、多分、ルゥよりも、私よりも……いや、ひょっとしたらギルギスタよりも魔法に長けているのではないのか!?
私にそう思わせるほど、とめどなく押し寄せる大海の波のように魔力が流れ込んできていた。
(こ、こんな人、あり得るの……!?)
どう見ても私と年はそんなに離れてないのに。
これほど強力な魔力を持つなんて。
こんな人物、おとぎ話でしか……それこそ、ミイス王女くらいしか思いつかない。
恐れおののく私に、ルカは畳みかけた。
「やっぱり。君と僕の魔力は、とても相性が良いみたいだ。ほら、こうやって押し込むと、僕の魔力に合わせて、君の魔力も形を変えるよ……」
「うううう……!?」
彼の言うとおりだった。私の魔力は、彼の魔力に合わせてぴったりと形を変えた。まるで自分の魔力であるかのように違和感がない。
「とっても心地いいだろう? 魔力による繋がりは、深層意識の繋がりよりも深い。抗いがたい感覚があるはずだ」
「ダメ、ダメ……!!」
「さあ、君の知っていることを話してごらん……」
蜜のように甘い囁きだった。
ルカ君の顔が近づく。唇同士が触れそうなほど迫った時だった。
私は咄嗟に、胸に閃くペンダントを見た。
「だ、ダメだよッッ!!」
「うッ!?」
私は彼を突き放した。
魔力の道が断たれ、恍惚とした感覚が去っていく。
ルカは意外そうに私を見た。
「こ、この学院の秘密は……自分で調べないといけないんだから……そういうルールなんだよ!」
それだけ言い、私は彼から離れた。
頬が赤くなっているのを自覚する。
彼に顔を見られたくない。
「さ、さよなら!」
走り去る私を、彼は追いかけてこなかった。
心臓の高鳴りが収まらない。
家に帰った後、食事中にギルに話しかけられる。
「お嬢様? どうかしましたか?」
普段は黙々と食べているのに、私の様子が気になったようだ。
私はよっぽど落ち着かない様子に見えたのか。
「な、なんでもないよ! ご、ご飯おいしいね!」
「……? はあ。左様ですか」
ギルはそれ以上追及してこなかった。
食事の後は部屋にこもりきりだった。
胸は未だに高鳴ったままだ。
この感覚は、いったい何……!?
***
翌日の学校。
ルカは平然とした顔で登校していた。
相変わらず女子生徒に囲まれている。
彼をチラリと盗み見ると、目ざとく視線を投げ返された。
私は思わず顔をそらした。
体が熱い。
「どうしたの? マルテちゃん」
隣にいるアルトが話しかけてきた。
「べ、別に何も……」
「そう? 昨日から様子がおかしいよ、マルテちゃん。もしかして昨日、ルカ君と何かあったの?」
「そ、それっ!! 俺も聞きたい!!」
バルツまで話に加わってきた。
「ほ、本当に何もないよ。校舎を案内して、そのあと普通にお別れしただけ……」
言いながら、断じてあれは普通ではなかったと思う。
あんな濃密な魔力の接触など……ルゥ以外では初めてだ。
まさかあんな感覚を味わうとは……
アルトとバルツは心配そうにしながらも、それ以上何も言わなかった。
そしてまた放課後が訪れる。
私はドキドキしていた。
また、彼が私のところに来るのではないか……
そしてその時は来た。
彼が近づいてくる。
取り巻きを押しのけ、私の席へと……
「マルテ君!」
意表を突かれた。
教室に残っている全員がそちらを見る。
滅多に下級生の教室に訪れないはずの人物がそこにいた。
「ホ、ホルス……」
呆気にとられる私たちに、ホルスは近づいてきた。
彼は穏やかな顔をしていた。
「マルテ君。アルト君たちと一緒に、ちょっと生徒会の手伝いをしてくれないか」
「えっ? い、いいですよ?」
私ではなく、アルトが答えた。
ホルスは私の手を取った。
そのままアルトやバルツたちと教室を出る。同じ魔法同盟のメンバーのマークも教室を出るのを見た。
ルカ君は、笑みを浮かべたまま私たちを見ていた。
「”蜃気楼の風よ、幻惑せよ”」
人目が切れるなり、ホルスが魔法を放った。
初めて見る魔法だが、どうやら光と風の合成魔法で、魔力の痕跡を消すことがわかった。
「ど、どうしたんですか? 急に?」
バルツが訊いた。
「説明している暇はない。とにかく、秘密の部屋へ」
私たちは地下に隠された魔法同盟の秘密の部屋に駆け込んだ。
中に入ると、すでに魔法同盟の面々が全員そろっていた。
私たち以外は、全員険しい顔をしている。
「これは一体……何かあったんですか?」
アルトがホルスに聞いた。
ホルスは秘密の部屋の扉を閉じると、全員に向き合った。
懐から球体のようなものを取り出す。
球体の内部には、歯車が複雑に組み合わさったような不思議な仕掛けが施されている。
「そ、それは?」
バルツが訊いた。
「これは、闇の羅針盤。ある特殊な魔力に反応して、針が回りだす魔道具だ」
その言葉にどきりとした。
特殊な魔力。それは、もしかして……
「この街、いや……この学院で、闇の魔導を使った者がいる」




